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ひだまりの日々(東弥side)
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「…ん、西くん 」
「ん…どうしたの?静留。おはよ。」
高い声とともに身体を揺すられ、東弥は目を開いた。
目の前で静留が目を爛々と輝かせている。
静留と生活を始めて半月ほどが経過したが、朝起こされたのははじめてだ。
「おはよう、西くん!」
花開くような優しい笑顔で、呼ぶ名前は兄の名前。東弥は胸に痛みを覚えながらも、横から抱きついてきた静留の身体を抱き止める。
さらさらの髪を撫でてやると、静留は猫のように気持ちよさそうに目を閉じた。
「それで、どうしたの?何かいいことでもあった?」
“あ、そうだった!”、と静留が閉じていた目をぱっと目を見開き、再びキラキラとした眼差しで東弥の瞳を覗き込む。
「うん!あのね、チューリップが咲いたの!」
__…チューリップ?ああ、そういえば窓から小さな花壇が見えていたような…。
「そっか、嬉しいね。何色だった?」
「えっとね、赤と白と黄色!と…西くんも、いっしょに見にいこう?」
“まただ”、と静留の言葉を聞いて東弥は少しやるせない気持ちになった。
「…いいね。支度をするから少しだけ下で待っていてくれる?」
「うん!」
最近静留は、西弥の名前をよく言い間違える。
彼が西弥の名を呼ぶ前に“と”、と発すると、自分ではやはり代わりにはなれないのだろうかと東弥は複雑な気持ちになる。
本当は自分と一緒にいるとき、静留は無理しているのではないだろうか。
考え始めると負の連鎖に陥りそうだったので、東弥は頭を真っ白にして着替えを始めた。
「お待たせ。」
東弥の声で静留が振り返る。
ピアノの椅子に座っていなかったので慌てて探したが、静留は玄関先で靴を履いて、足をぶらぶらとさせていた。
小さく鼻歌を歌っているところが愛らしい。
「行こうか。」
「うん。」
手を差し伸べると、自然にぎゅっとつないでくる。
ドアを開けると、一気に春一番が身体を撫でた。
「あのね、こっち!」
静留にぐいぐいと手を引かれ、花壇まで連れて行かれる。
昨日まで緑色だった花壇は、たしかに赤、白、黄に彩られていた。
「きれいだね。」
「うん。」
声をかけると、しゃがんでチューリップの花と目線を合わせていた静留が振り返らずにうなずく。
花をじっと見つめる彼の澄んだ瞳の方がもっと綺麗だ、と、柄にもないことを思ったが、言うのはやめておく。
しばらくチューリップを見つめていると、静留の中指に黄色い蝶々が止まった。
彼はすっと立ち上がり、太陽に向かってその手を伸ばす。
そしてその体勢でじっと、蝶が飛び立つのを見送った。
光に照らされた白い肌や長い睫毛、風に靡く髪などがあまりに絵画的で、彼がどこかに行ってしまいそうだと錯覚し、東弥は思わず繋いだ手を強く引く。
「…?」
静留は振り返り、不思議そうに首を傾げた。
「そろそろ帰ろうか。」
東弥が慌てて理由を付け足すと、彼は可憐に笑ってうなずく。
「うん。弾きたくなっちゃった。」
「先に朝食。」
「一曲だけ。」
すがるように見つめられては、断れない。
「…一曲だけ、ね。」
そうして家に帰って、手を洗うと東弥は食事をテーブルに並べた。
リビングから春らしい音楽が聞こえてくる。
明るく陽気な春の歌。けれど静留が弾くと、どこか美しく聞こえた。
無垢な彼らしい、邪念のない美しい音。
蝶を見送るために光に手をかざした、彼の姿が目に浮かぶようだった。
「ん…どうしたの?静留。おはよ。」
高い声とともに身体を揺すられ、東弥は目を開いた。
目の前で静留が目を爛々と輝かせている。
静留と生活を始めて半月ほどが経過したが、朝起こされたのははじめてだ。
「おはよう、西くん!」
花開くような優しい笑顔で、呼ぶ名前は兄の名前。東弥は胸に痛みを覚えながらも、横から抱きついてきた静留の身体を抱き止める。
さらさらの髪を撫でてやると、静留は猫のように気持ちよさそうに目を閉じた。
「それで、どうしたの?何かいいことでもあった?」
“あ、そうだった!”、と静留が閉じていた目をぱっと目を見開き、再びキラキラとした眼差しで東弥の瞳を覗き込む。
「うん!あのね、チューリップが咲いたの!」
__…チューリップ?ああ、そういえば窓から小さな花壇が見えていたような…。
「そっか、嬉しいね。何色だった?」
「えっとね、赤と白と黄色!と…西くんも、いっしょに見にいこう?」
“まただ”、と静留の言葉を聞いて東弥は少しやるせない気持ちになった。
「…いいね。支度をするから少しだけ下で待っていてくれる?」
「うん!」
最近静留は、西弥の名前をよく言い間違える。
彼が西弥の名を呼ぶ前に“と”、と発すると、自分ではやはり代わりにはなれないのだろうかと東弥は複雑な気持ちになる。
本当は自分と一緒にいるとき、静留は無理しているのではないだろうか。
考え始めると負の連鎖に陥りそうだったので、東弥は頭を真っ白にして着替えを始めた。
「お待たせ。」
東弥の声で静留が振り返る。
ピアノの椅子に座っていなかったので慌てて探したが、静留は玄関先で靴を履いて、足をぶらぶらとさせていた。
小さく鼻歌を歌っているところが愛らしい。
「行こうか。」
「うん。」
手を差し伸べると、自然にぎゅっとつないでくる。
ドアを開けると、一気に春一番が身体を撫でた。
「あのね、こっち!」
静留にぐいぐいと手を引かれ、花壇まで連れて行かれる。
昨日まで緑色だった花壇は、たしかに赤、白、黄に彩られていた。
「きれいだね。」
「うん。」
声をかけると、しゃがんでチューリップの花と目線を合わせていた静留が振り返らずにうなずく。
花をじっと見つめる彼の澄んだ瞳の方がもっと綺麗だ、と、柄にもないことを思ったが、言うのはやめておく。
しばらくチューリップを見つめていると、静留の中指に黄色い蝶々が止まった。
彼はすっと立ち上がり、太陽に向かってその手を伸ばす。
そしてその体勢でじっと、蝶が飛び立つのを見送った。
光に照らされた白い肌や長い睫毛、風に靡く髪などがあまりに絵画的で、彼がどこかに行ってしまいそうだと錯覚し、東弥は思わず繋いだ手を強く引く。
「…?」
静留は振り返り、不思議そうに首を傾げた。
「そろそろ帰ろうか。」
東弥が慌てて理由を付け足すと、彼は可憐に笑ってうなずく。
「うん。弾きたくなっちゃった。」
「先に朝食。」
「一曲だけ。」
すがるように見つめられては、断れない。
「…一曲だけ、ね。」
そうして家に帰って、手を洗うと東弥は食事をテーブルに並べた。
リビングから春らしい音楽が聞こえてくる。
明るく陽気な春の歌。けれど静留が弾くと、どこか美しく聞こえた。
無垢な彼らしい、邪念のない美しい音。
蝶を見送るために光に手をかざした、彼の姿が目に浮かぶようだった。
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