朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花

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さよならとこれから(東弥side)

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腕の中でスイッチが切れるようにして眠ってしまった静留を椅子に座らせて、東弥はほっとため息をついた。

「…あ、和泉くんやっぱり寝ちゃいましたか?」

ステージ側から梨花が入ってきて、“ああいつものね”、という調子で言う。

「ええ。

あの、今日は聴かせてくれてありがとうございました。…すごかった。」

「どういたしまして。

和泉くん、顔出しはしていないしコンクールの受賞歴もほとんどないのに、チケットは毎回即売り切れなんですよ。本物って本当にいるんだって、初めて聴いたときに私、感動しちゃって。」

梨花がこんなにもキラキラと目を輝かせていう理由も、あの音を聞いた後だから納得できた。

「俺も感動しました。
…あ、俺やります。」

静留の身体を起こそうとする梨花を止め、お姫様抱っこの形で持ち上げる。

「ありがとうございます。」

「このくらいなんでもないですよ。」

いくら静留が軽くても、女性の力で持ち上げるのは困難だ。

それに本音を言うと、彼に触れるのが自分でありたいという欲望もある。

梨花の指示で裏口から静留を車まで運び、そのまま東弥も梨花の車に乗り込んだ。

「そういえば、静留と兄はパートナーだったのでしょうか?」

帰りの車の中、ふと気になって聞いてみる。

西弥は身体が弱くて、その上Cランクだったから静留にglareは効かないはずだ。

かといって静留はすでに第2性に左右される年頃で。

「パートナーではありませんでしたが、…多分、日常生活の中で食事やお風呂の命令をされたり、あとはピアノの指導とかで第2性が満たされているんじゃないかって、真鍋先生は言っていました。

先生自身も、誰ともプレイをせずに普通に過ごしていましたから。」

「なるほど…。」

そういう話は聞いたことがないが、Domが命令しSubが従うという行為で第2性が満たされることを考えると、確かに納得のいく考え方だ。

兄と静留がそういう関係でなかったことに安心する反面、その行為で自分の第2性が満たされるのかという懸念が募る。

東弥の不安を心の内を察してか、梨花はそれきり何も言わなかった。

家に着くと、静留をベッドまで運び、東弥も少し疲れてベッドに横になると、そのまま流れるように眠ってしまった。





明るく温かいピアノの音で東弥は目を覚ました。

随分長く眠っていたような気がしたが、時計を見るとまだ6時だった。4時にコンサート会場を出たから、ちょうど1.2時間眠っていた計算になる。

__…それにしても、この音。

階段を降りてピアノ弾く静留の姿を確認して、不思議な心地だった。

先ほどのコンサートであんなにも切ない音色を奏でていたのに、今度はこんなにも温かい音を出すなんて。

その音色は明るく温かく優しく、聴いていると、不思議と聴いていると自分がありがとうと言われているような気分になる。

静留の近くまで歩いていくと、珍しく彼が東弥に気が付き振り返った。

「おはよう。と……西くん。」

静留はそのまま可憐にピアノの椅子を降りると、ぎゅっと東弥に抱きついてくる。

いつも西弥にしていたのだろうか。

東弥は少し驚きつつもその身体を優しく抱きしめ、長い髪を緩く梳いた。

「おはよう、静留。…って、もう夕方だけど。
ご飯作るから、お風呂入っておいで。」

帰りの車で梨花に聞いたことを思い出し、静留の顎に指を添えて顔を持ち上げ、軽いglareを放ちながら指示してみる。

「うん…。」

静留は一瞬寂しそうに目を伏せたが、結局頷いてバスルームへと歩みを進めた。

__なるほど、少し満たされた気がする。

欲求不満が少し改善したことに驚きながら、東弥は食事の用意を始めた。

__今日はたくさんがんばっていたから、静留が好きだと言っていたグラタンにしよう。
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