12 / 92
さよならとこれから(東弥side)
しおりを挟む
腕の中でスイッチが切れるようにして眠ってしまった静留を椅子に座らせて、東弥はほっとため息をついた。
「…あ、和泉くんやっぱり寝ちゃいましたか?」
ステージ側から梨花が入ってきて、“ああいつものね”、という調子で言う。
「ええ。
あの、今日は聴かせてくれてありがとうございました。…すごかった。」
「どういたしまして。
和泉くん、顔出しはしていないしコンクールの受賞歴もほとんどないのに、チケットは毎回即売り切れなんですよ。本物って本当にいるんだって、初めて聴いたときに私、感動しちゃって。」
梨花がこんなにもキラキラと目を輝かせていう理由も、あの音を聞いた後だから納得できた。
「俺も感動しました。
…あ、俺やります。」
静留の身体を起こそうとする梨花を止め、お姫様抱っこの形で持ち上げる。
「ありがとうございます。」
「このくらいなんでもないですよ。」
いくら静留が軽くても、女性の力で持ち上げるのは困難だ。
それに本音を言うと、彼に触れるのが自分でありたいという欲望もある。
梨花の指示で裏口から静留を車まで運び、そのまま東弥も梨花の車に乗り込んだ。
「そういえば、静留と兄はパートナーだったのでしょうか?」
帰りの車の中、ふと気になって聞いてみる。
西弥は身体が弱くて、その上Cランクだったから静留にglareは効かないはずだ。
かといって静留はすでに第2性に左右される年頃で。
「パートナーではありませんでしたが、…多分、日常生活の中で食事やお風呂の命令をされたり、あとはピアノの指導とかで第2性が満たされているんじゃないかって、真鍋先生は言っていました。
先生自身も、誰ともプレイをせずに普通に過ごしていましたから。」
「なるほど…。」
そういう話は聞いたことがないが、Domが命令しSubが従うという行為で第2性が満たされることを考えると、確かに納得のいく考え方だ。
兄と静留がそういう関係でなかったことに安心する反面、その行為で自分の第2性が満たされるのかという懸念が募る。
東弥の不安を心の内を察してか、梨花はそれきり何も言わなかった。
家に着くと、静留をベッドまで運び、東弥も少し疲れてベッドに横になると、そのまま流れるように眠ってしまった。
明るく温かいピアノの音で東弥は目を覚ました。
随分長く眠っていたような気がしたが、時計を見るとまだ6時だった。4時にコンサート会場を出たから、ちょうど1.2時間眠っていた計算になる。
__…それにしても、この音。
階段を降りてピアノ弾く静留の姿を確認して、不思議な心地だった。
先ほどのコンサートであんなにも切ない音色を奏でていたのに、今度はこんなにも温かい音を出すなんて。
その音色は明るく温かく優しく、聴いていると、不思議と聴いていると自分がありがとうと言われているような気分になる。
静留の近くまで歩いていくと、珍しく彼が東弥に気が付き振り返った。
「おはよう。と……西くん。」
静留はそのまま可憐にピアノの椅子を降りると、ぎゅっと東弥に抱きついてくる。
いつも西弥にしていたのだろうか。
東弥は少し驚きつつもその身体を優しく抱きしめ、長い髪を緩く梳いた。
「おはよう、静留。…って、もう夕方だけど。
ご飯作るから、お風呂入っておいで。」
帰りの車で梨花に聞いたことを思い出し、静留の顎に指を添えて顔を持ち上げ、軽いglareを放ちながら指示してみる。
「うん…。」
静留は一瞬寂しそうに目を伏せたが、結局頷いてバスルームへと歩みを進めた。
__なるほど、少し満たされた気がする。
欲求不満が少し改善したことに驚きながら、東弥は食事の用意を始めた。
__今日はたくさんがんばっていたから、静留が好きだと言っていたグラタンにしよう。
「…あ、和泉くんやっぱり寝ちゃいましたか?」
ステージ側から梨花が入ってきて、“ああいつものね”、という調子で言う。
「ええ。
あの、今日は聴かせてくれてありがとうございました。…すごかった。」
「どういたしまして。
和泉くん、顔出しはしていないしコンクールの受賞歴もほとんどないのに、チケットは毎回即売り切れなんですよ。本物って本当にいるんだって、初めて聴いたときに私、感動しちゃって。」
梨花がこんなにもキラキラと目を輝かせていう理由も、あの音を聞いた後だから納得できた。
「俺も感動しました。
…あ、俺やります。」
静留の身体を起こそうとする梨花を止め、お姫様抱っこの形で持ち上げる。
「ありがとうございます。」
「このくらいなんでもないですよ。」
いくら静留が軽くても、女性の力で持ち上げるのは困難だ。
それに本音を言うと、彼に触れるのが自分でありたいという欲望もある。
梨花の指示で裏口から静留を車まで運び、そのまま東弥も梨花の車に乗り込んだ。
「そういえば、静留と兄はパートナーだったのでしょうか?」
帰りの車の中、ふと気になって聞いてみる。
西弥は身体が弱くて、その上Cランクだったから静留にglareは効かないはずだ。
かといって静留はすでに第2性に左右される年頃で。
「パートナーではありませんでしたが、…多分、日常生活の中で食事やお風呂の命令をされたり、あとはピアノの指導とかで第2性が満たされているんじゃないかって、真鍋先生は言っていました。
先生自身も、誰ともプレイをせずに普通に過ごしていましたから。」
「なるほど…。」
そういう話は聞いたことがないが、Domが命令しSubが従うという行為で第2性が満たされることを考えると、確かに納得のいく考え方だ。
兄と静留がそういう関係でなかったことに安心する反面、その行為で自分の第2性が満たされるのかという懸念が募る。
東弥の不安を心の内を察してか、梨花はそれきり何も言わなかった。
家に着くと、静留をベッドまで運び、東弥も少し疲れてベッドに横になると、そのまま流れるように眠ってしまった。
明るく温かいピアノの音で東弥は目を覚ました。
随分長く眠っていたような気がしたが、時計を見るとまだ6時だった。4時にコンサート会場を出たから、ちょうど1.2時間眠っていた計算になる。
__…それにしても、この音。
階段を降りてピアノ弾く静留の姿を確認して、不思議な心地だった。
先ほどのコンサートであんなにも切ない音色を奏でていたのに、今度はこんなにも温かい音を出すなんて。
その音色は明るく温かく優しく、聴いていると、不思議と聴いていると自分がありがとうと言われているような気分になる。
静留の近くまで歩いていくと、珍しく彼が東弥に気が付き振り返った。
「おはよう。と……西くん。」
静留はそのまま可憐にピアノの椅子を降りると、ぎゅっと東弥に抱きついてくる。
いつも西弥にしていたのだろうか。
東弥は少し驚きつつもその身体を優しく抱きしめ、長い髪を緩く梳いた。
「おはよう、静留。…って、もう夕方だけど。
ご飯作るから、お風呂入っておいで。」
帰りの車で梨花に聞いたことを思い出し、静留の顎に指を添えて顔を持ち上げ、軽いglareを放ちながら指示してみる。
「うん…。」
静留は一瞬寂しそうに目を伏せたが、結局頷いてバスルームへと歩みを進めた。
__なるほど、少し満たされた気がする。
欲求不満が少し改善したことに驚きながら、東弥は食事の用意を始めた。
__今日はたくさんがんばっていたから、静留が好きだと言っていたグラタンにしよう。
0
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる