朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花

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送葬のコンサート④(静留side)

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“静留、僕がいなくなったら静留のこの曲で送ってほしい。約束してくれる?”

西弥は静留を膝の上に乗せ、この曲を弾きながら優しく問いかけた。

静留はその意図がわからず、ただ約束という言葉に反応して頷いて。

静留が頷くのを見てありがとうと言った、西弥の微笑みは何故だか寂しそうだった。

幼い頃の記憶。

曲の前半、何故だかその日の記憶だけが弾き進めるごとに鮮明になっていく。

そして曲が最も盛り上がりを見せた瞬間、梨花に何度言われても受け入れられずにいた事実を、静留は唐突に理解した。

西弥は、もういない。

きっとこの曲は、西弥の魂の葬送だ。あの日の約束はそういうことで、このコンサートは、西弥を送り出すために、西弥の好きだった曲と約束の曲だけでプログラムされていて…。

__じゃあ、この曲を弾き終わったら…。

ふと考える。

弾き終わったら本当の意味で、西弥とのお別れな気がした。

だからと言って途中で引くのをやめるのも、曲を引き延ばすのも違う気がする。

約束したのなら、ちゃんとやり遂げなければならない。

__たいせつに弾こう。

にじむ視界の中、今までで1番綺麗な音を奏でようと努めた。

静かに、優しく、歌うように。

__いままでありがとう、西くん。

最後の音を弾くのと同時に、心の中で呟いて。

その場を立ち上がり会場に一礼する。

歓声と拍手が大きく鳴り響く。

ゆっくりと舞台袖へと歩み、舞台袖に戻った瞬間堪えていた涙が溢れ出した。

きっと声を上げて泣いても、この歓声の中ならわからない。

「せっ、くん…っ」

床に崩れて泣きながら、途切れ途切れに紡いだ。

寂しくて、悲しくて、喪失感に襲われて。

出会ってからは毎日静留のことを気遣ってくれて、中学を卒業してからは引き取ってくれたひと。静留とピアノを出会わせてくれて、いつだって静留が好きな音を作るのを手伝ってくれたひと。

その名前を呼んでも、彼が笑うことはもう2度とないのだ。

「静留。」

突然、上から名前を呼ばれた。

見上げるとそこには、静留より少し年上の青年の姿がある。

__誰?

首を傾げていると、強く目を擦っていた手を優しく掴まれ、立ち上がると強く抱きしめられた。






知らない人のはずなのに、その人ともうずっと一緒にいるような気がして、静留はあれこれと思考を巡らせる。

そういえば“西弥が亡くなった”と梨花が言っていたのはもう1週間以上前のことで、でも今日まで静留は1人じゃなくて。

ずっと西弥がそばにいると思っていたが、今再び静留を抱きしめている彼の顔を覗いて、自分が勘違いをしていたのだと理解した。

この1週間、静留にずっと寄り添っていてくれたのは、西弥ではなく彼だったのだ。

「あなたは、だれ…?」

掠れた声で静留が尋ねると、彼は一瞬驚いたように目を見開いたあと、寂しげに笑う。

「俺は西弥の弟だよ。兄の代わりに、君と一緒にいる。だから、俺のことは今まで通り、西くんって呼んでいい。」

答えた彼の声は、静留と同じように掠れていた。

彼の相貌は西弥に似ていて、明るめの茶髪とピアスをなくせば西弥の若い頃と瓜二つである。

けれど静かな夜のようだった西弥とは違い、彼はひだまりのような優しい明るさを纏っていた。そして多分その明るさに静留は救われて。

彼を彼だと認識した瞬間、彼に彼としてそばにいて欲しいと思った。

__でもそんなわがまま、許されないよね。

だって彼は、西弥の代わりに静留といてくれるのだ。もしその口実がなくなってしまったら、きっともう一緒にはいてくれない。

「ありがとう、西。」

__ごめんね、西くん。

西弥がこんな状況を望んでいないことを、静留はもちろんわかっているのに。

名前すら知らない彼と、静留はどうしても一緒にいたかった。

だから彼を違う名で呼んだ。

西弥を呼ぶ時と同じように、彼の目を見て笑いながら。

「お疲れ様、静留。頑張ったね。」

彼の腕の中で頭を撫でられていると、いつの間にか、コンサートが終わった後に感じた寂しさや喪失感が、西弥と過ごした思い出への愛おしさに変わっていた。

同時に、頑張ったね、と言われた言葉が嬉しくて、安心したら身体の力が抜けて、そのまま静留は意識を手放した。
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