18 / 92
甘い匂い(東弥side)
しおりを挟む
かんぱい、と勢いよくグラスを打つ音がする。
練習試合が終わった後の打ち上げ。春休み前は付き合いで週一程度行っていたが、そういえばこの雰囲気も久しぶりだ。
「あれ、東弥飲まないの?」
「うん、車だから。」
隣に座っている谷津が当然のように聞いてきて、東弥は苦笑した。今日ここまで谷津を送ってきたのは東弥なのに、完全に忘れている。
「あっ、確かに。じゃあ俺代わりに運転しようか?東弥の家からなら電車で帰れるし。」
「大丈夫。それに今ちょっと遠くに住んでるんだ。」
さらにいえば東弥はそこまでお酒が好きではないし、静留のところに帰れなくなってしまうため運転できなくなるのは困るのだ。
「えっ?何なに!?お前彼氏できたの!?
…そういえば髪の匂いが違うような…えっ、おめでとう!!」
__…さすが谷津。
こそこそと耳打ちされて思わず盛大にため息を吐きそうになったのを、なんとか堪えて引きつった笑みを浮かべる。
彼の凄いところは、ぽろっと漏らした情報の最も不要なところに突っ込んでくるところだ。
あと変に勘がいい。髪の匂いが違うような、とか、犬みたいなことを言われても困る。
「汗臭いから嗅がない。あと、あの子とはそういう関係じゃないから…。」
「えっ、あの子!?だれそれ俺も会いたい!!」
「…まあ、いつかね。」
新学期になったら別に暮らすにしろ、もしこれから先東弥が静留とずっと関わっていくならば、谷津とは会わせる機会があるかもしれない。
「その子、東弥にとって大事なんだな。」
ふと、谷津が当然のように呟く。
「えっ…?」
思っても見なかったことを言われて驚いた。
「昔幹斗のこと見てた時より、もっと優しい顔してる。」
しかも大きく外れていないからたちが悪い。
「…谷津、そろそろ口閉じようね?」
「ひえっ…!!」
これ以上言われたら問答無用でglare放って喋れなくするぞ、と意味を込め警告すると、谷津は怯えながらてのひらで口を塞いで見せ、こくこくと頷く。
「なになに、内緒話?そういえば東弥久しぶりだねー!!ねえ、このあとプレイしない?最近フラれちゃってー、東弥上手だし慰めてよー。」
谷津が無言になった瞬間に、タイミングを見計らったように東弥の右隣(左は谷津)に座っていた女子が話しかけてきた。
「ごめん、今日はこのあと予定があるから。」
「えー、残念。」
ぐいぐいと身体を寄せられて、甘い香水が鼻をくすぐる。
__…どう断っても角が立つな…。
「うわっ、ごめん俺、用事思い出したわ!!東弥送って!!」
困っていると、突然谷津が声を上げた。
周りから、“始まったばかりなのに”、とか、“東弥持ってくなよー”、だとかのブーイングが巻き起こる。
__…ほら、こういうとこ。
これが今日谷津の誘いを断れなかった原因だ。彼は変なところに敏感で、こうして時々助け舟を出してくれる。
ありがたくその船に乗せてもらい、東弥はお金だけ置いてその場を後にした。
「ありがと。ちょっと困ってたから。」
「いや、元はと言えば俺が誘ったせいだし??あと、お前の相手のこと、2人きりなら少しは教えてくれる?」
車に乗ったあと、そう言いながら谷津はちょっと照れ臭そうに笑った。
俺が誘ったせい、とか言っているが、友達が困っていれば助けるタイプの人間である。
「…まあ、少しなら。」
「えへへ、やった!!」
静留のことと兄のことをかいつまんで話すと、谷津は黙ってそれを聞いてくれた。
彼はただ全てを聞いたあと、いいとか悪いなどと言わずに、“そっか”、と一言頷いて。
「…あ、送ってくれてありがと。東弥は優しいから、無理だけはするなよ。」
ちょうどそこで谷津の家に着いたので、そう言い残して去って行った。
優しいから、という言葉が西弥のものと重なり、東弥は嘲笑を溢す。
優しくなんてない。ただ、彼と一緒にいる理由を作っているだけなのに。
東弥が守りたいと思った存在は、静留で3人目。
1人目は、高校の時の後輩。彼はゲイではなく、さらにすでに付き合っている彼女がいた。彼が彼女にフラれた時、“先輩”、と泣きついてきたので一度だけプレイをしたことがある。性的な交わり抜きの、ただ第二性を満たしてやるだけのプレイ。そして結局彼は新しい彼女を作り、東弥に見向きもしなくなった。
2人目は、大学同期。彼は東弥と同じようにゲイだったが、彼にも相手がいた。一度彼はフラれたが、その後も相手を思い続け、今はまた同じ相手と付き合っている。東弥は彼を好いているのを隠して、相手を思い続ける彼の背中を押した。彼とは今でも親友だ。
そんなふうに、東弥が思う相手は、いつだって東弥ではない人を見ていた。そして東弥は相手の代わりにはなれなくて。
けれど、静留に関しては、東弥は西弥の代わりになることができ、西弥を演じる限り、静留は東弥を見ていてくれる。
だからこれはただの一緒にいたいというエゴを満たすための手段なのだ。
「ただいま。」
帰宅すると、ピアノの音が止まり、静留が駆け寄ってきた。
「お帰りなさい、西くん。」
シャワーを浴びたばかりなのか、濡れた髪のままぎゅっと抱きつかれ戸惑う。まだシャワーを浴びていないから汗臭い。
髪も乾かしてやりたいが、全て東弥がシャワーを浴びないことには始まらない。
「シャワー浴びてくるから、静留はピアノを弾いて待っていてね。」
「えっ… 」
やんわりと静留の身体を離すと、とても寂し気な顔をされた。
__…俺も拒絶したくてしてるわけじゃないんだけど…。
「すぐ戻るから。そうしたら髪も乾かそうね。」
戸惑ったように首を傾げる彼の手のひらを撫でる。
「…あまいにおい…。」
静留がもそもそと何かを言った気がしたが、東弥はそれを独り言だと思い、全く気にせずその場を後にした。
練習試合が終わった後の打ち上げ。春休み前は付き合いで週一程度行っていたが、そういえばこの雰囲気も久しぶりだ。
「あれ、東弥飲まないの?」
「うん、車だから。」
隣に座っている谷津が当然のように聞いてきて、東弥は苦笑した。今日ここまで谷津を送ってきたのは東弥なのに、完全に忘れている。
「あっ、確かに。じゃあ俺代わりに運転しようか?東弥の家からなら電車で帰れるし。」
「大丈夫。それに今ちょっと遠くに住んでるんだ。」
さらにいえば東弥はそこまでお酒が好きではないし、静留のところに帰れなくなってしまうため運転できなくなるのは困るのだ。
「えっ?何なに!?お前彼氏できたの!?
…そういえば髪の匂いが違うような…えっ、おめでとう!!」
__…さすが谷津。
こそこそと耳打ちされて思わず盛大にため息を吐きそうになったのを、なんとか堪えて引きつった笑みを浮かべる。
彼の凄いところは、ぽろっと漏らした情報の最も不要なところに突っ込んでくるところだ。
あと変に勘がいい。髪の匂いが違うような、とか、犬みたいなことを言われても困る。
「汗臭いから嗅がない。あと、あの子とはそういう関係じゃないから…。」
「えっ、あの子!?だれそれ俺も会いたい!!」
「…まあ、いつかね。」
新学期になったら別に暮らすにしろ、もしこれから先東弥が静留とずっと関わっていくならば、谷津とは会わせる機会があるかもしれない。
「その子、東弥にとって大事なんだな。」
ふと、谷津が当然のように呟く。
「えっ…?」
思っても見なかったことを言われて驚いた。
「昔幹斗のこと見てた時より、もっと優しい顔してる。」
しかも大きく外れていないからたちが悪い。
「…谷津、そろそろ口閉じようね?」
「ひえっ…!!」
これ以上言われたら問答無用でglare放って喋れなくするぞ、と意味を込め警告すると、谷津は怯えながらてのひらで口を塞いで見せ、こくこくと頷く。
「なになに、内緒話?そういえば東弥久しぶりだねー!!ねえ、このあとプレイしない?最近フラれちゃってー、東弥上手だし慰めてよー。」
谷津が無言になった瞬間に、タイミングを見計らったように東弥の右隣(左は谷津)に座っていた女子が話しかけてきた。
「ごめん、今日はこのあと予定があるから。」
「えー、残念。」
ぐいぐいと身体を寄せられて、甘い香水が鼻をくすぐる。
__…どう断っても角が立つな…。
「うわっ、ごめん俺、用事思い出したわ!!東弥送って!!」
困っていると、突然谷津が声を上げた。
周りから、“始まったばかりなのに”、とか、“東弥持ってくなよー”、だとかのブーイングが巻き起こる。
__…ほら、こういうとこ。
これが今日谷津の誘いを断れなかった原因だ。彼は変なところに敏感で、こうして時々助け舟を出してくれる。
ありがたくその船に乗せてもらい、東弥はお金だけ置いてその場を後にした。
「ありがと。ちょっと困ってたから。」
「いや、元はと言えば俺が誘ったせいだし??あと、お前の相手のこと、2人きりなら少しは教えてくれる?」
車に乗ったあと、そう言いながら谷津はちょっと照れ臭そうに笑った。
俺が誘ったせい、とか言っているが、友達が困っていれば助けるタイプの人間である。
「…まあ、少しなら。」
「えへへ、やった!!」
静留のことと兄のことをかいつまんで話すと、谷津は黙ってそれを聞いてくれた。
彼はただ全てを聞いたあと、いいとか悪いなどと言わずに、“そっか”、と一言頷いて。
「…あ、送ってくれてありがと。東弥は優しいから、無理だけはするなよ。」
ちょうどそこで谷津の家に着いたので、そう言い残して去って行った。
優しいから、という言葉が西弥のものと重なり、東弥は嘲笑を溢す。
優しくなんてない。ただ、彼と一緒にいる理由を作っているだけなのに。
東弥が守りたいと思った存在は、静留で3人目。
1人目は、高校の時の後輩。彼はゲイではなく、さらにすでに付き合っている彼女がいた。彼が彼女にフラれた時、“先輩”、と泣きついてきたので一度だけプレイをしたことがある。性的な交わり抜きの、ただ第二性を満たしてやるだけのプレイ。そして結局彼は新しい彼女を作り、東弥に見向きもしなくなった。
2人目は、大学同期。彼は東弥と同じようにゲイだったが、彼にも相手がいた。一度彼はフラれたが、その後も相手を思い続け、今はまた同じ相手と付き合っている。東弥は彼を好いているのを隠して、相手を思い続ける彼の背中を押した。彼とは今でも親友だ。
そんなふうに、東弥が思う相手は、いつだって東弥ではない人を見ていた。そして東弥は相手の代わりにはなれなくて。
けれど、静留に関しては、東弥は西弥の代わりになることができ、西弥を演じる限り、静留は東弥を見ていてくれる。
だからこれはただの一緒にいたいというエゴを満たすための手段なのだ。
「ただいま。」
帰宅すると、ピアノの音が止まり、静留が駆け寄ってきた。
「お帰りなさい、西くん。」
シャワーを浴びたばかりなのか、濡れた髪のままぎゅっと抱きつかれ戸惑う。まだシャワーを浴びていないから汗臭い。
髪も乾かしてやりたいが、全て東弥がシャワーを浴びないことには始まらない。
「シャワー浴びてくるから、静留はピアノを弾いて待っていてね。」
「えっ… 」
やんわりと静留の身体を離すと、とても寂し気な顔をされた。
__…俺も拒絶したくてしてるわけじゃないんだけど…。
「すぐ戻るから。そうしたら髪も乾かそうね。」
戸惑ったように首を傾げる彼の手のひらを撫でる。
「…あまいにおい…。」
静留がもそもそと何かを言った気がしたが、東弥はそれを独り言だと思い、全く気にせずその場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
Dom/Subユニバース読み切り【嘉島天馬×雨ケ谷颯太】
朝比奈*文字書き
BL
🖤 Dom/Subユニバース
毎週日曜日21時更新!
嘉島天馬(クーデレ・執着Dom)× 雨ケ谷颯太(ワンコ系・甘えんぼSubよりSwitch)
読み切り単話シリーズ。命令に溺れ、甘やかされ、とろけてゆく。
支配と愛情が交錯する、ふたりだけの濃密な関係を描いています。
あらすじは各小説に記載してあります。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる