愛とオルゴール

夜宮

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愛とオルゴール

08. 弟の決意

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「姉さん、少しいいかな」

 部屋から出たところでネイサンがいった。

 ネイサンの部屋に行き、ソファに座ったはいいが二人ともなんとなく物思いに沈み込んだ。

 しばらくしてネイサンが口を開いた。


「僕、あれからリカルドに会ってきたんだ」

 ネイサンの言葉に私達は驚いて彼を見た。

 ネイサンが自分と同じ年に生まれた同性のリカルドのことを、私がリカルドに感じるものとは違った意味で気にしているのを知っていたからだ。

 だから、弟が傷ついたり、嫌な思いをしなかったかと心配になった。

 すると、私の視線に気が付いたネイサンが大丈夫だよ、とでもいうように微笑み頷いた。

 私は少し複雑な思いを感じた。

 先ほど祖父達の前でも見せたその笑顔が、これまでよりも少し大人っぽい仕草に見えて動揺したのだ。

 可愛い弟の成長を喜ばなければならないのに、寂しい気持ちになるなんて。

 でも、半面、期待する気持ちもあった。ネイサンは長年抱えていたリカルドへの複雑な思いにケリをつけたのかもしれないと思ったからだ。

「リカルドとどんな話をしたの? その、貴方、平気?」

「ああ、僕は大丈夫だよ。

 姉さん、僕はリカルドと話しができて良かったと思っているんだ。彼には感謝している」

「そう。それはよかったわ」

 弟は本当に大人になってしまったようだった。その変化についていけないでいる私に笑みを見せたネイサンは、普段通りの口調になって言った。

「そう言えば、リカルドは小さい頃、僕たちの姿を覗き見た事があって、その時、姉さんの事を御伽噺にでてくるお姫様みたいだと思ったって言ってたな。

 姉と義弟だけどさ、たぶん、あいつの初恋相手は姉さんだったに違いないよ」

「まあ、そんな馬鹿なことを言って」

「ははっ、いや、絶対そうに違いないよ。態々僕にそう言ったくらいだからね。

 そうだな、このゴタゴタが片付いて、僕らがもう少し大人になったころに、姉さんと僕、それからリカルドで話をするのもいいかもしれないな。

 あ、でもその頃には我が物顔で自分も一緒でなければ駄目だとかいう人がいて、弟といえども簡単には会わせてもらえなくなってたりしてね? アンソニー様は姉さんの事に対して色々煩いこと言いそうな人だもの」

 ネイサンの軽口に私は笑った。

「アンソニーはそんな、煩いことを言ったりするような人じゃありません。姉弟の語らいにまで文句をつけたりしないわ」

 意地悪な弟はこうしてよく私たちのことをからかってくるのだ。

「どうだかね。まあ、とにかく、僕は今回の事、悪いことばかりではなかったって気がするんだ。

 もちろん、本当にフォンテーヌ伯爵家に婿養子に行かされるなんて冗談じゃないけれど。

 しっかし、なんなんだろうね。父親のことは置いておくとして、フォンテーヌ伯爵っていったいどんな人なんだろう。

 こんなこと、普通言い出せないよね? 父は伯爵と懇意にしているのだろうか? これまで誰からもそんだ話しは聞いたことがないと思うんだけど」

「ネイサン」

 私は永遠に喋り続けそうな弟の言葉を遮った。弟はきっと大丈夫だと思う気持ちと、それでも先ほどの父親の態度に傷付かないわけがないとわかっていた。だから、言わずにいられなかったのだ。

「あの人はわたくしたちを、貴方を愛していないわけではないわ。あの人なりに愛しているのでしょう、きっと」

 私の言葉に、ネイサンは真面目な顔で答えた。

「わかるよ、たぶんね、きっとそうなんだろう。うん、もういいよ、いいんだ。これでいいんだと思う。

 姉さん、僕は今回の件できっぱりとあの人を乗り越えて行くつもりだ。

 たぶん、もう、そう難しいことじゃないよ。きっと。大丈夫だ。僕は大丈夫」

 私はネイサンを抱きしめた。
 ネイサンは大人しく私の抱擁を受け入れた。

 この日、私たちは、確実に一歩前に進んだのだ。

 きっとネイサンは父という名の呪縛を乗り越えていけるだろう。

 だから私も母という人を乗り越えるべきなのだ。
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