女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。

にのまえ

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 あれからローブの男性。黒い髪、緑色の瞳――名前はルテ、歳は十八歳と冒険者仲間になった。ルテは優しくてオレよりもレベルが高く、地図を見なくてもこの辺の森に詳しい。

「タヤ、北の森、ノルンにオケラ草のクエストを受けよう」
 
「いいよ。ノルン森ならナツメの実の採取も受けてもいい?」

「いいぞ、今日は時間がある」
「やった! クエストを受けてノルンの森に出発だ!」

 一人だと時間のかかるクエストも、二人だと早く終わる。オレにとってルテは……シンギ、マヤ、サロンナ以外、はじめてできたこの世界の友達だ。


 ノルンの森はギルドから少し離れているから、2人乗りの馬車を借り移動した。

「ルテ、ここにナツメの実があるぞ」
「わかった、コッチにはオケラ草だ」

 採取の場所を互いに教え合い採取する。一時間くらい採取して休憩することにした。今日はいつも採取をルテに手伝ってもらうから、お礼に熊クマ食堂の厨房を借りてサンドイッチを作ってきた。
 
 転移前のオレには生まれたときから両親がいない。ずっと施設で暮らし、高校を出た後はひとり暮らしをしていた。一応料理はできるし、味にも一応自信はある。――オレは採取の進み具合の話が途切れたいまだと、弁当箱をルテの前に差し出した。

「あ、あのさ、ルテ。サンドイッチ作ってきたんだけど、食べるか?」
 
「サンドイッチ? コレ、タヤが作ったのか?」

 うれしそうに、お弁当箱を覗くルテに。
 
「これがタマゴサンドで、こっちが野菜サンド。後はシュリンサンド……よかったら食べてみてくれ」

 二人で近くの石に腰掛け「いただきます」と、サンドイッチを食べた。――少しドキドキする。はじめてシンギ、マヤ以外に自分の料理を食べてもらうから、じっとオレはルテを見ていた。

 卵のサンドイッチを一つ食べ、ルテは瞳を細めて微笑んだ。

「美味しい、タヤ」
「ほんと? よかった……オレも食べよう。いただきます」

 美味しいと言ってもらえて嬉しい。このとき、フワリと何処からかスパイスの香りがした。この香りはあのときに嗅いだ香りに似ていた……オレがそれに気付いたときには遅かった。

 ――まさか、近くに強いアルファがいる?

 他の人に性別を聞くと"タイプハラスメント"になるから聞かなかったけど……オレの体はドクンとスパイスの香りに反応した。

 ヒートがくる……しくじった。薬は飲んできたけど、もう直ぐ三ヶ月だ。 いつものように……首輪とサロンナのブレスレットは着けているがオメガの匂いが漏れて、ルテに不愉快な思いをさせてしまうかもしれない。

 ――離れて……もう一度、薬を飲もう。

「オ、オレ、ちょっとトイレにいってくる!」 
「タヤ? 気をつけて行けよ」

「う、うん」

(……やばい、やばい)

 動悸が早く、細道で足がもつれて膝をついた。

「ハァ、ハァ……クッ、体が熱い」

 いま薬を飲めば治るか? 前にフォルテに貰った薬をポケットから出して噛み砕き飲んだ。

「……ふぅっ、ふっ」

 早く治れ……治ってくれ!
 
 
「タヤ、どうした!」 
「あっ、」

 この声はルテだ。オレがトイレから戻るのが遅くて心配してきちまった……まだ、薬が効ききっていない。

「ルテ、そこから来るな!」

(ルテに、オレがオメガだとバレる)

 ルテは、はじめてできた友なんだ。オレがオメガだとバレて離れていってほしくない。――オレは己の身をギュッと抱きしめた。




 ♱♱♱




「オ、オレ、ちょっとトイレ!」

 と、隣から立ったとき前と同じく、甘ったるい香りがタヤからした。この香りは前と同じくヒートを起こしたようだ。

 ここは前とは違い多くの冒険者がいる森だ。他のアルファの冒険者に見つかると連れていかれる。探しに向かうとタヤは近くの細道でうずくまっていた、声をかけて近寄る私にタヤは気付き「来るな!」と叫んだ。

「頼む。いまはそばに来ないでくれ」

 いまにも泣き出しそうな声――自分も薬を噛み砕き飲み込むと。体を震わせて、ヒートに耐えるタヤを私は後ろから抱きしめた。
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