ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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1~10話

私も食べ物ではありません【下】

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「ヤシュームです。少々よろしいでしょうか」

「……少し待ってくれ」

 出入口のドアの向こうに誰か来たようだ。
 クロが冷静に受け答えするあいだにも、私はおろおろと慌てふためいて隠れ場所を探す。

 にゅっと伸びてきたクロの手が、伏せて置かれたティーカップを傾けた。

「すまない、すぐに済ませる」

 ひそひそ声にしっかりと頷いて、私は開いた隙間からするりとカップに滑り込んだ。

 カタン


「――もう入っていいぞ」

 ティーカップの中で小さくなって、外の音に耳を澄ませる。
 万が一他の人に見つかってしまったとしても、クロならきっと庇ってくれるだろうと思うと、不思議と怖さはなかった。

 ガチャッ

「失礼いたします。……ティーセットがどうかなさいましたか?」

休憩室向こうの部屋で飲もうと思ってな」

 なるほど。この相手はほど、信頼の置ける人らしい。
 そういえば前に漏れ聞いた会話の声も、この人だったような気がする。

「それで? 何かあったのか?」

「先日の大雨で、懸念されていた通りベムカの川が氾濫しました。幸い事前の避難により人的被害はありませんが、橋は半壊状態とのこと。復旧作業のため、人員派遣の許可をお願いいたします」

「ああ――いや、現場を監督できる専門家を用意して、あとの労働力は現地で募ってくれ。もちろん給金は相場通りに。労働力が足りないようであれば、そのときは追って人員を派遣しよう」

「わざわざ現地で集めるのですか? 手慣れた者をまとめて派遣してしまったほうが早いのでは?」

「こたびの水害で農作物など収入に障りの出た者もいるだろう。臨時の働き口は住民の助けになるはずだ。なにより地元民であれば復旧への士気も高い、きっといい働きをする」

「承知しました。そのように手配いたします」

 まるで別人のように整然と話すクロの声を聞きながら、どうやら『可愛い』は口癖ではなさそうだと静かに認識を改めるのだった。
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