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1~10話

私も食べ物ではありません【中】

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 通ってきたのは確かにこの位置だったはずだ。執務室に入ってまだ数歩も移動していないのだから、間違いようがない。
 しかしどんなによーく目を凝らしても、そこにはドアノブはおろか、一筋の切れ目さえも見つからなくて。

「……ドアは??」

 これも夢の中だから?
 ゲームのステージ移動みたいに、移動したら元の場所には戻れないとか?

「ああ、あそこはなんだ。特殊な魔道具をもちいて、管理者である俺が触れたときにだけドアが現れるようにできている」

「隠し部屋……!」

 秘密基地のようでなんとも心躍る響きだ。

「気になるなら、戻るときによく見ているといい」

「はい!」


 執務室の出入口らしき、の近くに、目当てのものはあった。
 水差しやティーセット、茶菓子までもが乗せられた、木製のワゴンテーブル。

「これごと持っていくか」

 全く異論はないので、クロの提案にこくこくと頷きを返す。

「手が塞がってしまうな。運ぶあいだ、ここに乗っていてくれるか?」

「はーい」

 ワゴンの天板に寄せられた手のひらの上から、ぴょんとワゴンに飛び移る。

 丸々とした大きなポットと、中に入れそうなサイズのティーカップ。背の高い金属製の水差しに、甘い香りを放つ数種類の焼き菓子。
 ポットの近くは熱気が漂っていたので迂回して、焼き菓子の皿の隣の空いたスペースにちょこんと体育座りした。

「食べてしまいたい……」

「えっ?」

「いや、ヒナは可愛いな」

 指先ですりすりと頬を撫でられる。

 いやいやいやいや!? 今ものすごく聞き捨てならないことを言われたような……!?
 もしや鳥や魚などのように、私のことも食料に見えていたりするのだろうか……。

「ほ、本当に食べたりしませんよね……?」

「ふっ、おかしなことを言う」

 ふにふにと頬をつつかれながらも、明確に否定されないことが恐ろしい。
 私なんかより、プレゼントでくれたサラミだとか、あの豪華なフルーツを食べたほうが絶対に美味しいに決まっている。

「私――」

 コンコンコンコン

 至近距離から響いたノック音に、慌てて口をつぐむ。
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