ワナビスト龍

理乃碧王

文字の大きさ
49 / 76

第四十九筆 荒れるサイバーラウンジ!

しおりを挟む
 シュートが強いうまむすこ:色帯さん、あんたにはガッカリしたぜ。

(め、めっちゃエエ声やんけ!)

 声の主はシュートが強いうまむすこ。
 美少女アニメアイコンなのに、ターミネーターな男の声が龍の耳へと届いた。
 そのギャップがあり過ぎるうまむすこの声。
 龍は驚き、黒鳥は賞賛の言葉を送る。

 黒鳥響士郎:アイコンに似合わず重厚なお声なんですね、うまむすこさん。

 シュートが強いうまむすこ:気やすく呼ぶんじゃねえよ。俺は色帯さんと話をしているんだ。

 緊張の空気が流れた。
 うまむすこはアンチストギルの筆頭である。
 常にストギル小説に対しアンチ的なポストを飛ばし、適当な創作論や言動を垂れ流す作家には容赦しない。
 彼は『プリティレスバダービー』の異名を持ち、蛇のようにねちっこいレスバを得意としている。

 そんな男が声だけでも全貌を現したのだ。
 多くのリスナーはこのことに驚きと戸惑いを見せた。
 男ではあることは予想できていたが、こんな映画の吹き替えみたいなボイスとは思わなかったのだ。

 色帯寸止め:あなたですか、うまむすこ君。

 シュートが強いうまむすこ:色帯さん、こうやって『声』で話すのは初めてだな。

 色帯寸止め:ええ。

 シュートが強いうまむすこ:情けないもんだよな、読まれないからってテンプレに逃げてよ。

 色帯寸止め:テンプレを書かないと読まれもしない、その現実を受け入れただけですよ。

 シュートが強いうまむすこ:ハッ! だからって黒鳥に仲間を売らなくてもいいンじゃねーのかい?

 色帯寸止め:どういう意味ですか?

 シュートが強いうまむすこ:仲間の『ピンクのバッタ』がアカウントを消した。

「ア、アカウントを消した!?」

 龍は声に出した。
 ピンクのバッタはアンチストギル梁山泊の一角。
 異世界令嬢教に絡まれたときに、彼女がエロ画像を貼りつけて助けてくれたことがある。
 そのピンクのバッタがアカウントを消したというのだ。

 シュートが強いうまむすこ:お前が黒鳥達に情報を売っただろ。自分がおいしい思いをするために!

 重い言葉が響く。
 色帯寸止めが仲間の情報を売ったことに対する怒りの断罪である。
 だが、色帯寸止めは知らぬ顔の半兵衛だ。

 色帯寸止め:はて……? 何のことでしょうか。

 シュートが強いうまむすこ:ピンクは裏垢で、表は書籍化経験もある作家だ。

「マ、マジ?」

 龍は少し驚いた。
 あのピンクのバッタは書籍化作家の裏垢だという。
 全くそんな感じがしない、ただのストギルアンチだと龍は思っていた。
 そんな経歴を持つピンクが、何故アンチ活動をしているのかが気になるがここは一先ず置いておきたい。

 シュートが強いうまむすこ:そんな彼女しか知らないことを、ここのカス共数名がピンクの表垢にメンションつけてポストしやがった。一体誰が教えたんだろうな?

 色帯寸止め:さあ?

 シュートが強いうまむすこ:しらばっくれンな! ピンクはお前を尊敬していたんだぞ!

 色帯寸止め:尊敬ね。

 シュートが強いうまむすこ:ピンクはお前の『ダンジョンオデッセイ』のファンだった! 密かにお前とピンクはDMでやり取りしていた! 俺は知っているぞ!

 どうやら、ピンクは色帯寸止めのゲームノベライズのファンだったようだ。
 作家として、一ファンとして、ピンクが色帯寸止めを慕ってDMのやり取りしていたようだ。

 色帯寸止め:証拠はあるんですか。

 シュートが強いうまむすこ:ピンクがアカウントを消す前に、全てを俺に話してくれた。

 色帯寸止め:バカバカしい。全てはあなたの妄想でしょう。

 シュートが強いうまむすこ:妄想なんかじゃねェ! あいつは言ってたぜ「先生を止めて下さい」と!

 色帯寸止め:迷惑な話です。アンチが私のファンだったなんて。

 シュートが強いうまむすこ:て、てめえ!

 色帯寸止め:うまむすこ君、私はオリジナルで売れたいのですよ。やっとそのチャンスを掴んだのに邪魔をしないでもらいたい。

 シュートが強いうまむすこ:色帯、俺はあんたを軽蔑するぜ。

 しんと静まった。
 龍も、その他のリスナー達も、誰もリプをつけることはなかった。
 暫しの沈黙の後に言葉を出したのは、まうざりっとだ。

 紅蓮まうざりっと:さっきから聞いていたら失礼でしょう! ワナビのクセに!

 シュートが強いうまむすこ:ワナビだと?

 紅蓮まうざりっと:そうさ! あんたらアンチは僕達に嫉妬してるだけだ!

 まうざりっとの言葉に多くのリスナー達はアクションを起こす。
 ハートや拍手まで様々、この招かざる客に対し不快感を表していた。

 シュートが強いうまむすこ:あのな、お前はまだ商業化してねえだろ? 出版社からオファーが来た段階にしか過ぎない。店に本が並んでいない以上、お前はスタートラインにさえ立っていない。

 紅蓮まうざりっと:な、何だと!

 シュートが強いうまむすこ:いいかい? 一つ言っておくが、俺達アンチストギル梁山泊は元々書籍化までこぎつけたヤツや、公募では最終選考に残る常連ばかりだぜ。

「な、なんだってーっ!?」

 龍は目を見開き、前のめりとなった。
 アンチストギルは書籍化経験のある作家や公募の最終選考の常連ばかり、実力者であるという。

 シュートが強いうまむすこ:俺や腐ったみかんは悪徳出版社に騙され、二度と表舞台に立てなくなった作家。ピンクは自作品の恋愛小説をアホ編集にエロい作品に改造されて以降、官能小説しか書けなくなった。内モンゴル自治区マンは漫画家だが、ストギル作家の原作が止まったせいで仕事がなくなった――。俺達はストギルに作家としての魂を奪い、殺され、怨みを持つヤツばかりなのさ。

「ストギルに作家としての魂を奪い、殺され? 何だかどっかで聞いたな……」

 龍は視線を横に向け、手に顎を当てる。
 所謂一つの芥川龍之介ポーズだ。
 うまむすこの台詞をどこかで聞いたような気がするが思い出せない。

 紅蓮まうざりっと:そ、そんな、出鱈目を!

 シュートが強いうまむすこ:いいかい、気をつけねーと悪い大人の養分にされるぞ。

 紅蓮まうざりっと:よ、養分?

 シュートが強いうまむすこ:俺は昔、ある出版社が開催したラノベのコンテストに応募し最終選考まで残ったことがあってな。

 紅蓮まうざりっと:きゅ、急になんだよ。

 シュートが強いうまむすこ:落選はしたが、その数週間後にコンテストを開催した出版社の編集者と名乗る男から電話がかかってきてな。「君には才能がある」と言われて自費出版をもちかけられた。

 サイバーラウンジの全員が、うまむすこの話に聞き入っていた。
 誰もリプもしないし、アクションも起こさない。
 うまむすこの選択も、その後どうなったのかも凡その予想がついた。
 それでも黙って話を聞いていたのだ。

 シュートが強いうまむすこ:俺は喜んで飛びついたよ、自費出版の話といえ俺の才能を認めてくれたからな。それに書籍化は俺の夢だった。

 紅蓮まうざりっと:よ、よかったじゃないか。自費出版でも本は書籍化されたんだろ?

 シュートが強いうまむすこ:……三百万だ。

 紅蓮まうざりっと:へ?

 シュートが強いうまむすこ:自費出版にかかった金だよ。俺は借金をしてまで本を出したんだ。

 紅蓮まうざりっと:本が売れれば借金なんて……。

 シュートが強いうまむすこ:簡単に売れるわけないだろ! 俺は出版業者の甘い言葉に騙されただけだ!

 紅蓮まうざりっと:うっ……。

 シュートが強いうまむすこ:後で俺は知った! コンテストの最終選考に残ったヤツらは全員、俺と同じ言葉で自費出版を持ちかけられていたんだ!  ってな!

 語られるうまむすこの過去。
 それは悪徳出版社に食い物にされた哀れな男の姿があった。

 黒鳥響士郎:話はそれだけですか?

 冷たい声が流れた。
 それは沈黙を守っていた黒鳥の声だった。

 黒鳥響士郎:あなたの過去に同情する気はありません。それが何だって言うんですか?

 シュートが強いうまむすこ:あン?

 黒鳥響士郎:失敗を怨みに変え、他者を攻撃するのは見苦しい。あなたの本は『つまらないから売れない』それだけでしょう。夏目漱石の『こころ』やダンセイニ卿の『ペガーナの神々』は自費出版でしたが後々の時代まで残った。それは『面白かった』からですよ。

 シュートが強いうまむすこ:言ってくれるね。

 うまむすこは静かな怒りを見せていた。
 しかし、黒鳥の言葉もあながち間違っていない。
 自分の失敗や不幸を怨みにし、アンチという怪物になった者の姿はただただ醜い。

 黒鳥響士郎:あなたのような存在は邪悪です。ここから去りなさい。

 シュートが強いうまむすこ:邪悪ね、それは黒鳥先生もだろ?

 黒鳥響士郎:私が邪悪だと?

 シュートが強いうまむすこ:まうざりっと、お前はたった三日でのランキング入りと書籍化したのが自慢だそうだな。

 紅蓮まうざりっと:そ、それがどうしたっていうんだ!

 シュートが強いうまむすこ:おかしいと思わないか? うだつのあがらないワナビが急にランキング入りしたり、書籍化を決めるだなんてよ。そんな話はストギル小説の中だけにしてもらいたいぜ。

 紅蓮まうざりっと:そ、それは黒鳥先生の指導で、僕の作品の質が上がったからだよ。

 シュートが強いうまむすこ:違うね、お前の作品は黒鳥の命令で取り巻き達が一斉にポイントを入れただけだ。お前のような石ころが黒鳥先生の指導で書籍化を決めれば、講師業のいい宣伝に――。

「あ、あれ?」

 龍はパソコン画面を二度見した。
 サイバーラウンジ『黒鳥の宴』が終了したからである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

処理中です...