ワナビスト龍

理乃碧王

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第四十八筆 憧れるのをやめましょう!

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 空気が凍った。
 読者諸君も覚えているだろうか。
 色帯寸止めはアンチストギル梁山泊の一人だった。
 ストギル内のテンプレ小説が世に蔓延ることを日々憂い、批判的なポストをしていた。
 それがどういうわけか黒鳥のレイヴンクラブに入会し、こうしてサイバーラウンジで会話している。

 色帯寸止め:そうですね……。

 色帯寸止めは少し気まずそうな口調で話し始めた。

 色帯寸止め:かつては、私は非テンプレ作品を追求していました。オリジナリティにこだわりすぎて、読者に伝わりにくい作品を多く書いてしまったんです。テンプレ的な設定を避け、独自路線を追求することが『本物の創作』だと信じていました。

 黒鳥響士郎:ふむ、非テンプレが本物の創作だと思っていたと?

 色帯寸止め:そうです。オリジナリティこそが、皆が楽しめる共通言語だと思っていました。

 黒鳥響士郎:オリジナリティですか。

 黒鳥のニヤけた声で話す。

 黒鳥響士郎:ぷぷっ……その『オリジナリティ』とやらはどうでしたか? での経験は活きたと思いますが?

 色帯寸止め:おわかりでしょう、プロの私でも全然ダメでした。今のラノベ業界はテンプレを求めている現実を思い知らされました。

 黒鳥響士郎:ほほう? と言いますのは?

 色帯寸止め:公募も最終選考にも残れず、二次選考通過がやっとだったからです。

「せ、先生! 俺にはわかりません!」

 思わず龍は叫んでしまった。
 独自路線を、己の作風を貫き通すのも創作の一つ。
 龍はかつて異世界恋愛に手を出して失敗した経験から強く思っていた。
 如何に他人からどうこう支持されようが、自分の作風というものはなかなか曲げられないものだ。
 今では『自分独自の小説』を書こうと決心していた。

「確かにテンプレは書籍化を目指すには避けて通れないかもしれない……しかしッ!」

 書籍化には夢がある。
 自作が誰かに認められ、書店の本棚に並ぶだけで嬉しくなるものだ。
 しかし、本当に自分を曲げてまで書籍化していいものか。
 龍は複雑な気持ちに揺れながら、このサイバーラウンジを聞き続ける。

 紅蓮まうざりっと:僕も同じでしたね。Web小説界ではそれでは読まれない、評価されない。どんなに独創的な作品も無意味なんですよ。読者も出版社も多くはテンプレを望んでいるんです。

 色帯寸止め:時々、非テンプレも商業化されますが一部だけです。成功の周りには多くの屍が転がっている。私の作品のようなね――。

 色帯寸止めは自嘲しながら言葉を続けた。
 そこにはどこか疲れ切った創作者の香りがする。

 色帯寸止め:遅れながら、私も黒鳥先生の教えに従って『テンプレは読者との共通言語』という考えに目覚めました。テンプレの枠を使えば、読者は安心して物語に入ることが可能ということがわかりました。

「ほ、本当にそれでいいんですか!?」

 龍は再び叫んだ。
 それは純朴で清楚な地方の娘さんが、都会に染まり派手な感じになるのと一緒の心境だ。
 二次創作小説出身ではあるが、原作を壊さずに独自の解釈と違和感のない世界・キャラを書く色帯を尊敬していた。
 Web小説投稿サイトでも、オリジナルの作品を発表しており、評価はそこそこだが内容は面白く龍も楽しんでいた。
 云わば、龍にとって尊敬すべき物書きの一人。
 それが現在のWeb小説に染まりに染まり、テンプレを絶賛する姿に涙を禁じ得なかった。

 黒鳥響士郎:まさにその通り。非テンプレ作品には一定の価値がありますが、それだけでは読者や出版社の心に届かない。皆の期待に応え、テンプレを駆使しつつ、そこに新しいアイデアを少しずつ加える。それが成功の鍵というワケですね。

 色帯寸止め:私自身も黒鳥先生の教えに従い、テンプレの王道に沿った作品を執筆し始めたところ反応が変わりました。『王道』と言われるテンプレは実は読者が求めているものなんです。そこを無視してオリジナリティを追いすぎるのは、自己満足でしかないと今は痛感しています。

 紅蓮まうざりっと:テンプレは単なる『使い古された型』ではなく、読者とのつながりを持つための重要なツールです。そこに独自のアイデアを注ぎ込むことで、初めて作品が生きるんですよね。

 黒鳥響士郎:素晴らしい視点ですね。書籍化を目指す作家にとって、オリジナリティの追求は大切ですが『まずは読者に読まれること』が最優先です。そのためには、テンプレートを賢く活用することが重要です。色帯先生、テンプレを使い始めてから、作品の反応にどんな変化がありましたか?

 色帯寸止め:驚くほど違いましたね。以前は、作品の評価が低く、読者も少なかったんですが、テンプレを取り入れてからはランキングにも入り、PV数も一気に増加しました。やはり読者が求めているものを提供しつつ、その中で自分の色を出すことが大切だということが改めて理解わかりました。

 紅蓮まうざりっと:テンプレに沿って書いてみると、最初は『これで本当に良いのか?』と疑問に感じるかもしれませんが、実際に読者からの反応を見ると納得できます。テンプレは読者に受け入れられやすく、作家としての成功への道を切り開くための最良の手段なんです。

 黒鳥響士郎:テンプレの重要性がこれほど明確に示されると、ここを聞きに来てくれているワナビの皆さんにも良い指針になりますね。テンプレを使いこなすことで読者との共通言語を築き、そこに自分なりの創造性を加える――これが現代ラノベ界で書籍化を目指すためのコツなのです。

 龍の耳元でパチンと指を鳴らす音が聞こえた。
 その音の主は黒鳥である。

 黒鳥響士郎:ところで色帯寸止め先生、小説投稿サイト『ガウロンセン』で契約作家としてのオファーが来たそうですね。

 色帯寸止め:はい、来月にオープンする新小説投稿サイトですね。サイトと作家が契約を行い、作品を独占的に掲載するというものです。

 黒鳥はわざとらしい口調で尋ねた。

 黒鳥響士郎:独占的に掲載? どういうことでしょうか。

 色帯寸止め:ガウロンセンの契約作品では『1PVにつき報酬が貰える』のです。

 黒鳥響士郎:つまり?

 色帯寸止め:読まれる度に報酬が貰えるシステムなのです。

 読まれると報酬が貰える。
 これは海外の小説投稿サイトの一部で取られているシステムである。
 日本では一部サイトの例外を除いては、基本的に読者に作品が読まれても作家は無報酬である。
 それがこのガウロンセンでは、作品が読まれたら報酬が貰えるというのだ。

 紅蓮まうざりっと:す、凄い! 斬新なシステムですね!

 色帯寸止め:最初は半信半疑でしたが、DMで運営とやり取りしているうちに「全ての作家を応援したい」「夢を叶えさせてあげたい」という熱意が伝わってきましてね。ここは一つ、騙されたと思って契約を結ぶことにしたのです。

 黒鳥響士郎:素晴らしいことです。色帯寸止め先生はベテランながら、ますます進化しておられる。

 黒鳥の口調は穏やかで優しいものであった。
 しかし、龍は眉をひそめる。
 その声がどこか信用のおけない『捕まっていない詐欺師』の香りがしたからだ。

 黒鳥響士郎:実は私の知り合いに某出版社に勤めていた編集者がいましてね。その方は今のラノベ業界では『世に埋もれた作家や作品を出せないんだぜ☆』と言って転職し、ガウロンセンの編集として働いているのですよ。

 色帯寸止め:編集?

 黒鳥響士郎:ネタバレします。その編集者に色帯寸止め先生を強く奨めたのは私なのですよ。

 色帯寸止め:な、なんと……。

 黒鳥響士郎:そうそう、まうざ君にもその編集さんを紹介したいと思います。他の新作も世に出したいでしょう?

 紅蓮まうざりっと:え! いいんですか!?

 黒鳥響士郎:もちろんです。私も創作者の一人として、才ある人達を紹介していきたい気持ちが強いので。

 その時、返信欄にリプが溢れかえった。

 うっかりペンギン:黒鳥先生はスコッパーだった! 埋もれた作家を発掘だぜ!

 ほくほくけんぴん:流石はラノベ業界の雄、色んな所に繋がりがあるんだ。

 アルケミスト創作者:やばいよ、これラノベ業界のフィクサーじゃん! 寝業師じゃん!

 黒鳥の力を賞賛するリプの数々。
 そのリプを眺めたのか、黒鳥は満足そうな声で続けた。

 黒鳥響士郎:さてさて、ところで色帯寸止め先生。ガウロンセンで出す作品は?

 色帯寸止め:え、ええ……『無比無敵のオッサン魔導師とビギナー美少女冒険者達の迷宮配信! ~魅惑の罠で生配信がまさかのエチエチな放送に!?~』です。

「や、やめてくれえええええっ!」

 龍はそのタイトルを聞いて号泣した。
 どう考えても成人向けにしか見えないものだ。
 過去に読んだ色帯寸止め先生の二次創作小説の数々。
 その思い出が汚されてしまったような気がした。

 黒鳥響士郎:ふむふむ、そろそろここで質問コーナーと行きましょうか。

 龍が咽び泣く中、黒鳥の声がした。

 黒鳥響士郎:リスナーの中に話したい人はいますか? よろしければリクエストを下さい。

 どうやら、黒鳥はリスナーに呼びかけているようだ。
 サイバーラウンジでは『リクエスト』のボタンがあり、ここを押せば発言者として会話が可能だ。
 暫く沈黙の状態が続いた。
 リスナーは多いようだが直に対話しようとする人は少ないようだ。

 黒鳥響士郎:ほう……。

 黒鳥の声が静かに響いた。
 短いながらも冷たく、敵意と侮蔑を向ける言葉だった。

 黒鳥響士郎:どうぞ。

 どうやら、リスナーから発言者へと変わるアカウントがあるようだ。
 それは一体誰なのか――。

 シュートが強いうまむすこ:よう、集まってるようだな。

 それはとても低く重い男性の声。
 その名は『シュートが強いうまむすこ』。
 アンチストギル梁山泊の男である。(ただしアイコンは美少女アニメのキャラクター)
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