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11 王妃様付き薬師
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でも――その日を境に、事態は大きく動き出した。薬師塔のあちこちで、話したこともなかった薬師たちから声をかけられるようになった。
「例のポーション、分けてもらえないかしら?」
「いくらでも払うから、少しでいいの」
そんな声が後を絶たず、私は困ってしまった。
売り物にするつもりはなかった。ただ、ナナさんとリゼさんに感謝の気持ちを込めて贈っただけの“手作りの一品”。けれど、そう言って断っても、余計に人の興味を引いてしまうようだった。
“手に入らない”と知ると、かえって欲しくなるのが人の心理なのかもしれない。その噂は、あっという間に駆け巡り――ついには王妃様の耳にまで届いた。
数日後。私は、自分の耳を疑った。
「王妃殿下が、あなたの作ったポーションにご興味を持たれたそうです。ぜひ一度、宮殿までお越しください、とのことです」
薬師棟までやって来たのは、王妃様に仕える女官のひとりだった。丁寧で凛とした声。けれど私は、言葉の意味をすぐに理解できず、思考が追いつかず、まばたきを繰り返した。
「……王妃様が、私のポーションを……? どうして……」
「王妃様は最近、眠りが浅く、お体の不調に悩まれていらして。その折に、あなたのポーションの効能が噂で届いたのです。ぜひ一度、お試しになりたいと」
信じられない思いで、胸がざわついた。けれど、すぐに気を取り直して仕事を早めに切り上げ、自宅へ戻る。王妃様のために、新しくポーションを調合した。
……まさか、こんな日が来るなんて。
貴族の女性たちとは違って、私は平民の出。王妃様にお目通りいただく機会なんて、あるはずないと思っていたのに。
翌日、緊張で少し手が震えていたけれど、宮殿の庭園に通された私は、深呼吸して背筋を伸ばした。王妃様はガゼボの中で、優雅に紅茶を嗜まれていた。控えていた侍女が、私にも一杯を用意し、そっと手渡してくれた。
私は一礼してそれを受け取り、持参したポーションを王妃様の前に差し出した。
「まあ……この香り。穏やかで、悪くないわね」
王妃様は、ほとんど迷いも見せず、それを口元へ運ばれた。
一口含んだあと、目を閉じて数秒の沈黙。息を整え、やがて薄く微笑まれる。
「……身体が、すうっと軽くなっていくようね。肩の重さも、さっきまでのだるさも消えてしまったわ。――これは、まるで奇跡ね。あなた、なかなかの腕前だわ」
胸の奥に、じんわりと何かが広がっていく。
私のポーションが、誰かの役に立っている――その実感が、静かに心に染み込んできた。
あの日を境に、王妃様は私のポーションをたいそう気に入られた。やがて私は、“王妃様付き薬師”のひとりとして、定期的に宮殿に呼ばれるようになった――宮廷でもごく一部の薬師にしか許されない、名誉ある役職だ。
その功績が認められ薬師棟では異例の昇進を果たし、私専用の控え室と調合室まで与えられることになった。周囲の視線も明らかに変わっていた。
まさか――ナナさんとリゼさんに贈ろうと思って作ったポーションが、こんな形で広まっていくなんて。
ただ、心を込めて調合しただけだったのに。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※臨時更新です。本日19時にも更新します。夜の更新ではミレイユが悪巧みを考えつきます。
「例のポーション、分けてもらえないかしら?」
「いくらでも払うから、少しでいいの」
そんな声が後を絶たず、私は困ってしまった。
売り物にするつもりはなかった。ただ、ナナさんとリゼさんに感謝の気持ちを込めて贈っただけの“手作りの一品”。けれど、そう言って断っても、余計に人の興味を引いてしまうようだった。
“手に入らない”と知ると、かえって欲しくなるのが人の心理なのかもしれない。その噂は、あっという間に駆け巡り――ついには王妃様の耳にまで届いた。
数日後。私は、自分の耳を疑った。
「王妃殿下が、あなたの作ったポーションにご興味を持たれたそうです。ぜひ一度、宮殿までお越しください、とのことです」
薬師棟までやって来たのは、王妃様に仕える女官のひとりだった。丁寧で凛とした声。けれど私は、言葉の意味をすぐに理解できず、思考が追いつかず、まばたきを繰り返した。
「……王妃様が、私のポーションを……? どうして……」
「王妃様は最近、眠りが浅く、お体の不調に悩まれていらして。その折に、あなたのポーションの効能が噂で届いたのです。ぜひ一度、お試しになりたいと」
信じられない思いで、胸がざわついた。けれど、すぐに気を取り直して仕事を早めに切り上げ、自宅へ戻る。王妃様のために、新しくポーションを調合した。
……まさか、こんな日が来るなんて。
貴族の女性たちとは違って、私は平民の出。王妃様にお目通りいただく機会なんて、あるはずないと思っていたのに。
翌日、緊張で少し手が震えていたけれど、宮殿の庭園に通された私は、深呼吸して背筋を伸ばした。王妃様はガゼボの中で、優雅に紅茶を嗜まれていた。控えていた侍女が、私にも一杯を用意し、そっと手渡してくれた。
私は一礼してそれを受け取り、持参したポーションを王妃様の前に差し出した。
「まあ……この香り。穏やかで、悪くないわね」
王妃様は、ほとんど迷いも見せず、それを口元へ運ばれた。
一口含んだあと、目を閉じて数秒の沈黙。息を整え、やがて薄く微笑まれる。
「……身体が、すうっと軽くなっていくようね。肩の重さも、さっきまでのだるさも消えてしまったわ。――これは、まるで奇跡ね。あなた、なかなかの腕前だわ」
胸の奥に、じんわりと何かが広がっていく。
私のポーションが、誰かの役に立っている――その実感が、静かに心に染み込んできた。
あの日を境に、王妃様は私のポーションをたいそう気に入られた。やがて私は、“王妃様付き薬師”のひとりとして、定期的に宮殿に呼ばれるようになった――宮廷でもごく一部の薬師にしか許されない、名誉ある役職だ。
その功績が認められ薬師棟では異例の昇進を果たし、私専用の控え室と調合室まで与えられることになった。周囲の視線も明らかに変わっていた。
まさか――ナナさんとリゼさんに贈ろうと思って作ったポーションが、こんな形で広まっていくなんて。
ただ、心を込めて調合しただけだったのに。
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※臨時更新です。本日19時にも更新します。夜の更新ではミレイユが悪巧みを考えつきます。
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