【完結】捨てられた薬師は隣国で王太子に溺愛される

青空一夏

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10 ポーション効果

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 薬師塔の廊下を歩いていると、すれ違う薬師たちが妙に私たちの顔をじろじろと見てくる。何かついているのかと思って、そっと頬に手を当ててみたけれど、別に変わったところはなかった。

「リーナ、さっきからなんか視線、感じない?」
 ナナさんも不思議そうに眉をひそめる。
「……はい。私もそう思っていました」
 
 リゼさんも肩をすくめて、周囲を見回す。
「さっき階下で、薬草整理してた若い薬師の子に話しかけられたのよ。『どんな化粧品使ってるんですか?』って」

「化粧品……?」
 私は思わず首をかしげた。だって、私たちが使っているものは特別なものじゃない。誰もが使っているような、肌を整える薬草の化粧水と乾燥対策の保湿軟膏くらい。

「私も聞かれたよ。最近、肌が明るくてツヤがあるとか、髪がしっとりしてるとか……どこの白粉と髪用香油を使ってるの? って」
 ナナさんが肩をすくめて笑う。
「自作なら譲ってほしいって、真顔で言われちゃったよ」

「それ、きっとリーナのポーション効果よ」
 リゼさんがパッと顔を輝かせた。
「実は私も、最近肌の調子がいいって感じてたの。まさか周囲にまで気づかれるなんてね」

 ――恐るべし、ポーション。

 私が作った、あの“欲張りポーション”。美容、疲労回復、快眠、集中力アップまで狙った、ちょっとした挑戦のつもりだったけど……これほど反響があるとは。

「……そんなに違いがでるものなんですね。贈り物として作っただけなのに、なんだかちょっと恥ずかしいです。スフレドリさんにも手伝ってもらったんですよ」

「恥ずかしがることないよ! ほんと、目尻のしわも気にならなくなってきたし、お化粧のノリもばっちり。……こういう小さな変化でも、鏡を見るのがちょっと楽しくなるんだから不思議だよね」
 ナナさんが楽しげに目を細めた。
「スフレドリ、すっかり裏手の森に住み着いちゃったね。私たちには近寄ってこないけど、リーナにはすごく懐いてる。まるっこくて、ふわふわしてて、見てるだけで癒されるよ。最近はリーナのそばにぴたっとくっついて、ポーション作りもお手伝いしてるなんて……いいチームだよね!」

「夜ぐっすり眠れるようになったのも嬉しいわ。おかげで朝もすっきり起きられるし、体のだるさもなくなったの。……本当に、ありがとう」
 リゼさんは優しく私に微笑んでくれた。

 ――嬉しい。でも。これは、あくまで私の気持ちとして贈ったものだったのに。こんなふうに噂になっていくなんて、少し複雑な気分。

「……このことは、私たちだけの秘密にしておきませんか?」
 そう言いかけたそのとき――

「――あっ!」
 ナナさんが、口元を押さえて小さく叫んだ。

「どうしたんですか?」
 私が問いかけると、ナナさんはバツが悪そうに視線をそらした。

「……この前ね、薬師仲間のひとりに言われたの。『最近、元気そうだし肌つやがいいわね?』って。それで、つい……」
 ナナさんは申し訳なさそうに眉を下げる。
「『リーナがくれたポーション、すっごく効くのよ!』って言っちゃったの……ごめん。だって、あんまりにも誇らしくて……可愛い後輩を、ちょっと自慢したくなっちゃって……」

 私はぽかんとし、それからゆっくりと笑った。
「……そういうことなら、仕方ありませんね」

 でも――その日を境に、事態は大きく動き出した。







 
 
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