【完結】捨てられた薬師は隣国で王太子に溺愛される

青空一夏

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15 追放すれば、光は戻る

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「この香り……ハーブの調合が見事ね。さすが王宮薬師といったところかしら」

 カップを軽く揺らしながら、私は一口、ハーブティーをすする。
 温かな香気が鼻を抜け、柔らかな味が舌に広がる。

 リーナは、向かいの椅子に静かに座っていた。その隣では、彼女の薬師仲間らしい二人の女性が、じっと私を見つめている。

 まるで、リーナの後見人にでもなったつもりかしら?
 居心地が悪いわね。

「新しいお仕事には、もう慣れてきたのかしら? 王妃殿下のポーション作りともなれば、さぞ気を遣うでしょうね」
「そうですね。……でも、やりがいはあります」

 なんて殊勝なことを言うのかしら。
 その顔には悩みの影ひとつなくて、前よりもずっと晴れやかに見えた。

 ――それに、綺麗になっていたわ。
 ほんと、憎たらしい女。

 ふっと笑みを浮かべる。
 さて。そろそろ“仕掛ける”時間ね。

 私はわざとらしくカップを置き、ふと眉をひそめた。
「……あら?」
「……?」
「なんだか、変な感じがするの。……すぐそこから……」
 私は身を乗り出し、窓の外――裏庭の方を見た。

「妙な波動……これは……魔力の揺らぎかしら」
 あくまでも“聖女”としての感覚。
 信仰深い人間なら、誰も疑わない“証拠のいらない力”よ。

「まあ、素敵なお庭ですこと。お茶をいただいている間から気になっていたの。少し、拝見してもよろしくて?」
「……どうぞ」
 リーナの隣に座る薬師のひとりが静かに頷いた瞬間、私はすっと立ち上がり、裏口へと向かう。
 薬草の香りと土の匂いが混じる中、すぐに目的の場所へ向かう。

「……ここ……このあたり、妙に禍々まがまがしい気配がするわ……」
 私はしゃがみ込み、指先でゆっくりと土を撫でた。
 ふと、指に触れるわずかな違和感。
 柔らかな布の感触。――これね。

 私は慎重にそれを引き上げる。露わになったのは、黒い儀式布。黒蛇の抜け殻。そして――干からびた3つ目トカゲの尾。

 一拍置いてから、私はしっかりと声に出した。
「……これは――いったい、何かしら?」

 声はあくまで穏やかに。けれど、少しだけ震えているようにも聞こえるように。
 まるで、“善き者が悪に触れてしまった”時のように。

 振り返れば、リーナと同居人たちが、目を見開いてこちらを見ていた。
 その顔に浮かんでいたのは、まさしく――“驚き”だった。

「これって……禁忌の呪術に使われるとされるものばかりじゃない……!」
 私はここでもあえて、声を震わせる。

「まさか、リーナさん……あなた、この家で何を……?」
 唖然としたような口調、でも心の中ではほくそ笑んでいた。

 ――これで、十分。
 あとは、“聖女の告発”として、王妃殿下に報告すればいい。

 リーナは魔女。
 私は、国を守るために悪しき魔女を排除する――そう、あんたなんか、早くこの国から追放されろ!

 だって、そうすれば私の力は戻るもの。なぜなら――聖典に記されていたわ。
、その憎しみを」と。

 それはきっと、リーナのことよ。
 そして、神官も言っていた。
 「のです」と。

 ――間違いないわ。すべてが繋がっている。

 だから私が正しい。
 神の光を取り戻すためにも、リーナを排除しなければならないのよ!
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