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第3話 美優への復讐
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一方、その光景を見下ろす者がいた。高級ホテルの一室、窓際のソファに腰掛けたレイカは、ワイングラスを揺らしながら、パソコンの画面を見つめていた。
「……案の定、動揺しているわね」
画面には、美優の姿が映し出されていた。編集長室に仕掛けた小型カメラが、彼女の動揺する様子を余すことなく捉えている。レイカが築き上げた人脈を活用し、協力者が清掃業者として潜入、短時間で隠しカメラを設置したのだ。
椅子から崩れ落ち、膝をついて震える美優。蒼白な顔、こわばる指先、震える唇——レイカは冷ややかにその様子を見つめる。喉の奥で絞り出すような呻き声が聞こえるたび、胸の奥で冷たい満足感が広がっていく。
全てが、思い通りの展開だった。
「まさか、七瀬凛が生きているなんて思ってないものね?」
彼女の死は、世間ではすでに事実のように認識されていた。数年前、彼女が出所した後に消息不明となり、両親の自殺を苦にして命を絶ったという噂が広まっている。報道では取り上げられなかったが、関係者の間ではまことしやかに囁かれていたのだ。
「あなたが築き上げた“素敵なキャリア”、じわじわと崩れていく様を見せてもらうわ」
レイカは美優が最も信頼を寄せる、以前接触した部下とは別の女性記者に目をつけた。彼女が行きつけのバーに潜入し、偶然を装って隣の席に座る。そして、タイミングを見計らい、親しげに声をかけた。
今のレイカは、名の知れた実業家として社交界でも顔が利く存在だ。相手はマスコミ関係者。そんなレイカに話しかけられたことで、女性記者は驚きつつも嬉しそうに頬を緩ませた。
「私、美優さんとは何度もパーティーでお会いしているのよ。今ではすっかり親友なの。本当に仕事熱心で、純粋なところがあって、尊敬できる方だわ」
レイカが無邪気に美優を褒めちぎる。もちろん、意図的に。終いには、そんな素晴らしい上司のもとで働けるなんて幸せね、と微笑んでみせた。
女性記者はカクテルグラスを揺らしながら、心底おかしそうに吹き出した。すでに7杯目、完全にいい気分に浸っている。
「純粋? 尊敬? あははは! それ、本気で言ってるの? だってさ……私たち、情報を得るためなら何でもやるのよ? 編集長だって……ねぇ?」
酒の勢いも手伝い、記者はあっさりと美優の裏の顔を暴露し始めた。
「まさか……嘘でしょう? あんなに素敵な方が、そんなこと想像もできないわ」
レイカが驚いたように目を見開くと、女性記者は大げさに吹き出した。
よほど日頃の鬱憤が溜まっていたのだろう。
記者は、美優がレアな情報欲しさに枕営業を行っていた相手――芸能プロダクションの幹部や、法曹界と癒着したコンサルティング会社の役員との会食の様子を、次々と暴露し始めた。さらには、彼女がよく利用する高級ホテルや、頻繁に使われるスイートルームの部屋番号まで、鼻で笑いながら明かす。
——ここまで掴めば、証拠を確保するのは簡単。
レイカは静かにグラスを傾けながら、次の一手を思い描いた。ターゲットの動きを把握し、ホテルのルームサービススタッフや客室係を味方につけることなど、今の彼女にとって造作もない。
そして数日後――隠しカメラが捉えた映像には、決定的な瞬間が映っていた。
美優が法曹界と癒着したコンサルティング会社の役員に甘えながら、情報を強請り身を委ねる姿。その会話の中で、冤罪や記事の捏造を当たり前のように語る声が、はっきりと記録されていた。
「冤罪を作った私が悪いんじゃないわ。捏造される隙を見せるほうが悪いのよ。自業自得よね?」
美優の声は驚くほどクリアに録音され、その後のあられもない姿も、カメラは逃さず収めていた。
レイカは、録画された映像を確認しながら、静かに微笑んだ。
「ここからが本番よ」
グラスを揺らしながら、ゆっくりとワインを口に含む。
「さあ、あなたの転落劇の幕開けよ。――東栄出版社もろとも、潰してあげる」
◆◇◆
数日後、美優のオフィスに再び封筒が届いた。今度の封筒には、一枚のUSBメモリが入っていた。不審に思いながらも、美優はそれをパソコンに差し込む。
すると、画面には動画ファイルが表示され、それをクリックすると——そこに映っていたのは、美優自身だった。
情報を得るための接待の一環として行われた枕営業——耳を覆いたくなるような自分の暴言と嬌声。美優の顔から血の気が引いた。
「嘘……一体……誰が……?」
この映像が流出すれば、彼女のキャリアは確実に終わる。
その瞬間、動画が途切れ暗転した画面に文字が浮かび上がった。
——お久しぶりね、美優——
文字とともに声が聞こえた。美優の手が震える。
この声は知っている。かつては親友として、聞き慣れた女の声。
——なぜ、私を嵌めたの? 親友だったのに。
――それほど翔が好きだった? 私を犯罪者にする必要まであったの?
美優は息を呑んだ。七瀬凛は——死んだはずだった。
それなのに、この声は間違いなく凛の声だ。
「……嘘……嘘よ……! ありえない……! だって、噂では死んだって……!」
美優は思わず椅子から立ち上がり、部屋を見回す。だが、もちろん、そこに誰もいない。
冷たい汗が背中を伝う。心臓が早鐘のように鳴る。
「ごめんなさい、ごめんなさい……! 私、凛が羨ましかったの……嫉妬していたのよ。誰からも好かれて、成績も優秀で……翔とも付き合って、生徒会副会長で……全部、全部あんたが持っていた。それが憎らしくてたまらなかったの……。だから、早瀬先生が計画を持ちかけたとき、迷わず乗ったのよ。悪いのは早瀬よ。私は……ただ流されただけ……」
レイカは、美優の震える声を聞きながら、わずかに首を傾げた。編集長室に仕掛けた隠しカメラの映像が、リアルタイムでレイカのパソコンに映し出されている。
——動機は単純。嫉妬と妬み。そんな些細な感情で、私の人生を壊した。
――美優に相応しい罰を受けてもらわなきゃね。
レイカの瞳に冷えた光が宿った。
その夜、美優は悪夢にうなされた。
何者かに追われ、必死に逃げる夢。
しかし、どこへ逃げても、彼女を追い詰める影があった。
目が覚めたとき、美優は全身汗だくになっていた。
「……七瀬凛……まさか、生きているの?」
◆◇◆
翌日、美優のもとに週刊誌記者が突撃取材を仕掛けた。東栄出版社のライバル誌『週刊パパラッチ』の記者だ。彼らの得意分野はスキャンダル暴露。レイカは匿名で美優の不正を密告し、確実に炎上するよう仕向けていた。
「佐伯編集長、不適切な接待についてお聞かせください。編集長自ら枕営業をしていたそうですね? しかも、部下の女性記者にまで強要していたとか?」
マイクを突きつけられた美優は、表情を強張らせた。言葉を発しようとしたが、喉がひりつくように乾いている。記者たちのフラッシュが容赦なく焚かれ、その様子は即座にネットに拡散された。
SNSでは瞬く間に#佐伯美優枕営業 #東栄出版社の闇がトレンド入り。さらに、元部下たちが続々と内部告発を始めた。
YouTuberたちも動き出す。「佐伯美優の裏の顔」と題した動画が次々と投稿され、彼女の編集長としての強権的な態度、捏造記事の強要、えん罪による自殺者の存在、業界の裏事情、そして枕営業の決定的証拠までが暴露されていった。
『佐伯美優の過去を知る方、情報提供をお願いします!』
ネット上では煽るようなスレッドが乱立し、匿名掲示板やSNSでは美優に関する情報が飛び交う。彼女の住所や電話番号、家族構成までもが晒され、脅迫めいたメッセージが届くようになった。
さらに、過去の凛の事件まで掘り返される。とある匿名アカウントが投稿した。
『実は七瀬凛は冤罪だったのでは?』
『親友を陥れた?腹黒編集長の黒歴史』
それを皮切りに、凛を陥れた証拠までがネットに流出する。かつて美優が「七瀬凛の鞄に自分の財布を忍ばせた」と冗談めかして話していた音声データまで公開され、美優に対する世間の怒りはさらに加速した。
『週刊パパラッチ』は、美優と東栄出版社を徹底的に追い詰める。
皮肉にも、それはかつて凛やその両親を執拗に追い詰めた東栄出版社と同じ手法だった。
まさしく因果応報――すべては、美優が撒いた種の結果だった。
「やめて……お願い、やめてよ……」
誰に向けた言葉なのかもわからない。美優は震える指でスマホを操作するが、どのアカウントも炎上し、罵詈雑言が並ぶ。
頭痛がひどい。食事も喉を通らない。夜になれば悪夢にうなされ、まともに眠ることすらできない。
東栄出版社は次々とスポンサーを失い、企業イメージは地に落ちた。経営危機に陥った東栄出版社は、あっという間に潰れた。そして、美優自身も逃げ場を失う。
やがて、耐えきれなくなった美優は精神を病み、家族の手によって精神病院へと入院させられた。
◆◇◆
病室の片隅で、美優は楽しげに微笑んでいた。
「ねぇ凛、今日の授業どうだった? また先生に褒められたんでしょ?」
ベッドの上で、制服の襟元を直す仕草をしながら、美優は誰もいない空間に語りかける。
「宿題、一緒にやろうよ。ほら、いつものみたいに……凛が教えてくれると、私、すぐにわかるんだから」
目の前には何もない。だが、美優の世界では、そこに確かに凛がいた。
だが、それは温かな記憶では終わらなかった。
ふと、空気が変わる。病室の壁がぼやけ、歪む。暗闇の中から、かすれた声が聞こえた。
「……美優……どうして……? どうして、私を嵌めたの?」
はっと顔を上げた美優の視界に、幻が次々と現れる。
――血に濡れた手を差し出す凛の姿が浮かび上がる。
——美優が記事を捏造し、虚偽のスキャンダルをでっち上げたせいで冤罪に陥った男。
——スクープのために無理やりプライベートを暴かれ、人生を狂わされた女優。
——枕営業を強要され、耐えかねて業界を去った女性記者。
皆、無言で美優を見つめていた。目は虚ろで、憎しみに染まっている。
「やめてよ、来ないで! 私のせいじゃない……」
美優は肩を抱き、震えながら呟く。
だが、幻影たちは決して彼女を許さない。
寝ても覚めても、その幻が消えることはない。
「美優のせいで……」
「お前のせいで……」
「どうして……私の人生を壊したの……?」
「あたしに謝れ……!」
耳を塞いでも、声は止まらない。閉じたまぶたの裏に、赤黒い影が渦を巻く。
美優の世界は過去の幸せな記憶と、復讐に燃える幻の狭間で崩れ去っていった。
美優の地獄は死ぬまで終わらない……
「……案の定、動揺しているわね」
画面には、美優の姿が映し出されていた。編集長室に仕掛けた小型カメラが、彼女の動揺する様子を余すことなく捉えている。レイカが築き上げた人脈を活用し、協力者が清掃業者として潜入、短時間で隠しカメラを設置したのだ。
椅子から崩れ落ち、膝をついて震える美優。蒼白な顔、こわばる指先、震える唇——レイカは冷ややかにその様子を見つめる。喉の奥で絞り出すような呻き声が聞こえるたび、胸の奥で冷たい満足感が広がっていく。
全てが、思い通りの展開だった。
「まさか、七瀬凛が生きているなんて思ってないものね?」
彼女の死は、世間ではすでに事実のように認識されていた。数年前、彼女が出所した後に消息不明となり、両親の自殺を苦にして命を絶ったという噂が広まっている。報道では取り上げられなかったが、関係者の間ではまことしやかに囁かれていたのだ。
「あなたが築き上げた“素敵なキャリア”、じわじわと崩れていく様を見せてもらうわ」
レイカは美優が最も信頼を寄せる、以前接触した部下とは別の女性記者に目をつけた。彼女が行きつけのバーに潜入し、偶然を装って隣の席に座る。そして、タイミングを見計らい、親しげに声をかけた。
今のレイカは、名の知れた実業家として社交界でも顔が利く存在だ。相手はマスコミ関係者。そんなレイカに話しかけられたことで、女性記者は驚きつつも嬉しそうに頬を緩ませた。
「私、美優さんとは何度もパーティーでお会いしているのよ。今ではすっかり親友なの。本当に仕事熱心で、純粋なところがあって、尊敬できる方だわ」
レイカが無邪気に美優を褒めちぎる。もちろん、意図的に。終いには、そんな素晴らしい上司のもとで働けるなんて幸せね、と微笑んでみせた。
女性記者はカクテルグラスを揺らしながら、心底おかしそうに吹き出した。すでに7杯目、完全にいい気分に浸っている。
「純粋? 尊敬? あははは! それ、本気で言ってるの? だってさ……私たち、情報を得るためなら何でもやるのよ? 編集長だって……ねぇ?」
酒の勢いも手伝い、記者はあっさりと美優の裏の顔を暴露し始めた。
「まさか……嘘でしょう? あんなに素敵な方が、そんなこと想像もできないわ」
レイカが驚いたように目を見開くと、女性記者は大げさに吹き出した。
よほど日頃の鬱憤が溜まっていたのだろう。
記者は、美優がレアな情報欲しさに枕営業を行っていた相手――芸能プロダクションの幹部や、法曹界と癒着したコンサルティング会社の役員との会食の様子を、次々と暴露し始めた。さらには、彼女がよく利用する高級ホテルや、頻繁に使われるスイートルームの部屋番号まで、鼻で笑いながら明かす。
——ここまで掴めば、証拠を確保するのは簡単。
レイカは静かにグラスを傾けながら、次の一手を思い描いた。ターゲットの動きを把握し、ホテルのルームサービススタッフや客室係を味方につけることなど、今の彼女にとって造作もない。
そして数日後――隠しカメラが捉えた映像には、決定的な瞬間が映っていた。
美優が法曹界と癒着したコンサルティング会社の役員に甘えながら、情報を強請り身を委ねる姿。その会話の中で、冤罪や記事の捏造を当たり前のように語る声が、はっきりと記録されていた。
「冤罪を作った私が悪いんじゃないわ。捏造される隙を見せるほうが悪いのよ。自業自得よね?」
美優の声は驚くほどクリアに録音され、その後のあられもない姿も、カメラは逃さず収めていた。
レイカは、録画された映像を確認しながら、静かに微笑んだ。
「ここからが本番よ」
グラスを揺らしながら、ゆっくりとワインを口に含む。
「さあ、あなたの転落劇の幕開けよ。――東栄出版社もろとも、潰してあげる」
◆◇◆
数日後、美優のオフィスに再び封筒が届いた。今度の封筒には、一枚のUSBメモリが入っていた。不審に思いながらも、美優はそれをパソコンに差し込む。
すると、画面には動画ファイルが表示され、それをクリックすると——そこに映っていたのは、美優自身だった。
情報を得るための接待の一環として行われた枕営業——耳を覆いたくなるような自分の暴言と嬌声。美優の顔から血の気が引いた。
「嘘……一体……誰が……?」
この映像が流出すれば、彼女のキャリアは確実に終わる。
その瞬間、動画が途切れ暗転した画面に文字が浮かび上がった。
——お久しぶりね、美優——
文字とともに声が聞こえた。美優の手が震える。
この声は知っている。かつては親友として、聞き慣れた女の声。
——なぜ、私を嵌めたの? 親友だったのに。
――それほど翔が好きだった? 私を犯罪者にする必要まであったの?
美優は息を呑んだ。七瀬凛は——死んだはずだった。
それなのに、この声は間違いなく凛の声だ。
「……嘘……嘘よ……! ありえない……! だって、噂では死んだって……!」
美優は思わず椅子から立ち上がり、部屋を見回す。だが、もちろん、そこに誰もいない。
冷たい汗が背中を伝う。心臓が早鐘のように鳴る。
「ごめんなさい、ごめんなさい……! 私、凛が羨ましかったの……嫉妬していたのよ。誰からも好かれて、成績も優秀で……翔とも付き合って、生徒会副会長で……全部、全部あんたが持っていた。それが憎らしくてたまらなかったの……。だから、早瀬先生が計画を持ちかけたとき、迷わず乗ったのよ。悪いのは早瀬よ。私は……ただ流されただけ……」
レイカは、美優の震える声を聞きながら、わずかに首を傾げた。編集長室に仕掛けた隠しカメラの映像が、リアルタイムでレイカのパソコンに映し出されている。
——動機は単純。嫉妬と妬み。そんな些細な感情で、私の人生を壊した。
――美優に相応しい罰を受けてもらわなきゃね。
レイカの瞳に冷えた光が宿った。
その夜、美優は悪夢にうなされた。
何者かに追われ、必死に逃げる夢。
しかし、どこへ逃げても、彼女を追い詰める影があった。
目が覚めたとき、美優は全身汗だくになっていた。
「……七瀬凛……まさか、生きているの?」
◆◇◆
翌日、美優のもとに週刊誌記者が突撃取材を仕掛けた。東栄出版社のライバル誌『週刊パパラッチ』の記者だ。彼らの得意分野はスキャンダル暴露。レイカは匿名で美優の不正を密告し、確実に炎上するよう仕向けていた。
「佐伯編集長、不適切な接待についてお聞かせください。編集長自ら枕営業をしていたそうですね? しかも、部下の女性記者にまで強要していたとか?」
マイクを突きつけられた美優は、表情を強張らせた。言葉を発しようとしたが、喉がひりつくように乾いている。記者たちのフラッシュが容赦なく焚かれ、その様子は即座にネットに拡散された。
SNSでは瞬く間に#佐伯美優枕営業 #東栄出版社の闇がトレンド入り。さらに、元部下たちが続々と内部告発を始めた。
YouTuberたちも動き出す。「佐伯美優の裏の顔」と題した動画が次々と投稿され、彼女の編集長としての強権的な態度、捏造記事の強要、えん罪による自殺者の存在、業界の裏事情、そして枕営業の決定的証拠までが暴露されていった。
『佐伯美優の過去を知る方、情報提供をお願いします!』
ネット上では煽るようなスレッドが乱立し、匿名掲示板やSNSでは美優に関する情報が飛び交う。彼女の住所や電話番号、家族構成までもが晒され、脅迫めいたメッセージが届くようになった。
さらに、過去の凛の事件まで掘り返される。とある匿名アカウントが投稿した。
『実は七瀬凛は冤罪だったのでは?』
『親友を陥れた?腹黒編集長の黒歴史』
それを皮切りに、凛を陥れた証拠までがネットに流出する。かつて美優が「七瀬凛の鞄に自分の財布を忍ばせた」と冗談めかして話していた音声データまで公開され、美優に対する世間の怒りはさらに加速した。
『週刊パパラッチ』は、美優と東栄出版社を徹底的に追い詰める。
皮肉にも、それはかつて凛やその両親を執拗に追い詰めた東栄出版社と同じ手法だった。
まさしく因果応報――すべては、美優が撒いた種の結果だった。
「やめて……お願い、やめてよ……」
誰に向けた言葉なのかもわからない。美優は震える指でスマホを操作するが、どのアカウントも炎上し、罵詈雑言が並ぶ。
頭痛がひどい。食事も喉を通らない。夜になれば悪夢にうなされ、まともに眠ることすらできない。
東栄出版社は次々とスポンサーを失い、企業イメージは地に落ちた。経営危機に陥った東栄出版社は、あっという間に潰れた。そして、美優自身も逃げ場を失う。
やがて、耐えきれなくなった美優は精神を病み、家族の手によって精神病院へと入院させられた。
◆◇◆
病室の片隅で、美優は楽しげに微笑んでいた。
「ねぇ凛、今日の授業どうだった? また先生に褒められたんでしょ?」
ベッドの上で、制服の襟元を直す仕草をしながら、美優は誰もいない空間に語りかける。
「宿題、一緒にやろうよ。ほら、いつものみたいに……凛が教えてくれると、私、すぐにわかるんだから」
目の前には何もない。だが、美優の世界では、そこに確かに凛がいた。
だが、それは温かな記憶では終わらなかった。
ふと、空気が変わる。病室の壁がぼやけ、歪む。暗闇の中から、かすれた声が聞こえた。
「……美優……どうして……? どうして、私を嵌めたの?」
はっと顔を上げた美優の視界に、幻が次々と現れる。
――血に濡れた手を差し出す凛の姿が浮かび上がる。
——美優が記事を捏造し、虚偽のスキャンダルをでっち上げたせいで冤罪に陥った男。
——スクープのために無理やりプライベートを暴かれ、人生を狂わされた女優。
——枕営業を強要され、耐えかねて業界を去った女性記者。
皆、無言で美優を見つめていた。目は虚ろで、憎しみに染まっている。
「やめてよ、来ないで! 私のせいじゃない……」
美優は肩を抱き、震えながら呟く。
だが、幻影たちは決して彼女を許さない。
寝ても覚めても、その幻が消えることはない。
「美優のせいで……」
「お前のせいで……」
「どうして……私の人生を壊したの……?」
「あたしに謝れ……!」
耳を塞いでも、声は止まらない。閉じたまぶたの裏に、赤黒い影が渦を巻く。
美優の世界は過去の幸せな記憶と、復讐に燃える幻の狭間で崩れ去っていった。
美優の地獄は死ぬまで終わらない……
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