41 / 43
41.ローデンサイド
しおりを挟む
ヘンリーとの会話を終えて、部屋を出たところで、ローデンは苦々しく顔を歪ませた。
こんなに不愉快なのは、本当に久しぶりだ。
最近で最も不愉快だったのは、前伯爵でありヘンリーの父親が借金を追い、ヘンリーに成金子爵家との政略結婚を命じた時だ。
しかし、今はそれ以上だった。
衛兵隊が来る。
この美しい邸宅を汚らわしくも踏み荒らそうとする者たち。
そして、この邸宅の何もかもを侮辱する行為を行う者たち。
「ふふふ、……まさかこれほどとはな」
ローデンは、思わず笑い声が口から洩れた。
衛兵隊を動かすという事は、すでに王家との話し合いはすんでいるとみて間違いはない。
ほとんどの上級貴族は、人には言えない後ろ暗い事の一つや二つある。それで、国が回っているのだから、国王とて簡単には手が出せない。
ましてや、犯罪者と確定している訳でもないのに、衛兵隊が来るとは、本気で伯爵家を見限ったとみる方がいい。
ヘンリーはそこまで考えていない。
この邸宅で行われていたことは、世間一般では犯罪と言われる部類でも、貴族にとってはそうではないと思っている。
それは事実だ。
誰も、貴族の邸宅内でおこったことは口には出さない。
出したとしても、それが大事件に繋がることはない。
そういう風にできているのだ。
「親しいご友人の情報は本当にただしいのか」
自分の育てたヘンリーは少しばかり鈍く頭の回転も遅いが、ローデンがやりやすいので別に問題は無かった。
貴族としては見てくれがいいので、そんなに問題になる事は無かったが、こういう時は困りものなのも確かだ。
「ふー、全く最近は忙しい……余計な邪魔ばかり入る」
ふと、立ち止まり、考えてみれば、ここ最近からではない気がした。
前伯爵の時代から、少しずつ上手くいかないことが増えた。
特に、投資が失敗したとき。
あの時は、無能な当主のせいだと思ったが、今考えれば、誰かが故意に陥れたようにも思えた。
「まさか、あれから?」
ローデンは常に冷静であれと、言われて育った。
いついかなる時でも、家門を守るようにと。
ヘンリーはローデンが育てた。
思い入れが人一倍ある自覚はあるが――。
「……腹の子を処分するのは時期尚早だったか――」
まもなく来るであろう、衛兵隊に上手く訴えることが出来れば、家門くらいは守れるかもしれない。
ヘンリーはマリアの腹の子供を自分の子供ではないと切り捨てたが、ローデンはアリアの腹の子はヘンリーの子供で間違いないだろうと思っていた。
そこは疑ってはいない。
あれだけ寵愛して、この邸宅からほとんど外に出ないマリアが、他で男と楽しんでいるなど考えられないからだ。
あばずれだとは思うが、そこまで愚かでもない。
「さて、どうやって処分するか」
一応、最低限は掃除をしておかなければならない。
間に合わなくとも、あとはヘンリーの責めにすれば、大切なヘンリーがすべての責任者となってくれる筈だ。
「子供は、数人いますしね」
あれだけ好き勝手に女を抱けば、少なからず子供ができる。
マリアの腹の子だけでない私生児は、それこそ数人存在していた。
はじめは殺そうとも思ったが、何人かは生かしている。
まさに、自分の判断を褒めたいところだ。
「教育を施し、一から始めればいいだけだ」
ヘンリーに代わる子供を育てる。
認めたくはないが、教育が間違っていた。
「そのために、今から動かなければならないな」
ローデンは執事だ。
主人のため、いや家門のために生きている。
たとえ、当主を失っても、この一族の事を誰よりも知っているローデンが生き残れば、再興することは出来る。
逆に言えば、当主が生き残っても、ローデンがいなくなれば、きっと落ちぶれて消えていく。
「はあ、私ももっと優秀な子供を作るべきか……」
一番優秀だと思っていた子供が、実は一番反抗的で感情的な無能だったので追い出した。
その後何人も子供を持ち、この邸宅の下働きなどをさせてはいたが、下男止まりで目をかけるほどの存在にはなり得なかった。
「さて、少し細工を施しておこう。簡単にばれてしまってはおもしくはない」
ローデンが階下への階段を降り始めた時、普段静かな邸宅が、騒々しさが伝わってきた。
何事かと思い、階下の出来事を眺めるとローデンがぐっとこぶしを握った。
「仕事が早いことだ」
そこにはすでに邸宅に押し掛けた衛兵隊がずらりと並んでいた。
こんなに不愉快なのは、本当に久しぶりだ。
最近で最も不愉快だったのは、前伯爵でありヘンリーの父親が借金を追い、ヘンリーに成金子爵家との政略結婚を命じた時だ。
しかし、今はそれ以上だった。
衛兵隊が来る。
この美しい邸宅を汚らわしくも踏み荒らそうとする者たち。
そして、この邸宅の何もかもを侮辱する行為を行う者たち。
「ふふふ、……まさかこれほどとはな」
ローデンは、思わず笑い声が口から洩れた。
衛兵隊を動かすという事は、すでに王家との話し合いはすんでいるとみて間違いはない。
ほとんどの上級貴族は、人には言えない後ろ暗い事の一つや二つある。それで、国が回っているのだから、国王とて簡単には手が出せない。
ましてや、犯罪者と確定している訳でもないのに、衛兵隊が来るとは、本気で伯爵家を見限ったとみる方がいい。
ヘンリーはそこまで考えていない。
この邸宅で行われていたことは、世間一般では犯罪と言われる部類でも、貴族にとってはそうではないと思っている。
それは事実だ。
誰も、貴族の邸宅内でおこったことは口には出さない。
出したとしても、それが大事件に繋がることはない。
そういう風にできているのだ。
「親しいご友人の情報は本当にただしいのか」
自分の育てたヘンリーは少しばかり鈍く頭の回転も遅いが、ローデンがやりやすいので別に問題は無かった。
貴族としては見てくれがいいので、そんなに問題になる事は無かったが、こういう時は困りものなのも確かだ。
「ふー、全く最近は忙しい……余計な邪魔ばかり入る」
ふと、立ち止まり、考えてみれば、ここ最近からではない気がした。
前伯爵の時代から、少しずつ上手くいかないことが増えた。
特に、投資が失敗したとき。
あの時は、無能な当主のせいだと思ったが、今考えれば、誰かが故意に陥れたようにも思えた。
「まさか、あれから?」
ローデンは常に冷静であれと、言われて育った。
いついかなる時でも、家門を守るようにと。
ヘンリーはローデンが育てた。
思い入れが人一倍ある自覚はあるが――。
「……腹の子を処分するのは時期尚早だったか――」
まもなく来るであろう、衛兵隊に上手く訴えることが出来れば、家門くらいは守れるかもしれない。
ヘンリーはマリアの腹の子供を自分の子供ではないと切り捨てたが、ローデンはアリアの腹の子はヘンリーの子供で間違いないだろうと思っていた。
そこは疑ってはいない。
あれだけ寵愛して、この邸宅からほとんど外に出ないマリアが、他で男と楽しんでいるなど考えられないからだ。
あばずれだとは思うが、そこまで愚かでもない。
「さて、どうやって処分するか」
一応、最低限は掃除をしておかなければならない。
間に合わなくとも、あとはヘンリーの責めにすれば、大切なヘンリーがすべての責任者となってくれる筈だ。
「子供は、数人いますしね」
あれだけ好き勝手に女を抱けば、少なからず子供ができる。
マリアの腹の子だけでない私生児は、それこそ数人存在していた。
はじめは殺そうとも思ったが、何人かは生かしている。
まさに、自分の判断を褒めたいところだ。
「教育を施し、一から始めればいいだけだ」
ヘンリーに代わる子供を育てる。
認めたくはないが、教育が間違っていた。
「そのために、今から動かなければならないな」
ローデンは執事だ。
主人のため、いや家門のために生きている。
たとえ、当主を失っても、この一族の事を誰よりも知っているローデンが生き残れば、再興することは出来る。
逆に言えば、当主が生き残っても、ローデンがいなくなれば、きっと落ちぶれて消えていく。
「はあ、私ももっと優秀な子供を作るべきか……」
一番優秀だと思っていた子供が、実は一番反抗的で感情的な無能だったので追い出した。
その後何人も子供を持ち、この邸宅の下働きなどをさせてはいたが、下男止まりで目をかけるほどの存在にはなり得なかった。
「さて、少し細工を施しておこう。簡単にばれてしまってはおもしくはない」
ローデンが階下への階段を降り始めた時、普段静かな邸宅が、騒々しさが伝わってきた。
何事かと思い、階下の出来事を眺めるとローデンがぐっとこぶしを握った。
「仕事が早いことだ」
そこにはすでに邸宅に押し掛けた衛兵隊がずらりと並んでいた。
57
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る
基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」
若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。
実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。
一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。
巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。
ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。
けれど。
「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」
結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。
※復縁、元サヤ無しです。
※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました
※えろありです
※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ)
※タイトル変更→旧題:黒い結婚
傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う
ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――?
エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。
従姉の子を義母から守るために婚約しました。
しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。
しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。
再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。
シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。
ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。
当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって…
歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
愛さないと言うけれど、婚家の跡継ぎは産みます
基本二度寝
恋愛
「君と結婚はするよ。愛することは無理だけどね」
婚約者はミレーユに恋人の存在を告げた。
愛する女は彼女だけとのことらしい。
相手から、侯爵家から望まれた婚約だった。
真面目で誠実な侯爵当主が、息子の嫁にミレーユを是非にと望んだ。
だから、娘を溺愛する父も認めた婚約だった。
「父も知っている。寧ろ好きにしろって言われたからね。でも、ミレーユとの婚姻だけは好きにはできなかった。どうせなら愛する女を妻に持ちたかったのに」
彼はミレーユを愛していない。愛する気もない。
しかし、結婚はするという。
結婚さえすれば、これまで通り好きに生きていいと言われているらしい。
あの侯爵がこんなに息子に甘かったなんて。
貴方の記憶が戻るまで
cyaru
恋愛
「君と結婚をしなくてはならなくなったのは人生最大の屈辱だ。私には恋人もいる。君を抱くことはない」
初夜、夫となったサミュエルにそう告げられたオフィーリア。
3年経ち、子が出来ていなければ離縁が出来る。
それを希望に間もなく2年半となる時、戦場でサミュエルが負傷したと連絡が入る。
大怪我を負ったサミュエルが目を覚ます‥‥喜んだ使用人達だが直ぐに落胆をした。
サミュエルは記憶を失っていたのだった。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※作者都合のご都合主義です。作者は外道なので気を付けてください(何に?‥いろいろ)
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる