番認定された王女は愛さない

青葉めいこ

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 結局リーヴァは、ドゥンガ将軍やグートルーネと一緒にアースラーシャ王国に帰る必要がなくなった。

 グートルーネと話している最中、シグルズが転移魔法で現れたからだ。

 リーヴァはグートルーネとドゥンガ将軍にはアースラーシャ王国に行ってもらい自分はシグルズと一緒に竜帝の元に向かった。

 リーヴァが出奔してもグートルーネとドゥンガ将軍が責められないように竜帝ときちんと話し合って別れるためだ。

 竜帝は一人でリーヴァが後宮に張った防御結界のすぐ外にいた。リーヴァに拒絶され会えなくても近くにいたかったのか。

 会うのは約一ヶ月ぶりか。人型の竜帝は相変わらず美丈夫だが、どこかやつれているように見えた。

「……なぜ、お前が余の番と一緒にいる」

 リーヴァを見て顔を輝かせた竜帝だが、当然のように彼女の隣にいるシグルズに射殺しそうな視線を向けた。

 世界最強の帝国の統治者からそんな眼差しを向けられれば、人間であれ獣人であれ恐怖のあまり心臓がとまるだろう。

 けれど、シグルズは平然としている。

 当然だ。だって彼は――。

「リーヴァを迎えに来ました。竜帝陛下」

「お別れを言いにきましたわ。竜帝陛下」

 淡々と告げるシグルズの後にリーヴァが言った。

「何を言っている。貴女は余の番、余の妻となる女性だ。どこに行くというのだ?」

「……番、妻ね」

 困惑している竜帝に、リーヴァは嘲笑を向けた。

 とても世界最強の帝国の統治者に、しかも番に向けるべき表情ではない。分かっていてもリーヴァは竜帝に対しては、どうしてもこういう顔になってしまう。

「わたくしはもうシグルズと結婚したわ」

 世間的には死ぬ事になるのだから自分はもうアースラーシャ王国の王女ではなくなる。祖国のために竜帝に敬意を払う必要もないだろうとリーヴァは竜帝に対して敬語をやめた。

「……何?」

 すぐには理解できない様子の竜帝にリーヴァは追い打ちをかけた。

「お腹には、シグルズの子もいるわ」

「……何て事を。貴女は余の番だのに、他の男と結婚し子を宿したというのか?」

 竜帝は声こそ荒げなかったが、その口調や表情は明らかにリーヴァを責めていた。

「だから? あなたと結婚するくらいなら、この命を絶つつもりだったわ。あなたと命を共有するのも、あなたと肌を重ねるのも、絶対に嫌だったもの」

「貴女は余の番だ! なぜ、そこまで余を拒む!?」

 竜帝は初めてリーヴァに対して声を荒げた。

 竜帝の怒気に気の弱い者なら怯えるだろうが、リーヴァは平然としていた。

 竜帝からさえ我が身を守れる防御蹴柿を張れるようになった事。

 母となり精神的に強くなった事。

 それらがリーヴァが怯える事なく竜帝と対峙できる理由だ。

「そんなの、決まっているでしょう?」

 リーヴァは何度も言ったのに、竜帝はまだ理解できないのだろうか?

「あなたが爬虫類もどきだからで、わたくしが愛しているのがシグルズだからよ」

「余は爬虫類ではない。竜だ」

「わたくしには同じよ」

 以前もしたやり取りにリーヴァはうんざりした。

「あなたが爬虫類もどきではなくても、わくたしが愛しているのはシグルズだけよ」

 リーヴァは竜帝に、いっそ冷たい視線を送った。

「運命で定められた番だろうと、わたくしは、あなたを愛さない」

「……それでも、余は番である貴女しか愛せないのだ」

 ようやくのていで言う竜帝をリーヴァは憐れに思った。

 竜帝が自分の意思でリーヴァを愛しているというよりは、「番だから」愛さずにはいられない獣人の本能に突き動かされているように見えるのだ。

「生理的嫌悪感しか抱けない」と言われれば、とっくに恋心など醒めるはずなのだから。

 それでも想い切れないとは、獣人の番を求める本能というのは本当に呪縛だ。

 彼を憐れに思っても、リーヴァはその想いに応えられない。

 だから、リーヴァは竜帝に厳しい顔でこう言った。

「いい加減にしてください。竜帝陛下」

 今までとは違う事を言いだしたリーヴァに竜帝は怪訝な顔になった。

わたくしを気にして政務に身が入らないあなたを獣人の方々は心配なさっています。今は『心配』ですが、いずれ『失望』になりますわ。だって、そうでしょう? 番とはいえ、いつまでも人間の小娘を気にする者に誰が仕えたいと思いますか?

 あなたは虐げられていた同胞のためにメロヴィーク帝国を建国したのでしょう? わたくしよりもまず帝国と民を第一に考えるべきではないのですか?」

 分かっている。王女としての責務を放棄する自分が竜帝に偉そうに言う権利などない。

 だがそれでも、誰かが言わねば竜帝はずっと彼を愛せない番に囚われ続けてしまうだろう。

 彼を愛せない番ではなく彼を慕う同胞のために生きてほしい。

 それが番に愛されなくても彼の幸せに繋がるはずだから――。

「……それは」

 リーヴァの言葉に思うところがあるのだろう。竜帝は明らかに動揺していた。




 









 









 
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