12 / 15
12
しおりを挟む
「わたくしが消えたら竜帝や臣下達に問い詰められるでしょう。その前に、結婚の承諾をとりにとか何とか言って、あなたの両親の元に行くか、他の所に行っていて」
「……姫様は、どうなされるのですか?」
「わたくしの事はいいわ。あなたは自分の事だけを考えていて」
「そういう訳にはいきません。ご懐妊なさっているのなら尚更ですわ」
「本当に、わたくしは大丈夫よ。竜帝ですら破れない防御結界を張れるようにあったわたくしよ。危険などないわ」
「悪人からの危害から身を守れてもそれ以外は? 転移魔法は使えないのでしょう? 歩いてシグルズ様の元に戻られる気ですか? ただでさえ妊娠で体調が万全ではないのに」
グートルーネの言う事は一々尤もで、リーヴァは反論できず口籠った。
「……それでも、ここにいる訳にはいかないわ」
やっとの事で返した反論だが、とてもグートルーネを納得させられるものではないのは、言ったリーヴァ自身が一番分かっていた。
「それは分かります。だから」
グートルーネはリーヴァが驚くような提案をしてきた。
「私やエッツェル様と一緒にアースラーシャに戻りましょう」
グートルーネは最近になってドゥンガ将軍を「エッツェル様」と名前で呼ぶようになった。
「一度はアースラーシャに戻るつもりだったんです。両親からエッツェル様との結婚の承諾を貰うために。だから、姫様も私達と一緒に」
「あなたとドゥンガ将軍を巻き込むつもりはないわ」
ドゥンガ将軍の転移魔法であっという間に帝国に着いた。戻るのもそうすればいいとグートルーネは考えたのかもしれないが、祖国に帰ったら二度と帝国には戻る気はない。リーヴァの出奔に手を貸した事になれば彼は竜帝や臣下達に責められてしまう。
グートルーネの夫なるだけでなく、竜帝を除けば獣人で唯一リーヴァに親身に接してくれていた彼をそんな目に遭わせたくはない。
そう思って拒絶するリーヴァに、グートルーネは意外な事を言いだした。
「私とエッツェル様なら喜んで巻き込まれます」
「どういう事?」
乳姉妹であるグートルーネならリーヴァのために動いてくれるのは分かる。だが、いくら両親の事があってリーヴァに親身になってくれていてもドゥンガ将軍は竜帝の臣下だ。彼を裏切る事などできないだろう。
「結婚の承諾を貰いに私とエッツェル様がアースラーシャの私の両親を訪ねる事、姫様が『ご病気』の国王ご夫妻を見舞う許可は、すでに竜帝陛下から得ております」
この話をする前から、すでにグートルーネとドゥンガ将軍はリーヴァと一緒にアースラーシャに行くつもりだったようだ。さすがにリーヴァの妊娠は予想外だっただろうが。
「エッツェル様は、姫様をアースラーシャに、シグルズ様の元に連れて行ったら、二度と帝国には戻さないと仰っていました」
「どういう事?」
リーヴァは先程と同じ言葉を繰り返して答えを求めた。
「番とはいえ、いえ番だらこそですね、竜帝陛下は姫様が気になって政務に身が入らないようです。だから……その……姫様が竜帝陛下に悪影響を与えていると、エッツェル様だけでなく他の獣人の方々も危惧されています。
竜帝陛下との婚姻はまだなのだから、いっその事、姫様を殺してしまえという過激な意見もあるそうです。尤もこれだけの防御結界を張れる姫様ですから命の危機は回避できるでしょうが」
獣人は番の事となると我を忘れる。
「生理的嫌悪感しか抱けない」と言われ、ずっと無視されても竜帝はリーヴァを想い切れないのだろう。
尊崇の対象である竜帝陛下が人間の小娘一人に振り回されている姿など獣人達はきっと見たくないのだ。
「……獣人の方々のお気持ちは、分からなくもないわね」
いくら命を狙われても彼らを恨む気にはなれない。
竜帝を愛せない以上、獣人から好かれない覚悟はしていたし、自分が彼らの立場なら同じように考えただろうから。
「ともかく姫様の存在は、竜帝陛下や帝国にとって害にしかならないとエッツェル様や他の獣人の方々は考えておられるようです」
「だから、竜帝陛下を裏切る事になっても、わたくしをアースラーシャに連れて行った後は帝国に戻す気はないというのね」
リーヴァは、しばしの沈黙の後、頷いた。
「分かったわ。あなた達と一緒にアースラーシャに帰るわ」
シグルズと合流したら帝国には二度と戻らないつもりだったが、竜帝ときちんと話し合って別れよう。
グートルーネやドゥンガ将軍、そして他の獣人達、リーヴァを帝国から追い出す事になった彼らが責められないように。
獣人達と同じように、リーヴァ自身も思っているのだ。
リーヴァは竜帝の傍で生きるべきではない。
リーヴァ自身が竜帝の傍にいたくないからだけではなく、番でありながら竜帝を愛せない以上、彼に悪影響しか与えられないからだ。
帝国の統治者がたった一人の女に振り回されるなど、あってはならないのだから。
「……姫様は、どうなされるのですか?」
「わたくしの事はいいわ。あなたは自分の事だけを考えていて」
「そういう訳にはいきません。ご懐妊なさっているのなら尚更ですわ」
「本当に、わたくしは大丈夫よ。竜帝ですら破れない防御結界を張れるようにあったわたくしよ。危険などないわ」
「悪人からの危害から身を守れてもそれ以外は? 転移魔法は使えないのでしょう? 歩いてシグルズ様の元に戻られる気ですか? ただでさえ妊娠で体調が万全ではないのに」
グートルーネの言う事は一々尤もで、リーヴァは反論できず口籠った。
「……それでも、ここにいる訳にはいかないわ」
やっとの事で返した反論だが、とてもグートルーネを納得させられるものではないのは、言ったリーヴァ自身が一番分かっていた。
「それは分かります。だから」
グートルーネはリーヴァが驚くような提案をしてきた。
「私やエッツェル様と一緒にアースラーシャに戻りましょう」
グートルーネは最近になってドゥンガ将軍を「エッツェル様」と名前で呼ぶようになった。
「一度はアースラーシャに戻るつもりだったんです。両親からエッツェル様との結婚の承諾を貰うために。だから、姫様も私達と一緒に」
「あなたとドゥンガ将軍を巻き込むつもりはないわ」
ドゥンガ将軍の転移魔法であっという間に帝国に着いた。戻るのもそうすればいいとグートルーネは考えたのかもしれないが、祖国に帰ったら二度と帝国には戻る気はない。リーヴァの出奔に手を貸した事になれば彼は竜帝や臣下達に責められてしまう。
グートルーネの夫なるだけでなく、竜帝を除けば獣人で唯一リーヴァに親身に接してくれていた彼をそんな目に遭わせたくはない。
そう思って拒絶するリーヴァに、グートルーネは意外な事を言いだした。
「私とエッツェル様なら喜んで巻き込まれます」
「どういう事?」
乳姉妹であるグートルーネならリーヴァのために動いてくれるのは分かる。だが、いくら両親の事があってリーヴァに親身になってくれていてもドゥンガ将軍は竜帝の臣下だ。彼を裏切る事などできないだろう。
「結婚の承諾を貰いに私とエッツェル様がアースラーシャの私の両親を訪ねる事、姫様が『ご病気』の国王ご夫妻を見舞う許可は、すでに竜帝陛下から得ております」
この話をする前から、すでにグートルーネとドゥンガ将軍はリーヴァと一緒にアースラーシャに行くつもりだったようだ。さすがにリーヴァの妊娠は予想外だっただろうが。
「エッツェル様は、姫様をアースラーシャに、シグルズ様の元に連れて行ったら、二度と帝国には戻さないと仰っていました」
「どういう事?」
リーヴァは先程と同じ言葉を繰り返して答えを求めた。
「番とはいえ、いえ番だらこそですね、竜帝陛下は姫様が気になって政務に身が入らないようです。だから……その……姫様が竜帝陛下に悪影響を与えていると、エッツェル様だけでなく他の獣人の方々も危惧されています。
竜帝陛下との婚姻はまだなのだから、いっその事、姫様を殺してしまえという過激な意見もあるそうです。尤もこれだけの防御結界を張れる姫様ですから命の危機は回避できるでしょうが」
獣人は番の事となると我を忘れる。
「生理的嫌悪感しか抱けない」と言われ、ずっと無視されても竜帝はリーヴァを想い切れないのだろう。
尊崇の対象である竜帝陛下が人間の小娘一人に振り回されている姿など獣人達はきっと見たくないのだ。
「……獣人の方々のお気持ちは、分からなくもないわね」
いくら命を狙われても彼らを恨む気にはなれない。
竜帝を愛せない以上、獣人から好かれない覚悟はしていたし、自分が彼らの立場なら同じように考えただろうから。
「ともかく姫様の存在は、竜帝陛下や帝国にとって害にしかならないとエッツェル様や他の獣人の方々は考えておられるようです」
「だから、竜帝陛下を裏切る事になっても、わたくしをアースラーシャに連れて行った後は帝国に戻す気はないというのね」
リーヴァは、しばしの沈黙の後、頷いた。
「分かったわ。あなた達と一緒にアースラーシャに帰るわ」
シグルズと合流したら帝国には二度と戻らないつもりだったが、竜帝ときちんと話し合って別れよう。
グートルーネやドゥンガ将軍、そして他の獣人達、リーヴァを帝国から追い出す事になった彼らが責められないように。
獣人達と同じように、リーヴァ自身も思っているのだ。
リーヴァは竜帝の傍で生きるべきではない。
リーヴァ自身が竜帝の傍にいたくないからだけではなく、番でありながら竜帝を愛せない以上、彼に悪影響しか与えられないからだ。
帝国の統治者がたった一人の女に振り回されるなど、あってはならないのだから。
100
あなたにおすすめの小説
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい
鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。
家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。
そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。
いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。
そんなふうに優しくしたってダメですよ?
ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて――
……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか?
※タイトル変更しました。
旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」
【完結】そう、番だったら別れなさい
堀 和三盆
恋愛
ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。
しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。
そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、
『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。
「そう、番だったら別れなさい」
母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。
お母様どうして!?
何で運命の番と別れなくてはいけないの!?
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
数多の想いを乗せて、運命の輪は廻る
紅子
恋愛
愛する者を失った咲李亜は、50歳にして異世界へ転移させられた。寝耳に水だ。しかも、転移した先の家で、訪ねてくる者を待て、との伝言付き。いったい、いつになったら来るんですか?
旅に出ようにも、家の外には見たこともないような生き物がうじゃうじゃいる。無理無理。ここから出たら死んじゃうよ。
一緒に召喚されたらしい女の子とは、別ルートってどうしたらいいの?
これは、齢50の女が、異世界へ転移したら若返り、番とラブラブになるまでのお話。
16話完結済み 毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付きで書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる