番認定された王女は愛さない

青葉めいこ

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 そんな竜帝に今まで黙っていたシグルズが淡々と言った。

「あなたを殺すのは簡単だ、竜帝陛下。けれど、そうしなかったのは、あなたが死ねば後継者がいない帝国は混乱し、獣人達が再び人間に虐げられると思ったからだ。いくら私から愛する女リーヴァを奪ったとはいえ、彼らの命や未来に対して責任など負いたくはなかったからな」

「……何を言っている? 人間ごときが余を殺せるはずないだろう?」

 言外に世迷言だと断じる竜帝に、シグルズは呆れ顔になった。

「いくらリーヴァにだけ気を取られているとはいえ、まだ分からないのか?」

「……何?」

「私の魔力の大半を封じていた父上の封印は解除した。だから、分かるはずだ」

 シグルズに言われ彼を注視していた竜帝は、数秒後、目を瞠った。

「……お前!?」

 ようやく竜帝にも分かったのだ。

 彼の内にある竜帝じぶんさえ凌ぐ魔力の大きさに――。

 そう、シグルズは純粋な人間でありながら最強の生物だといわれる竜さえ凌ぐ魔力を持っているのだ。

 魔力鑑定ができる強い光魔法の使い手である兄アトリは、シグルズが魔力の大半を彼の父親、宰相に封印されていても彼の内にある魔力の大きさに気づいていた。

 シグルズの魔力であれば、弱小国な祖国、アースラーシャ王国を他国の侵略から完璧に守れるどころか世界征服も可能だ。

 宰相は、アースラーシャ王国の宰相である前にシグルズの父親だ。息子を「兵器」として扱われる事態を危惧して息子の魔力の大半を封印して隠し続けた。

 兄アトリも王太子(当時)である前にシグルズの親友だ。それに世界征服など望む人でもない。シグルズの身を案じて両親である国王夫妻と周囲に隠し続けてくれた。

 ……妹でシグルズの婚約者だったリーヴァにさえ隠すのはどうかと思うが、それはシグルズが口止めしていたそうだからアトリを責めるのはやめた。

 持っている魔力が大きいほど不老で長命だ。

 この世界の人間の平均寿命は百歳前後、長命な者で三百歳だ。最強の生物である竜は五千歳から一万歳生きるといわれる。

 その竜族さえ凌ぐ魔力を持つシグルズの寿命は、おそらく永遠だ。自殺か他殺でなければ生き続けられるだろうというのがシグルズと彼の父親、宰相の見解だった。

 だから、シグルズは婚約者だったリーヴァに黙っていたのだ。

 自分と結婚すれば永遠を生きなければならない。

 不老不死に、どんな人間が耐えられるというのか?

 けれど、リーヴァはシグルズの手を取った。

 生理的嫌悪感しか抱けない竜帝と愛するシグルズ。

 どちらと結婚したいのか考えるまでもない。

 シグルズとの結婚が永遠を生きる事でも構わなかった。

 たった独りで生きる永遠は耐えられない。

 けれど、愛する夫シグルズが共に生きてくれるのなら、永遠だってきっと耐えられる。

「わたくしの魔力が倍増したのもシグルズと結婚したからよ」

 結婚すれば命を共有する。身を守るために伴侶の魔力も使えるようになるのだ。

「分かっただろう? あなたでも誰でも私からリーヴァを奪う事はできない」

「彼女は余の番だ! お前から奪ったのではなくお前が奪ったんだ!」

 シグルズの言葉の何が気に障ったのか、竜帝は憎しみに満ちた顔で彼を睨みつけた。

 一人称が「余」ではなく「私」になっている上、感情を抑えるべき統治者とは思えないほど感情的になっている。今彼は帝国の統治者としてではなく一人の男としてシグルズと対峙しているのだ。

「私達人間には番という概念はない。あったとしても私もリーヴァも認めない」

 竜帝とは対照的にシグルズは素っ気なく言った。

「運命に定められたものではなく、本能でもなく、私とリーヴァは自分の意思で互いを愛して結婚したんだ。これ以上私達の邪魔をするのなら、あなたからリーヴァに関する記憶を消す」

 獣人達の命と未来に対して責任を負いたくないシグルズは「殺す」ではなく「リーヴァに関する記憶を消す」と言ったのだ。これ以上、自分とリーヴァの邪魔をされないように。

「そのほうがいいのかもしれないわね」

 リーヴァは溜息まじりに呟いた。

 記憶の改竄かいざんが最低な行為なのは分かっている。

 どれだけ最悪な記憶でも、それもまた現在の自分を形作っている大切な一部だ。他者が勝手に手を加えていいものではない。

 それでも、どれだけ卑怯でも、自分達の幸せな未来のためなら最終的にはやるつもりだった。

 これ以上、竜帝に自分とシグルズの邪魔をされたくないという気持ちもあるが、何より竜帝が憐れでならないのだ。

 本能に依るものにしろ、自分を死ぬほど嫌う女しか愛せないだなんて。

 そんな恋など不毛だ。

 まして、彼は帝国の統治者だ。

 自分を愛せないリーヴァではなく自分を慕う獣人達のために生きてほしい。













 





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