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一章
一章ノ肆『時の流れ』2
しおりを挟む驚いた様子のツナム・ハジクは、やはり――と声を上げる。
「……俺の名はロウ、ツナム・ハジク、お前はどうして巫子のことを知っている?」
「ロウ、そうか、ロウと言うのか」
彼は更に焼けた肉を皿に置くと言う。
「北のキリンの一角、名前はバベシと言ったか?それに聞いた」
「キリンが人間のお前に話したのか?」
「キリン以外で、人間に巫子の話をする者がいると?それは人狼のお主が一番分かっておるだろ」
キリン以外、メイロウや人狼が人間に話すはずもない。でも、そうだとしたらどうしてキリンはそんな危険なことをしたんだ?
俺は、キリンがツナム・ハジクに巫子の話をした理由について自分で思考したが、実際その解が得られることはなく、肉を食い終えたツナム・ハジクが理由を語り出す。
「キリンと取引したのだよ」
「キリンと取引?」
「そうじゃ、キリンも初めはだんまりだった、だがの、ワシの裁量で何とかなる物をくれてやると言うたらの、キリンはようやく巫子だの聖獣だの人狼だのを話してくれた」
キリンはバカではない、そんな口約束で巫子の話をするとは思えない。つまり、キリンが要求した物はキリンがそれほどに欲しかった物ということだ。
「キリンに何を要求された?」
「ワシの娘だ……当時は二十一くらいだったかの、まさかキリンが人間の娘を欲するとは思いもせんでの、わしはついつい――食うのんか?とキリンに聞いてしもうたわ」
キリンが人間を欲した?食うためでないのは間違いない、キリンは肉食ではない、子も自分では作らない。
「キリンは笑って言うた、ツナムよお前の娘には巫子の子を孕んでもらう――とな。まだ巫子の話を知らなんだワシは、意味が分からんかったが喜んで娘を差し出した」
「お前正気か?娘に惨いとは思わないのか?」
そう俺が言うとツナム・ハジクは不敵な笑みを浮かべて言う。
「ワシの子はワシの子じゃ、アレもハジク、まさに探求の徒だったからの」
蛙の子は蛙か……。
「娘も知りたがっておった、血は譲れん、ワシと同じで全てを知りたがった。それから、巫子の話を聞き、全てを知ってしまったワシはワクワクした」
「お前の娘と子を成すということは、巫子は女ではなく男だったのか?」
「あぁ、もちろんオスだったの、ヌシの様に若く、人の姿はしているが、腕や足に木々のそれや植物のツタがあった」
わざわざ人間の娘をキリンが要求する理由、それもまた人に近づくためだというのだろうか。
「ヌシも解せぬ顔だの?わしもどうして人間との間に子を成すのかをキリンに尋ねた」
「で、キリンは何て答えた」
「キリンはの、人に成りたがっておった」
その言葉に俺はやはりと納得する。
「キリンは不死、死ねぬのは辛い、だからキリンは人間と子を成すことにした、人に成れば本当の意味で死ねる、そう言ってな」
キリンが人に成りたがった、それはメイロウも同じで、だから人間に危害を加えることを、あれほどまで人狼に言い付けたのか。
「巫子の子を孕んだ人間は間違いなくまた巫子を生み、産まれた巫子は今の巫子と違い獣の姿から人の姿に変わるのではなく、人の姿から獣の姿に変わる、そうキリンは言うた。つまり、人側に少し寄るらしい。そして、その子はやがて巫子ではないし、新たなキリンでもなくなる」
それが聖獣の望みなのか――。
「その人寄りの巫子が新たに人と結ばれるとまた巫子が生まれる、その子もまた巫子でありまた子を生む、そうすればキリンはいずれ人の子として自身が転生すると言うた」
人間に転生することでキリンは死を得られる、死にたいからキリンは人間に成りたい。
「巫子はどれくらいで完全に人に成るのだろう?キリンが人間に成るまでどれくらい」
俺は自分はどれくらいこのままなのか、そう悩んでツナム・ハジクに言葉を求めた。
「巫子は、望めば生まれてきた子に巫子の使命を移行することができる、もし子を成せぬ場合は別の者に使命を託すこともできるとキリンは言うとったが、はたして、それが良い事かは分からん。老けぬ体になり、子の子が新たに子を成さぬ場合は、キリンはキリンとして森の木に成り再びキリンと成るらしい」
つまり、俺の裁量でメイロウはどこかの人狼に成って、また人へ近づくというこという事か。
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