聖獣物語~人狼の森のロウとカイナ~

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一章

一章ノ肆『時の流れ』3

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「じゃが、その場合キリンは巫子となった子を殺し、また新たに巫子を作り人間に子を成させるのだろうな」
「待て、巫子となった子を殺す?それはどういう意味だ?」

 ツナム・ハジクは、綺麗な木の枝を選び、それを短剣で削ぎながら言う。

「キリンが人となるには巫子が必要になる、これはキリンの仕組みからも分かる」
「キリンの仕組み?」

 細い枝をさらに細く先端を尖らせたツナム・ハジクは、それを口に近付けると歯の間の食いカスを取り除く掃除を始めた。

「ん~シッツツツッツ、キリンがキリンと成るには巫子の体に宿るしかない、が新たに森の中で木の憑代へ転生すると現状の巫子が邪魔になる、それは子を産めぬ巫子が自身の御霊の一部を持ち続けているからだ。そうなると徐々にキリンの魂が巫子の魂との均衡を図って、徐々に人間から離れていく……らしい」

 削ぎ木を銜えたままツナム・ハジクは言う。

「キリンから聞いたのはこれくらいだの」
「どうして子を産めないだ?」

「ヌシ、気付いておらんのか?人狼の家系で人の姿に長時間なれる者はその血筋的に人間に近しい、つまりは、人間に近い血筋が巫子の家系になる、産めない巫子はすなわち血筋から遠いという訳じゃ、例え自身の子でも殺さなくてはならなくなる」

 確かに俺や母は長く人の姿を保てた、その理屈は理に適っている。いや、キリンは完全なる知恵者なわけだから、それが言うことなら間違いはない。

 俺は色々ツナム・ハジクから話が聞けたことに対し、何か礼をと考えるとそれはやはり彼の求める知識でしかありえないと考えた。

「アレはもう数百年も前の話だ……」


 長い話を終えた俺は、久しぶりに人間の姿でコップを持ちそれに注がれた酒を飲んだ。

「美味いか?ロウ」
「……いや、不味い、だが悪くはないな」

 ツナム・ハジクは不思議そうに。

「おかしいの、人狼はいける口であるはずだが」

 そう言って紙の束を取り出して何か記し始めた。

「それは?」
「これは長年の研究成果だ、ところでロウ、ヌシは魔の物のことをどこまで分かっている?」

 俺が逆に、どうして今更、魔の物のことを聞くのか、とツナム・ハジクに尋ねたら、彼は重い口調で小声で話し始めた。

「いや、奴らの様子が妙なんだの。魔の物、どうしてキリンを襲いたいのだろうなとな、妙ではないか?人狼や森の民がいなくなれば森からは出放題だ、なのにどうして奴らはカルの国からわざわざ日の国のキリンを狩りたがる?」

 そんな事は俺にも分からない、というより、ツナム・ハジクが知りえないことを俺が知るはずがない。

「これはワシの勝手な推測なのだがの、奴らキリンに恨みがあるのではなかろうかとな、キリンが人を作るより前、人狼を作るよりもさらに前、何か奴らとキリンの間に何かがあったのではとワシは考えておるのだ……」

 そう言ってツナム・ハジクは俺の言葉を待つでもなく、急に自身の執筆に入り込む。

 そう言えば、魔の物が生じる場所、その奥のあの森の最奥の領域、そこにはメイロウの加護を持つ俺のような守杜でさえ入ることができない。入れたとしても肌が焼け、喉が焼け何もできないまま死んでしまう、そんな領域に何か秘密があるのかもしれない……だが、これは守杜としてツナム・ハジクには言う訳にはいかない。

 ツナム・ハジクは奇妙な本を俺に手渡した。

 それは俺が人を避けているということで、人に人狼と悟られないように、キリンの事や人狼のことを伝えたい時にその人間に手渡せ、そう言っていた。

 中を見ると、確かにキリンや人狼や聖獣、それに魔の物について、ちょっとした古い知識も書かれていた。読めはするが書けない俺には、今はありがたい代物だ。

「それじゃぁの、ロウよ人間を嫌ってもいいが、恨んでやるなよ」

 そういうお前も人間だろうに、そう俺は思いつつツナム・ハジクが去って行くのを眺めていた。
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