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カフェ店員のやんごとなき事情
この店に指名制度はない
しおりを挟むあー、おいしかった。
お弁当を食べたあと、あまりは淡いピンクのビーズクッションの上に転がった。
テレビはいつもは見ないバラエティ番組をやっている。
本当は歴史を検証したりする番組の方が好きなのだが、ひとり暮らしをするようになってからは、つい、より騒がしい番組を選んで見てしまう。
狭いワンルームの、灯りのついていないキッチンの方を見た。
静まり返ったキッチンを見ていると、テレビはわあわあ騒いでいるけど、それは別の場所での出来事なんだなと実感する。
あまりは目を閉じた。
家に帰ってひとりで食事するのは、確かにちょっと寂しいけど。
でも……。
目を開け、あまりの好物ばかりが詰まっていたお弁当箱を手にし、よし、と立ち上がる。
「片付けるぞっ」
と声に出して言ってみた。
ひとり暮らしだと、片付けなくても誰も文句を言ってこないので、ぐだぐだになりがちだからだ。
それにしても、仕事場だと、皿洗いもトイレ掃除も苦じゃないのに、家だと途端に億劫になるのはなんでだろうな、と苦笑しながら、あまりはキッチンの灯りをつけた。
「あまりさん、あまりさん、あまりさん。
めっちゃイケメンが居ますっ」
といきなり、沙耶が肩を叩いてきた。
今日は沙耶が午前中から来ている日だった。
は? と振り向くと、やはりと言うか、海里が居た。
今日はテラス席ではなく、窓際の席に居る。
うわー。
何故、来ましたかーと思っていると、たまたま近くに居た成田が海里となにか話していた。
……つ、積もる話もあるでしょう、久しぶりの再会。
そのまま語り合っててください、と違うテーブルに行こうとしたら、成田が、
「あまり」
と呼んできた。
仕方なく行くと、
「この店に指名制度はないと言ったんだが、犬塚がどうしてもお前を呼べと言うから」
と渋い顔で言ってくる。
「い、いらっしゃいませ」
と海里に向かい、引きつった笑いを見せると、海里は、
「成田、行っていいぞ」
と成田を追い払おうとする。
だーかーらー、と成田は、海里を睨む。
「なんでお前は何処でも偉そうなんだよ。
あまり、注文訊いたら、すぐ戻ってきていいからな」
と言ってくれた。
はい、ありがとうございます、と去っていく成田に頭を下げていたら、海里が、
「成田には偉く愛想がいいな」
と言ってくる。
「イケメン好きか」
……それなら、貴方のことも大好きになってしまうと思うんですが、と思っていると、
「じゃあ、珈琲でも、もらおうか」
と言う。
そんなどうでも良さげに頼まないでくださいよ、マスターの美味しい珈琲を、と思いながらも、はい、と行こうとすると、海里が訊いてきた。
「今日、何故、俺が此処に来たと思う?」
振り返り、
「……珈琲が美味しいからですか?」
と言うと、それもある、と言う。
「他の理由がなにか?」
「わかってるんじゃないのか?」
と言いながら、海里が立ち上がったので、つい、殺られるっ! と身構えたのだが。
海里は、
「ちょっとマスターに話がある」
と言ってカウンターへと向かっていった。
いやー、待って待ってっ、とその腕をつかんでしまう。
なにを言う気だっ、と思ったからだ。
だが、海里は、鬼ような形相であまりの手を振りほどく。
「……放せ。
マスターに話がある」
怖いよう、と思いながら、あまりは、抵抗も攻撃もしない証として、両手を上げ、頷いた。
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