大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ

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蝋人形と暮らしています

おやおや?

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「今日は昼間、なにをやってたんだ?」

 夕食のとき、行正がそう訊いてきた。

「お義母さまとお出かけしてきました。
 服を買っていただいたり」

「継母なのに、仲いいんだな」

 はあ、まあ、実の母とよりは、と咲子は思う。

 すごく相性がいいわけではないが、一緒にいて、そう嫌でないし、なんとなくかなりの頻度で会っている。

 美世子さんと同じだな……。

 などと考えていたが、行正がじっとこちらを見ていることに気がついた。

『そのあとは?』
と心の声が聞こえてくる。

「そのあとは、伊藤の屋敷に寄って、ばあやと祠までお散歩したり」

「あの祠か。
 なにを祈ったんだ?」

「だから、家内安全、健康第一ですよ」

 家内安全の意味が前とは変わってきましたけどね、と咲子は思う。

 今や、伊藤の家も行正と暮らすこの家も、行正の実家も含めて、家内だ。

 長く生きていくと、大事なものが増えてって、祈る範囲が広がってくんだな、と咲子はしみじみと思っていたが。

 何故か、行正はちょっと機嫌が悪かった。

 その顔をじっと見ていると、
『早くお前を孕ませて捨てようと思っているのに。
 何故、子宝祈願をしないんだ』
という行正の心の声が聞こえてきた。

 そうでした。
 この人は、私を孕ませて捨てたい人でした。

 最近、ちょっとほっこりした時間が続いていたので、なんとなく、仲の良い夫婦のような気がしていましたが。

 この人が、毎晩、執拗に私を手篭てごめにしようとしてくるのは、そのためでしたね……と思い出す。

「子宝祈願も今度からしますよ」
と咲子はうっかり声に出して言ってしまった。

 まあ、跡継ぎの期待のかかる新婚夫婦なら普通に祈ることだと思うので、心を読んだとは思われないだろう。

 そう思ったが、行正は視線も合わせず、

「いや、別にいい」
と言う。

 別にいい?
 子宝祈願しなくて良いということですか?

 何故?

 心の声は聞こえてこなかったが、その顔は特に嘘をついているようには見えず、

 咲子はこのとき初めて、おや? と思った。


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