お好み焼き屋さんのおとなりさん

菱沼あゆ

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むしろ、運命だろう

お前も行くか

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「先生、明日は、なにされるんですか?
 会合ですか?」

 帰り際、何の気なしに砂月は高秀にそう訊いてみた。

「いや、なにもないが」

 何故、訊く、と高秀に問われる。

「いや、特に意味はないんですけど……」

 見つめ合ったまま、沈黙が流れた。

「ああ、そうだ。
 今週は、シールを仕入れにいこうと思ってたんだ」

「は?」

「シールを仕入れにいくんだが。
 お前、暇なら、一緒に行くか?」

「えっ?
 あ、はあ。

 はい」
と砂月は相変わらずのどうとでもとれるような返事をし、

「じゃあ、午後二時に、にゃん太郎のところ集合で」
と言われてしまった。

「……はい」

 午後二時に、にゃん太郎。

 適当に返事をしてしまうのは悪い癖だ。

 夢の中で、砂月は、にゃん太郎を探して駆け回っていた。

 どうして、海崎先生には、にゃん太郎が何処にいるのかわかるのだろうと思いながら。

  

 そして、当然ながら、もちろん、待ち合わせ場所は、にゃん太郎ではなかった。

 にゃん太郎を探さねば、と一時半にアパートの階段を下りていると、下にいた高秀がこちらを見上げて言った。

「早いな」

「……ああ、にゃん太郎」
と呟いて、

 え?
 にゃん太郎? と高秀が、にゃん太郎の姿を探し、周囲を見回す。

 いや、そういう意味ではない。

 そうか、ここが『にゃん太郎のところ』だったのか、と思ったのだ。

 高秀の言うにゃん太郎のところは、いつもにゃん太郎がいるところ――

 つまり、にゃん太郎の縄張りである、この階段下のことだった。

「どちらかと言えば、宮澤さんの縄張りと言ってくだった方がわかりやすかったかも」

 ぼそりと砂月はそうもらして、

「なんだって?」
と訊き返された。

 いや、宮澤がよく、ここでにゃん太郎を構っているからなのだが。

 にゃん太郎は、そこここで出会うが、宮澤は、大抵、ここでしか出会わないから――。

「よし。
 行くか、シール買いに」

「はい」
と子どもの頃以来、久しくしていない感じの会話をした。

 

「ところでどこまで買いに行くんですか? シール」

「いつも買ってるところかな。
 あそこが種類が豊富だから」
と高秀は言う。

 百均とかかなぁと思いながら、砂月はついて行った。

 あれ?
 駅に来たぞ。

 高秀が切符を買いはじめたので、
「何処までですか?」
と財布を出しながら訊いてみたが。

「いや、俺の用事について来てもらうんだから、俺が出す」
と高秀は言う。

 いや、そんな悪いなあ。

 私も特にすることないし、息抜きになると思ってついて来たわけだし、と思っていると、

「ほら」
と新幹線の切符を渡される。

 何故……と砂月はその大きめの切符を眺めた。
 


 にゃん太郎集合のときもそうだったが。

 他の話をしていて、肝心なことを聞きそびれることが砂月にはよくあった。

「珈琲でも買って乗るか」
と高秀がホームの自動販売機を見る。

「あっ、それは私が出しますっ。
 じゃないと、落ち着かないのでっ」

 どれがいいですかっ、と絶対自分が払うと頑張ったりしているうちに、新幹線が来た。

 空いている自由席に乗り、何故、気象予報士の資格をとったのかとか話しているうちに、近くの大きな街に着いていた。

 普段あまり行かない、ビルでごちゃついた街の駅前に立ち、高秀は呟く。

「まあ、このくらい離れないとな」

「……離れないと?」

「何処から追っ手が来るか分からないから」

 何の追っ手ですか?
 私たちは何から逃げているのですか……?



 突然はじまった旅の終着地は、大きな雑貨店の入ったビルだった。

 季節物のインテリアなどが華やかに飾ってある店内を眺めながら、砂月は高秀について、中央にあるエスカレーターに乗る。

「あのー、いつもここまで買いに来てるんですか?」

「いや、別の場所のときもあるが」

 高秀は真顔で上の階を見つめ、呟くように言った。

「シールがないと……
 うちの病院は大変なことになるからな」

 ――どんなことに!?



 高秀は砂月を文房具のフロアに連れていき、
「お前、選んでくれないか。
 自分で選ぶと似たようなのばかり選んでしまうから」
と言う。

 はあ、と言いながら、砂月は何枚か綺麗なシールと、キャラクター物のシールと、乗り物のシールを選んだ。

 高秀に、
「これとかどうでしょう」
と見せるたび、高秀は、じっくり眺めて吟味する。

 よし、と頷いてはカゴに入れていた。

 結構な枚数選んだあとで、レジに並ぶ。

 そこで、ふいに気づいたように高秀がこちらを振り向き、言ってきた。

「そうだ。
 お前も欲しいものがあったら、なんでも買ってやるぞ」

 ついて来てくれたから、という高秀に、

「あ、いや、シールはいいです。
 好きなんですけど。
 意外と貼るとこなくて」
と笑って手を振ったが、

「シールじゃない。
 なにか好きなものがあったら、買え。

 入り口に扇子や手拭いと一緒に、檜の桶に入れて並べてあった日本酒を見てたろ」

 買ってやろうか、と言われる。

「いえいえ、大丈夫です」

「遠慮するな」

「ほんとうに結構です。
 なんかプチ旅みたいなのが突然できて楽しかったですし。

 それにあの、酒屋の日本酒の方が保存状態がよくて美味しいので」
と店に喧嘩を売っているのかというようなことをうっかりレジの列で言ってしまう。

 店員さんに聞こえただろうか、と慌てたとき、高秀が言った。

「そうか。
 じゃあ、あとで酒屋で買ってやろう」

「えっ?
 いや、ほんとにいいですってっ」
と急いで言う砂月の目の前で、高秀はポイントカードを出していた。

 結構溜まってるっ!
 


「あ~、注射のときに渡すシールなんですね~」

「あれ見せたら、泣き止むからな」

 近くの店でふわふわのスフレパンケーキをご馳走になりながら、そんな話をした。

「選ぶとき、子どもが好みそうなのというのを忘れたが、ちゃんと子どもが喜びそうなのを選んでたな」

「まあ、病院で使うものですし。
 私の好みも似たようなものなので」

「……はたらく車も好きなのか」

「はあ。
 黄色いミキサー車とか、パトカーとか」

「前は近所で買ってたんだが。
 先生、それ持ってるとか言われるんで、隣の街まで買いに行ったんだが。

 それも持ってると言われて。

 ……あいつら、何処までも追ってきて、シール買ってるんだ」

 何故、行く先々でシール買ってる……?
と呟かれる。

「それで、近所の店とか近くの街にないようなのを探してたんですね」
と砂月は笑った。
 


「そういえば、私が通ってた小児科はメダルくれてましたよ」

 食べ終えた砂月はそんなことを語り出す。

「メダル?」

「うちの近所のラーメン屋さんもだったんですけど。
 メダルくれて、それで店内にあるガチャガチャができるんです。

 そんなたいしたものが入ってるわけじゃないんですけど。
 子どもってそういうの好きじゃないですか」

 ほう、と高秀は言った。

「それもいいな」

「普段はシールで、なにかこう、スペシャルな注射とか打ったら、ガチャガチャのメダルがもらえるとか」

「……スペシャルな注射ってなんだ」

 スペシャル痛いのか、と問われる。

「シール以外のことをやってみてもいいかなと思うんだが。
 お前、(子どもに感性が近いようだから)何か考えてみるか」

 今、カッコの中の心の声が聞こえた気がする、と思いながら、

「はあ、そうですねえ。
 では、本日の旅のお礼になにか考えてみますよ」
と砂月は答えた。



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