昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

文字の大きさ
37 / 63
恋か純愛かストーカーか

それがすべてのはじまりだった――

しおりを挟む


「お疲れ様です」

 エレベーターで一緒になった誠孝に、日子はそう挨拶しながら、予測変換でないから、

 お疲れ様ではゴザイマセン、とか出てこないからよかった、と思っていた。

 昼間の裕子たちの話を思い出しながら、日子は誠孝と話す。

「思っていたより、みんながありのままの私を受け止めてくれてて、ビックリしました。

 汚い部屋を見せるのが恥ずかしいと思うのは、私の変なプライドだったんですかね?」
と言って、

「いやそこは、変なプライドとかじゃないだろ。
 きちんとしろ」
と言われてしまったが。

 そこで誠孝の目が下を見る。

 日子が肩からさげているショップの紙袋を見ているようだった。

 動くたび、ガサガサ言うからだろうか。

 いや、違うな……。

「またなにか買ったのか」

 買ってはいけませんか……?

「また部屋に物を増やそうとしてるだろ」

 心を入れ替えたんじゃなかったのかと日子は言われる。

「いえいえー。
 ちょっとした部屋着が欲しくて買っただけなんですよ」
と言い訳しながら、日子は紙袋の中からその部屋着を出して見せた。

「そのまま宅配とか取りに行けるルームウェアらしいです」

 だがその、もふもふほどではない、もふっとした白と落ち着いたピンク色の部屋着を見た誠孝は、

「……やめとけ」
と言う。

「誇大広告にだまされるな。
 その部屋着は人前ではアウトだ」

 じゃあ、と言って、エレベーターを降りた誠孝は部屋に入っていってしまう。

 ……なにがアウトなんだろうな、と日子は廊下でひとり、ちょっとパジャマっぽいその部屋着を見つめた。




 部屋、今日も片付いている。
 素敵だ、
と日子は満足げにおのれの部屋を見回した。

 物が少ないと、やはり、すっきりしていい。

 まあ、今、もふっとしたルームウェアというアイテムがひとつ増えてしまったが……。

 でも、そうか。
 これ、やっぱり、人前に着て出られる感じじゃないのか。

 上になんか羽織っでも駄目かな~?
と思いながら、新品の匂いがするそのルームウェアに着替えてみる。

 すごい肌触りもいいな~。

 これ着て、沙知見さんとご飯食べたり、ゲームしたり、寝落ちしたりしたら、楽に過ごせそうなんだけど。

 宅配業者さんの前に出るのも駄目なら、沙知見さんの前に着て出るのも駄目だよね、
と思いながら、日子は、すぐにガサガサと紙袋やタグを片付ける。

 前ならそのまま隅に置いたりしていたのだが、最近は、すぐに片付ける習慣が身についていた。

 すごいなー。
 沙知見さんのおかげだなあ。

 クローゼットにおさまりきらない服が部屋の中に、あふれてたのに。

 今はそのクローゼットの中までスッキリしてるし。

 すごい進歩だ、と日子は感激する。

 いつ、氷河期とか来るかもわからないので、迂闊うかつに服は捨てられないと思っていた私がっ。

 ちなみに、同じ理由により、使用期限が過ぎた薬も捨てられない。

 いやまあ、置いておいても使えないとは思うのだが……。



 風呂に入った日子は、ダラッとスマホを眺めていた。

 ちょっとお湯でのぼせていたのだろうか。

 いや、キッチンもピカピカになったので、ちょっとは興味が湧いていたのだろうか。

 普段はいいなと思いながらも買わないような、黒い円形の素敵なカッティングボードをぽちっと買ってしまった。

 ……そして、それがすべてのはじまりだったのだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

Fly high 〜勘違いから始まる恋〜

吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。 ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。 奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。 なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

私の赤い糸はもう見えない

沙夜
恋愛
私には、人の「好き」という感情が“糸”として見える。 けれど、その力は祝福ではなかった。気まぐれに生まれたり消えたりする糸は、人の心の不確かさを見せつける呪いにも似ていた。 人を信じることを諦めた大学生活。そんな私の前に現れた、数えきれないほどの糸を纏う人気者の彼。彼と私を繋いだ一本の糸は、確かに「本物」に見えたのに……私はその糸を、自ら手放してしまう。 もう一度巡り会った時、私にはもう、赤い糸は見えなかった。 “確証”がない世界で、私は初めて、自分の心で恋をする。

処理中です...