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恋か純愛かストーカーか
すべては、あの場所で起きているっ!
「お忙しいところ、申し訳ありませんでした。
事前にみなさんにお写真など確認していただくようになりますが。
出来上がったら、お送りするか、沙知見に持たせますので、ぜひ、ご覧ください」
石田が去り際笑って言い、一応、ついて来ていただけの誠孝は、
「じゃあ、失礼します」
と言って、さっさと帰っていった。
「びっくりしました~」
とみんなが去ったあと、裕子が言う。
「沙知見さんと日子さんってお親しいんですね。
新太さんと沙知見さんがお友だちだからですか?」
いや、そこは逆……。
裕子が、自分と誠孝を親しいと思った理由は、我が家にコタツがあるかないかを知っていたからかと思ったのだが。
裕子は、
「沙知見さん、日子さんのことを、日子って呼んでるんですね」
と言った。
……そういえば、さっき、言ってたかもな。
日常的にそう呼ばれてるから気づかなかったな、と日子は思う。
それに、あの人の場合、日子じゃなくて、ニチコだし、たぶん。
「いやあの、沙知見さんは……」
と言いかけ、日子は迷う。
同じマンションに住んでいるのだと裕子に教えるかどうか。
……でもなんで、迷ってるんだろうな。
別にいいではないか、教えても……。
そう思い、
「沙知見さんは、私と同じマンションに住んでるの」
と日子は言った。
ええっ? と裕子は叫ぶ。
「なんなんですか、あのマンションッ。
最高じゃないですかっ。
日子さんと沙知見さんが住んでて。
日子さんのストーカーかもしれないけど、素敵な東城さんが玄関でおかえりって言ってくれてっ」
ゆーちゃん、東城先輩好きなのに、そこはストーカー呼ばわり……?
と日子は苦笑いする。
まあ、好きだからこそ、わかることもあるのかもしれないが。
「住みたいですっ、あのマンションッ」
と裕子が騒いでいるころ。
部署の外から星野が覗いていた。
しまったあああ。
今日が日子たちの取材の日だったのかっ。
取材風景は見れなかったけど。
欲しいっ、その社報っ。
社報欲しさに代理店に就職し変えようかと星野は本気で悩みはじめる。
星野は自分の部署に戻りながら思う。
日子のマンションには、イケメンの警備員がいるらしいし。
沙知見さんも住んでいるらしい。
俺も日子のマンションに行かなければっ。
すべてはあそこで起きているっ、とまだ飲んでいない日子にもらったデスクの上の缶コーヒーを眺めながら思っていた。
「さすが楓さん。
どれも可愛く撮れてますね~。
この仕事してるときの真剣な横顔なんていいですねえ」
撮影した写真をパソコンで確認しながら、石田が言ってくる。
「俺はそろそろ戻るから」
誠孝は広報の部屋から出る素振りをしながら、画面に並んでいる日子の写真を見る。
……実物の方がいいようだが。
まあ、そんなに綺麗に写ってなくてもいいか。
外見に騙される男がいっぱい寄ってきたら、迷惑だ、
と思う誠孝の頭の中では、日子の部屋に花を手にした男たちが押し寄せ、廊下に人があふれていた。
誠孝の部屋のドアも人波で開かなくなっている。
そんなことあるはずもないし。
日子目当ての男が押し寄せてきたら、東城がエレベーターと階段を爆破してでも上がらせないと思うのだが。
「沙知見さん、楓さんとお親しいんでしょう?
どの写真がいいですかね?」
一番出来の悪い写真を選んでやろう、と誠孝は思った。
だが、社報を手にした日子の泣きそうな顔が浮かび、
……仕方ない。
一番可愛いのを選んでやるか、と思う。
「見せてみろ」
と石田に言った。
日子が仕事をしていると、誠孝から職場のパソコンにメールが入ってきた。
「沙知見です。
お世話になっております。
下の写真の中から社報に幾つか使おうと思うのですが、どうでしょうか」
みんなに、
「社報に使う写真、入ってきましたよ~」
と言うと、どっとパソコンに人が集まってきた。
みんなにそれを見せ、日子はパソコンの側を離れたが、誠孝からスマホに連絡が入ってくる。
「あれと別にお前の写真を幾つか選んだ。
どれがいい?」
普通に写っているのと、結構綺麗に撮れてるのと、これはどうだ……というくらいぼんやりした顔の写真が送られてくる。
「この三枚ですか?」
と訊くと、
「俺が厳選した」
と返ってきた。
厳選して、この三枚なんですかっ?
前の二枚はともかく、最後のはっ?
と思ったが、
「俺は最後のがいいと思う。
自然な感じで。
よく見るお前だ」
と誠孝は言う。
「に、二番目のがいいです。
それか最初のやつ」
と返すと、
「そうか?」
と誠孝は何故か疑問そうだったが、石田に伝えてくれるようだった。
何故か沙知見さんは三枚目推しのようだ。
危ないところだった……、と思いながらも、一応、礼を言おうとメッセージを打つ。
「いろいろお世話になりました。
ありがとうございません」
発信しようとして気がついた。
ありがとうございません、になっているっ!
慌てて、もう一度打ちかえようとしたが、どうしても、
「ありがとう」
の次に、
「ございません」
の予測変換が出る。
スマホが、写真に不満がある私の心を読んで予測変換をっ!?
と思いながら、日子は震える手で打ちかえた。
ありがとう……
ゴザイマス、と。
「あ、この写真、日子さんっぽいですね」
社食であの誠孝が送ってきた三枚目の写真を見た裕子がそう言い、笑う。
いや、日子さんっぽいって、もともと全部私なんですが……。
だが、横から覗いた羽根も、
「ああ、わかるわかる、日子っぽい」
と言って笑った。
「……私、いつもこんなぼんやり顔?」
ときどき、と言って、裕子は笑う。
「あと抜け殻になってるときありますよね。
ああ、仕事今日、大変だったんだな~って思います。
社食にいても、目がどこも見てないっていうか」
それ、なんかヤバイ人ではないですか……?
「入社したばっかりのゆーちゃんにもそんな顔見せてた?
あんまりボロボロなところ見せたら、大変な会社に入ってしまったんじゃって怯えさせるかなと思って、気をつけてたつもりなんだけど。
っていうか、いつも気をつけてるつもりなんだけど……」
だが、裕子は、
「やだなあ、そういうのも日子さんじゃないですか。
私は逆に、ああ、あんな風にボロボロになるほど仕事頑張ってみたいって思いましたよ」
と言ってくれる。
ありがとう、ゆーちゃん。
だが、どんな感じにボロボロだったのかは気になる……と日子は思っていた。
「そりゃ、あんまりなニチコさんを見たら、あの部署行きたくないなあ、とかは思っちゃったりもしますけど」
あんまりな日子さんってどんな日子さんなんですかね……?
「でも、目を血走らせてる日子さんも、いいじゃないですか。
仕事にまっすぐな日子さんを尊敬してます。
部屋がとっ散らかってても。
この人、ストーカーじゃないかなと長年の知り合いに疑念を抱いても。
いつも、なんにも変わらない日子さんが好きです」
格好いいです、と意外にも裕子は言ってくれるが。
いや、なにも格好よくないし、こういう先輩は見習わない方が……、と日子は思う。
「でも、いつまでもお洒落で綺麗な日子さんでいてくださいね。
そういう意味であんまりな日子さんを見てしまうと、さすがにショックを受けるかもしれません」
「でも、ゆーちゃん、そんな日子見てショック受けても、次の瞬間、ジェラート食べながら、インスタ上げてそう」
と羽根が笑う。
……うん、なんかリアルに想像できた、と思いながら、日子は昼から、がっつりな感じの甘辛ダレのヒレカツに齧りついた。
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