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閑話 ある王妃の話
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自然を敬い、自然を信仰して山の奥でひっそりと生きてきた部族の長の家。その家の子供は男子がひとり、女子がひとり。その兄妹は生まれてからずっとなかよく過ごしていた。
ある日、その子供たちが18歳になった日。山の下の外の国の王がその村を訪れた。親交を持ちたいといったその王は、しかしその日の晩に族長の娘を手籠めにした。
美しすぎて抗いがたかった。国に帰って妃に迎えたい。そう、王は言う。長は断固として反対した。男子も女子を慰めながらも説得しようと試みた。しかし、無駄だった。
必ず幸せになるから、閉鎖的なこの小さな村と大きな国の懸け橋になれるなら本望だ。と。女子はその頬を紅潮させ、嬉しそうに言う。娘の、妹の嬉しそうで幸せそうなその姿に父と兄は説得をあきらめた。
手紙は月に一回。年に一回は村に戻る。この二つを約束に長は王に娘を連れていくことを許可した。王はうれし涙に濡れながら、女子を抱きしめた。その日のうちに帰るという王にもう一日だけ残ってほしいと願いを通し、翌日に簡易な式を挙げた。心からの笑顔を見せる女子のその姿は、もはや立派な大人であった。その成長の嬉しさと、この手を離れる寂しさに長は人知れず涙を流した。
大人になって初めて名前をもらうというしきたりに従い、長は娘に名前を授けた。
『オーレリア』
黄金を意味するその名前は、長から娘への最後の贈り物となった。
王の国に連れてこられたオーレリアは着いたその日に、自分は側女のひとりであると知った。
「私は妃ではなかったのか。私が唯一ではないのか!」
「妃にはしてやった。第六王妃だ、相違はない。唯一など一言も言っていない」
オーレリアの嘆きはにべもなく捨て去られた。一夫一妻はオーレリアの村では当然のこと。唯一と決めた相手以外に情を持つなど万死に値する行為であった。
その日から、手に入れた宝石の輝きに飽きるがごとく、王はオーレリアに渡ることはなくなった。律儀に届く月に一度の手紙も、オーレリアから村への手紙もいつしか捨てられるようになり、王は山の上の部族のことなどいつしか忘れてしまった。
国の外から来た、毛色の違う妃。後ろ盾もなく王の一存で妃になっただけの女を守るものなどいない。ほかの妃からはもとより、使用人からのいじめが日を追うごとにエスカレートした。
故郷からの手紙も届かず、味方もいないその地で、オーレリアは人知れず首を吊った。
帝国の傘下に入ったパールライト公国を通じ、オーレリアの故郷からの公文書が届く前日のことであった。パルテン王国に奇襲を受けたパールライトを助けたのは帝国だけではなく、山の上に住む部族のある村の青年たちも軍力に入っていたのだ。
その青年たちは言うまでもなく、代替わりで長となったオーレリアの兄とその仲間たちであった。
ある日、その子供たちが18歳になった日。山の下の外の国の王がその村を訪れた。親交を持ちたいといったその王は、しかしその日の晩に族長の娘を手籠めにした。
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手紙は月に一回。年に一回は村に戻る。この二つを約束に長は王に娘を連れていくことを許可した。王はうれし涙に濡れながら、女子を抱きしめた。その日のうちに帰るという王にもう一日だけ残ってほしいと願いを通し、翌日に簡易な式を挙げた。心からの笑顔を見せる女子のその姿は、もはや立派な大人であった。その成長の嬉しさと、この手を離れる寂しさに長は人知れず涙を流した。
大人になって初めて名前をもらうというしきたりに従い、長は娘に名前を授けた。
『オーレリア』
黄金を意味するその名前は、長から娘への最後の贈り物となった。
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「私は妃ではなかったのか。私が唯一ではないのか!」
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その日から、手に入れた宝石の輝きに飽きるがごとく、王はオーレリアに渡ることはなくなった。律儀に届く月に一度の手紙も、オーレリアから村への手紙もいつしか捨てられるようになり、王は山の上の部族のことなどいつしか忘れてしまった。
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その青年たちは言うまでもなく、代替わりで長となったオーレリアの兄とその仲間たちであった。
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