あなたの罪はいくつかしら?

碓氷雅

文字の大きさ
23 / 30

#9-①

しおりを挟む
 シュートとヒパラテムの演練はあれからも何日も続いた。一回りも年齢の違う二人だったがまるで十年来の友のように何度も何度も剣を重ね、鍛錬を重ねていた。帝国からの来客があったのはそれから六日後のことだった。

「遅くなりまして申し訳ございません。帝国騎士憲兵団第二部隊隊長、コーランド・アッシュベルムがご挨拶申し上げます」
「ご苦労でした。途中は災難でしたね」

 王宮の応接室に座すアーシェンに、コーランドは深く頭を下げたあと、後頭部を掻きながら困ったように笑った。

「ええ。まさか帝国騎士憲兵団の兵糧に盗みが入るとは…」
「わたくしも連絡をもらったときには驚きました。唯一消息の分かっていなかった方たちでしたから」

 カミールの計画には第一王子の謀反による騒動とパルテン王の処刑があった。それをアーシェンを迎えに来ていた騎士団が鎮圧するというのが当初の筋書きだった。しかし、肝心の第一王子が見当たらない。計画実行の前日には王宮内の掌握が済んでいたアーシェンにも居場所がわからないとなれば、早々に亡命したとしか考えられなかった。

 変わり身ならいくらでも作れる。それでもいいかと計画実行の朝を迎えた日。早馬が持ってきた報告書にアーシェンは笑いが止まらなかった。


『パルテン王国第一王子とその婚約者が兵糧窃盗で現行犯捕縛。王族のみが持つペンダントで身元は確認済み。手続きと罪状の送付で少し遅れます』


 大陸の王族はどの国の王族であれ、それぞれの国でデザインされた特別なペンダントを持っている。どんな時であれ、自らが王族であることを忘れずそれにふさわしい行動をとるべきと、十代も前の皇帝が周辺諸国に呼びかけたのだ。それをどう理解したかは知らないが、パルテンの王族はどうやら湾曲してしまったらしい。

 王族にふさわしい。ペンダントの持つ意味はその時点で逆転してしまっていた。しかし、そのおかげで亡命していた二人を見つけることが出来た。

 第一王子のラウはその婚約者を連れ、観光地でもある国境近くでペンダントを片手に豪遊していたという。支払いをお願いしようにも、そこの支配人からすれば王族に盾突くことになり、ひいては国賊になりかねない。一国民の支配人にできることはなかった。

 帝国軍の持っていた兵糧の中に珍しいものでもあったのか、ラウはそれにも手を出した。近くの農民のもので、王族がやったことなのだから許される、などと喚いて拘束に手間取ったとコーランドは言う。兵糧の窃盗を口実に支配人はコーランドに助けを求め、ふたりを帝国へ移送された。
 
「二人の身柄は拘束して帝国に送っております。そろそろ着く頃かと」
「そうですか。国境も超えた帝国の領内で起こったことですからね。それが妥当でしょう。賢明だったと思います。支配人には手当を?」
「はい。第一王子たちが飲み食いした分と宿泊費はこちらでおります」
「それは重畳。あとは裁判次第でしょうが、返済するまでは許されないでしょうね…」
「その通りかと。…して、われわれはここで何をすればよろしいので?」

 にこりと微笑んだアーシェンは、その言葉を待ってましたとばかりに紅茶を口に含み、言った。

「明日、パルテン王の処刑を行います。王国民にも通知済みです。重税に次ぐ重税、さらにはパールライト公国に国を売り払おうとしていた罪だと伝えています。帝国を代表し、警備をしつつ見届けてください」
「はっ。しかと」
「料理を用意しております。今日はゆっくりして、疲れをとってください。城の警備はこちらの者がやっておりますのでご心配なく」
「では、お言葉に甘えて」

 意気揚々とコーランドは扉のノブを握る。その行動の示すところが思い当って、アーシェンは彼を引き留めた。

「お酒は自重してくださいましね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

虚言癖の友人を娶るなら、お覚悟くださいね。

音爽(ネソウ)
恋愛
伯爵令嬢と平民娘の純粋だった友情は次第に歪み始めて…… 大ぼら吹きの男と虚言癖がひどい女の末路 (よくある話です) *久しぶりにHOTランキグに入りました。読んでくださった皆様ありがとうございます。 メガホン応援に感謝です。

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

王子は真実の愛に目覚めたそうです

mios
恋愛
第一王子が真実の愛を見つけたため、婚約解消をした公爵令嬢は、第二王子と再度婚約をする。 第二王子のルーカスの初恋は、彼女だった。

悪女は婚約解消を狙う

基本二度寝
恋愛
「ビリョーク様」 「ララージャ、会いたかった」 侯爵家の子息は、婚約者令嬢ではない少女との距離が近かった。 婚約者に会いに来ているはずのビリョークは、婚約者の屋敷に隠されている少女ララージャと過ごし、当の婚約者ヒルデの顔を見ぬまま帰ることはよくあった。 「ララージャ…婚約者を君に変更してもらうように、当主に話そうと思う」 ララージャは目を輝かせていた。 「ヒルデと、婚約解消を?そして、私と…?」 ビリョークはララージャを抱きしめて、力強く頷いた。

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

処理中です...