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#9-①
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シュートとヒパラテムの演練はあれからも何日も続いた。一回りも年齢の違う二人だったがまるで十年来の友のように何度も何度も剣を重ね、鍛錬を重ねていた。帝国からの来客があったのはそれから六日後のことだった。
「遅くなりまして申し訳ございません。帝国騎士憲兵団第二部隊隊長、コーランド・アッシュベルムがご挨拶申し上げます」
「ご苦労でした。途中は災難でしたね」
王宮の応接室に座すアーシェンに、コーランドは深く頭を下げたあと、後頭部を掻きながら困ったように笑った。
「ええ。まさか帝国騎士憲兵団の兵糧に盗みが入るとは…」
「わたくしも連絡をもらったときには驚きました。唯一消息の分かっていなかった方たちでしたから」
カミールの計画には第一王子の謀反による騒動とパルテン王の処刑があった。それをたまたまアーシェンを迎えに来ていた騎士団が鎮圧するというのが当初の筋書きだった。しかし、肝心の第一王子が見当たらない。計画実行の前日には王宮内の掌握が済んでいたアーシェンにも居場所がわからないとなれば、早々に亡命したとしか考えられなかった。
変わり身ならいくらでも作れる。それでもいいかと計画実行の朝を迎えた日。早馬が持ってきた報告書にアーシェンは笑いが止まらなかった。
『パルテン王国第一王子とその婚約者が兵糧窃盗で現行犯捕縛。王族のみが持つペンダントで身元は確認済み。手続きと罪状の送付で少し遅れます』
大陸の王族はどの国の王族であれ、それぞれの国でデザインされた特別なペンダントを持っている。どんな時であれ、自らが王族であることを忘れずそれにふさわしい行動をとるべきと、十代も前の皇帝が周辺諸国に呼びかけたのだ。それをどう理解したかは知らないが、パルテンの王族はどうやら湾曲してしまったらしい。
王族にふさわしい接待を。ペンダントの持つ意味はその時点で逆転してしまっていた。しかし、そのおかげで亡命していた二人を見つけることが出来た。
第一王子のラウはその婚約者を連れ、観光地でもある国境近くでペンダントを片手に豪遊していたという。支払いをお願いしようにも、そこの支配人からすれば王族に盾突くことになり、ひいては国賊になりかねない。一国民の支配人にできることはなかった。
帝国軍の持っていた兵糧の中に珍しいものでもあったのか、ラウはそれにも手を出した。近くの農民のもので、王族がやったことなのだから許される、などと喚いて拘束に手間取ったとコーランドは言う。兵糧の窃盗を口実に支配人はコーランドに助けを求め、ふたりを帝国へ移送された。
「二人の身柄は拘束して帝国に送っております。そろそろ着く頃かと」
「そうですか。国境も超えた帝国の領内で起こったことですからね。それが妥当でしょう。賢明だったと思います。支配人には手当を?」
「はい。第一王子たちが飲み食いした分と宿泊費はこちらで立て替えております」
「それは重畳。あとは裁判次第でしょうが、返済するまでは許されないでしょうね…」
「その通りかと。…して、われわれはここで何をすればよろしいので?」
にこりと微笑んだアーシェンは、その言葉を待ってましたとばかりに紅茶を口に含み、言った。
「明日、パルテン王の処刑を行います。王国民にも通知済みです。重税に次ぐ重税、さらにはパールライト公国に国を売り払おうとしていた罪だと伝えています。帝国を代表し、警備をしつつ見届けてください」
「はっ。しかと」
「料理を用意しております。今日はゆっくりして、疲れをとってください。城の警備はこちらの者がやっておりますのでご心配なく」
「では、お言葉に甘えて」
意気揚々とコーランドは扉のノブを握る。その行動の示すところが思い当って、アーシェンは彼を引き留めた。
「お酒は自重してくださいましね」
「遅くなりまして申し訳ございません。帝国騎士憲兵団第二部隊隊長、コーランド・アッシュベルムがご挨拶申し上げます」
「ご苦労でした。途中は災難でしたね」
王宮の応接室に座すアーシェンに、コーランドは深く頭を下げたあと、後頭部を掻きながら困ったように笑った。
「ええ。まさか帝国騎士憲兵団の兵糧に盗みが入るとは…」
「わたくしも連絡をもらったときには驚きました。唯一消息の分かっていなかった方たちでしたから」
カミールの計画には第一王子の謀反による騒動とパルテン王の処刑があった。それをたまたまアーシェンを迎えに来ていた騎士団が鎮圧するというのが当初の筋書きだった。しかし、肝心の第一王子が見当たらない。計画実行の前日には王宮内の掌握が済んでいたアーシェンにも居場所がわからないとなれば、早々に亡命したとしか考えられなかった。
変わり身ならいくらでも作れる。それでもいいかと計画実行の朝を迎えた日。早馬が持ってきた報告書にアーシェンは笑いが止まらなかった。
『パルテン王国第一王子とその婚約者が兵糧窃盗で現行犯捕縛。王族のみが持つペンダントで身元は確認済み。手続きと罪状の送付で少し遅れます』
大陸の王族はどの国の王族であれ、それぞれの国でデザインされた特別なペンダントを持っている。どんな時であれ、自らが王族であることを忘れずそれにふさわしい行動をとるべきと、十代も前の皇帝が周辺諸国に呼びかけたのだ。それをどう理解したかは知らないが、パルテンの王族はどうやら湾曲してしまったらしい。
王族にふさわしい接待を。ペンダントの持つ意味はその時点で逆転してしまっていた。しかし、そのおかげで亡命していた二人を見つけることが出来た。
第一王子のラウはその婚約者を連れ、観光地でもある国境近くでペンダントを片手に豪遊していたという。支払いをお願いしようにも、そこの支配人からすれば王族に盾突くことになり、ひいては国賊になりかねない。一国民の支配人にできることはなかった。
帝国軍の持っていた兵糧の中に珍しいものでもあったのか、ラウはそれにも手を出した。近くの農民のもので、王族がやったことなのだから許される、などと喚いて拘束に手間取ったとコーランドは言う。兵糧の窃盗を口実に支配人はコーランドに助けを求め、ふたりを帝国へ移送された。
「二人の身柄は拘束して帝国に送っております。そろそろ着く頃かと」
「そうですか。国境も超えた帝国の領内で起こったことですからね。それが妥当でしょう。賢明だったと思います。支配人には手当を?」
「はい。第一王子たちが飲み食いした分と宿泊費はこちらで立て替えております」
「それは重畳。あとは裁判次第でしょうが、返済するまでは許されないでしょうね…」
「その通りかと。…して、われわれはここで何をすればよろしいので?」
にこりと微笑んだアーシェンは、その言葉を待ってましたとばかりに紅茶を口に含み、言った。
「明日、パルテン王の処刑を行います。王国民にも通知済みです。重税に次ぐ重税、さらにはパールライト公国に国を売り払おうとしていた罪だと伝えています。帝国を代表し、警備をしつつ見届けてください」
「はっ。しかと」
「料理を用意しております。今日はゆっくりして、疲れをとってください。城の警備はこちらの者がやっておりますのでご心配なく」
「では、お言葉に甘えて」
意気揚々とコーランドは扉のノブを握る。その行動の示すところが思い当って、アーシェンは彼を引き留めた。
「お酒は自重してくださいましね」
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