悪役令嬢として役を頂いたからには、最後まで演じきりたいです!

椎名さえら

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オリヴィア・エヴァンス嬢の場合

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レオナルド・サットン侯爵子息は、金髪碧眼の見るからに王子様といった容貌を持ったいわゆる社交界きってのモテ男で、ヒロインの親衛隊のひとりになり、熱心な信奉者となるはずーーーなのだが、物語の中でこの男だけがどうしてもうまく動いてくれなくて、私はいつもヤキモキしていた。

彼はヒロインどころか、何故か彼は《悪役令嬢その2》の、私にまとわりつくのだ。しかも呼びかけ方でわかると思うが、至極馴れ馴れしいのである!何故フルネームで呼ぶのだ!おい!お前の目はどうなっとる!このほどほどの令嬢に話しかけて一体何の得があるというのだ!

最初にレオナルドを見かけたのは、物語序盤でもかなり大事なお茶会のシーンだった。そのお茶会で子爵令嬢であるヒロインがヒーローの前に初めて姿を現し、その可憐な美しさで彼の興味を惹くのだ。ヒーローの婚約者だったエディスの友人枠で私もそのお茶会に参加し、ヒロインとヒーローの間で感情の火花がスパークルするのを見てしまう、という筋立てだ。

レオナルドはヒーローの友人としてお茶会に参加して、ヒロインの味方になる、という役回りだった!のに!彼は私のことを一目見た時から、ヒロインではなくて私のことを追いかけ回すので、心底ハラハラしたものである。

『オリヴィア・エヴァンス…侯爵令嬢!どうして今まで会わなかったんだろう?』
『そのダークグレーの瞳、宝石みたいで綺麗だね』
『君の輝く薄茶色の髪、最上級の絹のようで手触りが良さそうだ』

私はヒーローとヒロインのファーストコンタクトという大切な場面のため、彼らの行動を追うのに必死で、なんか歯の浮くような台詞を言ってくるレオナルドが鬱陶しくて鬱陶しくて。揶揄ってるとしか思えない!しかも彼はヒロインを悪役令嬢たちエディスと私から守るべく、彼女ヒロインの側にいなければならないというのに私の側にいては全く話にならない。なので必死にレオナルドにヒロインの側に行くように仕向けた。しかしーーーまったく思うように動いてくれなかった…。

女優の力を持ってしても、動かせない男を前に無力感と絶望に覆われたとき、しかしヒロインの台詞からと分かり、とりあえずそこからはレオナルドの存在を無視した。この時点ではエディスはまだヒーローの婚約者だったので、彼の近くにいたからきっと彼女がうまいこと場を回してくれたのだと思っている。一言一句は小説と同じでなくても(そもそもそこまで詳しくは覚えていないし)大筋が合っていればよろしい。

『また会おう、オリヴィア・エヴァンス』

お茶会から帰るときにはレオナルドはすっかりフルネームで私のことを呼び、親しげに別れを告げてきたが、私は完璧に無視したーーーというのに!!と い う の に!!!

ヒーローの親しい友人の一人、また貴族令嬢たちの憧れの的、といういかにも物語の盛り上げ役のレオナルドとの遭遇回数はそれからも異常に多かった。しかも。彼の顔を見ると、私がうんざりしてしまうのはご理解頂けただろうか。

(それでまた今夜もなんで此処にいるの…貴方は大広間でヒーローたちのことを祝福していなきゃ駄目でしょうが!!)

「あの…大広間に行かなくていいんですか?」

「何を言っている。大広間にはオリヴィア・エヴァンスがいないじゃないか」

(知ってたけど、どうかしてるんだな、この人は…)

「いえ…私はもう帰りますので、お気になさらず」

そして数日後に迫る、《悪役令嬢その2》の一世一代の演技のためにイメージトレーニングに励むのである!

レオナルドはその美貌でもって、しげしげと私を見つめる。いや、美貌なのは分かってるから、正直見つめないでいただきたい。ほどほどの令嬢にはこの男の美しく整った顔は目の毒である。彼にはヒロインやエディスくらいに美しい令嬢がお似合いだ。

「今夜の君はとても嬉しそうでいつも以上に美しく輝いているーーー何かいい出会いでも?」

突然声が低くなって、レオナルドがどん、と私を廊下の壁に押し付けた。

(あれ…これ、一世を風靡した壁ドンってやつ?リアルにやる男ってこの世に存在したの?)

「で、出会い!?私みたいな令嬢にあるわけがないでしょう」

…とは?」

(近い近いマジ近いってマジでやめてって)

前世ではごく普通の人生だった私、もちろん壁ドンなんて初めてだし、こんなイケメンを至近距離で見たのも初めてである。ほどほど令嬢には刺激が強い!

「いや…サットン様もご存知でしょうが、せいぜい私なんて壁の花なわけですから…平凡な令嬢ですからね」

「君は平凡ではない」

「え?いや…そりゃ人にちょっと嫌味を言ったりはしてますけど、十分平凡な範囲だと思うんですけど…」

《悪役令嬢その2》はかなり地味だし、犯罪すれすれの行為もしないので、まぁ平凡といったら平凡ではないかと…。

レオナルドは、そうではない、と私の言葉を否定する。


「君はこの世のものとは思えないほど、美しい」






「は?」
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