小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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豪宴客船編

結城の判断

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「う~ん……」
 結城ゆうき恵比須えびすからの依頼をどうするか考えあぐねていた。
 報酬の問題ではない。そもそも恵比須は報酬に比例して難解な依頼を持ってくるのだ。
 今回の依頼はもしかすると、今までで一番大きな報酬になるかもしれない。そうなると、依頼は恵比須が口にしたどころではない、とてつもなく馬鹿げた状況が待っていそうなものだ。
 結城の頭には、タイタニックよろしく真っ二つに割れて沈んでいく豪華客船のイメージが浮かんでいた。
 両腕を抱えて身震いする結城。断ってもいいと言われている以上、無理して受ける必要もない。ないのだが、
「……」
 結城はチラリと、媛寿えんじゅたちとインディアンポーカーに興じているクロランを見た。
 恵比須が最後に言っていたことが、どうしても結城の後ろ髪を引いていた。

「船が出るんは十日後や。一週間待つし、それまでに返事よこしてな~」
 依頼の全てを伝え終えた恵比須は、軽やかな動きでソファから立ち上がった。そのまま踵を返して部屋を後にしようとしていたが、
「あっ、恵比須様。ちょっと」
 それを結城が呼び止めた。
「ん? 何か分からんトコでもあった?」
「いえ、依頼のことじゃなくてですね、恵比須様は獣人のこと何か知ってますか?」
「獣人? 最近流行はやりのケモミミいうヤツ? コバちゃんそーゆーんが好みやったんかぁ。そやったらワシいくつか店持っとるし、ええトコ紹介したるで。ワシの口利きや言うたら三割引きや。なんや? ウサギか? ニャンコか?」
「そういう意味ではありません!」
 勝手に解釈して話を進める恵比須を、アテナが強く一喝した。
「こののことです」
 アテナはクロランの背中を軽く押して、前に出るように促した。恵比須の前に出されたクロランは、やはり見慣れぬ相手に獣の耳を垂れさせている。
「ん~? へ~、珍しいなぁ。狸や狐が化けたんやなくて、フツーにそーゆー耳生えとるんか」
 クロランをまじまじと観察した恵比須は、何度も頷きながら感心していた。それがより一層クロランを萎縮させてしまっているが。
「何か分かりませんか、恵比須様? 確か恵比須様、外国の神様にも知り合いがいるって言ってましたね? その方々から何か聞いたりは……」
「ん~、毘沙門天ビシャモ弁財天サラちゃんとかやったら何か知っとるかもしれんけど、ワシからは何ともな~……あっ、そや」
 恵比須は不意に何事か思いついたように人差し指を立てた。
「それも船に乗ったら分かるんやないかな?」
「えっ? この船に、ですか?」
 結城は再度、テーブルの上の写真を見た。
「そうそう。さっき言うたやろ? この船、人身売買まがいなことしとるて」
「え、ええ」
「『まがい』言うたんはただの人身売買やのうて、『珍しい種族』を攫ってきて売り捌いてるいう話なんや。ワシもはっきし確かめたわけやないけどな。それ取り仕切っとるブローカー締め上げたら、何か知っとるんちゃうかな?」
「ブローカー……」
「じゃコバちゃん、返事待っとるで~」
「え? あ、ちょっと―――」
 結城が考えを巡らせようとした隙に、恵比須は素早く立ち上がると、そそくさと居間を後にした。
「恵比須!?」
「堪忍な~。次は稲荷神イナちゃんのトコに出店でみせの相談に行くんや~」
 呼び止める間もなく、恵比須は古屋敷ふるやしきのドアを開閉して去ってしまった。残ったのは嵐が通り過ぎたような静けさと、テーブルの上に置かれたチケット袋だけだった。

  恵比須の依頼はまず間違いなく、一筋縄でいかない厄介事になると結城も理解している。報酬の問題ではなく、下手をすれば命に関わるような事態もあったからだ。
 正直なところ、結城も恵比須の依頼は手に余るので、受けたくはないのだが、
「……」
 結城は再びクロランをちらりと見た。どうやら今度はクロランが一人勝ちしたらしく、非常に驚いた顔をして獣耳をぴんと立てている。
(クロランの……獣人のことが分かるかもしれない、か……)
 恵比須が話した依頼内容の中で、それが最も結城の心を引きつけてやまなかった。
 どのみち何もしないでいては状況は変わらない。なら、可能性がある方に賭けてみるのが良いのかもしれない。わずかでも何か情報が手に入ったなら、それだけでも上々だ。
 結城の心は決まった。
「恵比須様の依頼、受ける」
「え!?」
「ん!?」
「N☆!?(なっ!?)」
「!、?」
「……?」
 結城の突然の宣言に、媛寿、アテナ、マスクマン、シロガネ、クロランが順繰りに反応した。
「RΞ4→、HΠ(本気かよ、おい)」
「ユウキ、あなたの決断に水を差すつもりはありませんが、エビスの依頼が言葉通りに済むとは思えません。加えて今回は海の上です。何かあれば逃げおおせるのは非常に困難でしょう。それでも行きますか?」
 恵比須の依頼に大きな懸念を持っているマスクマンとアテナは、結城の意思を改めて確かめようとした。
「はい。たぶん友宮邸ともみやてい螺久道村らくどうむらより危ないことになるだろうとは思いますけど、これまでの依頼も皆でなんとか切り抜けましたし。それに……」
 結城はクロランに顔を向けた。結城と目が合ったクロランは、きょとんとした顔で首を傾げている。
「クロランの手がかりがありそうなら、やっぱりここは逃すべきではないと思います」
「よろしい!」
 結城の気持ちを聞いたアテナは、おもむろに立ち上がると不敵な笑みを浮かべた。
「では今から準備を始めましょう。ユウキ、私の前に立ちなさい」
「え? あ、はい」
 アテナに手招きされた結城は、何事か分からず、とりあえずアテナの前まで行って立ち止まった。
「両腕を上げなさい」
「う、腕を?」
「いわゆる『バンザイ』です」
「ばんざ~―――い!?」
 結城の腕が持ち上げられた瞬間、アテナは結城のシャツの裾を持ち、あっさりと結城をセミヌードにしてしまった。
「え!? え!? え!?」
「そのままでいなさい」
 アテナは今度は結城のズボンに手をかけ、一気に引き下ろした。いつぞやの酒宴の再現にも思えるが、今回は結城のパンツは無事である。
「ア、アテナ様、こ、これは一体―――」
 パンツ一丁に剥かれた結城が困惑していると、アテナはいつの間にか巻尺を手にしていた。そして固まったままの結城から、身長、腕の長さ、胸囲、腹囲、腰周り、足の長さ等々を測ると、それらの数値をメモ用紙に素早く書き連ねた。
「ユウキ、もう服を着ても結構です」
「は、はい。それでアテナ様、今のは一体……」
くだんの船はドレスコードが設けられているとエビスも言っていました。なので私が全員分の衣装をしつらえましょう」
(そ、そういうことだったのか。びっくりした~)
 ズボンを履き直しながら、結城は胸を大きく撫で下ろした。また裸でレスリングをしようと言われてしまっては、今度は逃げ切れないところだった。
「さて、残るは……」
 巻尺を構えたアテナは、振り返って他のメンバーに照準を合わせた。
「え、えんじゅはよそゆきようのある……」
「MΣ9↓(オ、オレも間に合ってるから)」
「これが、正装」
「?」
 その後、全員アテナにひん剥かれてサイズを測られたことは言うまでもない。
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