小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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豪宴客船編

商業神の報酬

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 恵比須えびすが持ち込んできた依頼を受けるか否か、結城ゆうきはすぐに答えを出すことができなかった。
 商業と漁業を司る神、恵比須。かつてイザナギ神とイザナミ神の間に生まれ、しかし望まれた体を持っていなかったために、あしの葉で作った舟で流された、最初の神。
 流れ着いた先で奉られ、後に七福神の一柱として日本で知らぬ者がいないほど、八百万の神々の中では特に大きな力を持つ。
 商業の神であるため、懐に入ってくる金銭も他の神の比ではなく、結城たちへの依頼料も驚くほどに高額だった。
 ただし、それは報酬に吊り合うだけの難題が待っているということを意味する。
 以前に結城たちが受けた依頼は、どれもが普通の人間、あるいは霊能者では手に負えないほどに厄介な内容だった。
 ダイダラボッチが誤って開けてしまった穴を、目立たないように埋め立ててほしいと依頼されて出向けば、湖ができてしまうのではないかという巨大な足跡があった。アテナが綿密な作業計画を立ててくれなければ、業者を複数呼んでも足りなかったかもしれない。
 またある時には、スサノオがヤマタノオロチの首がまだ生きていないか心配になったからと、首を捨てた場所を見てきてほしいと言われた時は、見事に生きていた首に出くわしてしまった。結城たちが持つ総力でもって退治できたはいいが、首だけとはいえ伝説の大蛇を相手取って生きて帰って来れたとは、結城は今でも不思議に思っている。
 神々のちょっとした困り事を依頼として斡旋してくる恵比須ではあるが、そのスケールは人間の想像に収まるものでは決してなく、代わりに報酬も相応に高まるということだった。
 金銭が絡む取引において厳正な公平性を持っているのは確かだが、その依頼が途方もない内容であることがほとんどのため、結城たちは恵比須の依頼を少し敬遠していた。
 当然、今回の依頼も相応の困難が予想される。
 結城は恵比須が言っていた依頼料の件を思い出していた。

「ちなみに依頼料は片手で払うで」
 恵比須はにんまりしながら右手の指を五本立てた。
「五百万ですか? あなたにしては小額ですね」
 恵比須の提示した金額に、アテナは眉をひそめた。ダイダラボッチの件では拳大の砂金の大粒。スサノオの件ではスーパーボールほどもあるダイヤモンドの原石が報酬だった。これまでの経験上、恵比須が低額な依頼も、簡単に達成できる依頼も持ってこないことを知っているのだ。
「ってぇのはワシが払う基本料金や。今回はそれにごっついプラスαアルファが付くで」
 さらにニヤニヤしながら恵比須は話を進める。まるで客の反応を楽しむ実演販売員のように。
「さっきうた通り、この船にはカジノがある。賭け金さえ持っとるなら、乗船客は参加自由や。そこでや、媛寿えんじゅちゃ~ん」
「ん?」
 恵比須は不意に媛寿の名を呼んだ。媛寿はといえば、土産としてもらったアイスケーキを早速切り分け、皿に載せてクロランに渡そうとしているところだった。
「この船、めっちゃおもろいゲームセンターあるんやけど、遊んでみたない?」
「げーむせんたー!? いきたいいきたい!」
 ゲームセンターと聞いて、媛寿は目を輝かせながらぴょんぴょんとその場でジャンプした。最近は長期の依頼であったり、その後で結城が入院したりで、なかなかゲームセンターに行けていなかったので、一際喜んでいる。
「カジノで勝った分はそのまま全部報酬ってことでかまへんで。媛寿ちゃんがおったらどんなゲームも総なめや。いっくらでも巻き上げたってええで。どや、コバちゃん?」
「え、え~……」
 恵比須の提案に結城はまたも引き気味になった。確かに媛寿がいればカジノで大勝ちしそうなものではあるが、座敷童子ざしきわらしの能力を知っていれば、ほとんどイカサマ同然である。
 そう考えると下手な犯罪よりも悪いことをするような気になってきてしまった。
「依頼内容と報酬については解りました」
 返答に困っている結城に代わり、アテナが口を開いた。まだ恵比須を警戒しているのか、声の険しさは薄れていない。
「それで、私たちはこの船で何をすればよいと言うのですか?」
 アテナの問いに、恵比須は気付かれない程度に目尻を上げた。釣魚ちょうぎょの動きを確信した釣り師のように。
「さっき言うたように、この船にはヤバい武器が載っとるわけやが、それ以外で通常兵器の方も取引されとる。もちろんソイツも法に触れる代物や。基本的にはその証拠品を押さえてもろたらええ。海上保安庁とか、その他もろもろの手配はコッチでするさかいな」
「え? それだけ、でいいんですか?」
 依頼の実働部分を聞いた結城は、あまりにもあっさりした内容に拍子抜けした。それで良いなら古屋敷ふるやしきの面々で乗り込む必要がなさそうなものだ。
「さっきも言うたように人の手に負えんモンが乗っとるから、普通の警察やったらあっちゅー間にお陀仏や。コバちゃんたちやったら、それこそ神代の化け物でも出てん限り大丈夫やろ? ワシも安心やし」
「は、はぁ……」
 恵比須の説明で一応返事をする結城だったが、なぜか小骨程度に腑に落ちないものが感じられた。恵比須の依頼が簡単に済まないと疑っているのは結城も同じだからだ。
「それにこの船、思てるよりガード固いでぇ。警察に少しでもチクりそうなモンは徹底して弾かれる。金があって警察とかにチクらんようなド汚い奴を本気で選り抜きよるんや。このチケット手に入れんのも、ワシけっこう苦労したねんで」
「そう、なんですか」
 テーブルに置かれたチケット袋に、結城は目を落とした。恵比須の言い分では、九木くき佐権院さげんいんと面識のある自分は当てはまらないように思えた。
「あっ、ちなみにコバちゃんの身分やけど、明治から続いてて財閥解体もド汚いやり口で乗り切った華族の末裔ってことにしてあるからヨロシク」
「えっ!?」
「で、アテナちゃんは武器の横流しがバレて仲間に人身売買に出された元傭兵で、それをコバちゃんが手篭めにして生まれたんが媛寿ちゃん」
「なっ!」
「ん?」
「マッちゃんとシロちゃんは借金のカタでコバちゃんのトコに一生奉公に出された使用人や」
「OΨ(おい)」
「…、…」
「まっ、こんくらいえげつない設定に盛っとけば怪しまれんやろし、安心して乗船できるで。あっはっは~」
 呵呵大笑する恵比須とは対照的に、結城は呆然とし、四柱の神霊たちはジト目で恵比須を睨んでいた。
「と、ワシから話すことはここまでやな。受けてくれるんならワシとしてはバンバンザイやし、受けたないならハネてくれてもええ。船が出るんは十日後や。一週間待つし、それまで返事よこしてな~」
 結城が聞いた恵比須からの依頼内容はこれが全てだった。
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