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竜の恩讐編
道案内 その2
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霧が満ち満ちた白一色の空間を、キュウと千夏が乗った人力車は迷いなく真っ直ぐに進む。
その後方数メートルを、千春たちが乗るリムジンが追走していた。
五里霧中という言葉を体現したように、四方八方が何も見通せないはずが、なぜか人力車だけは明確に視認でき、走っているのが道路であるというのも判った。
そんな現実とも異界ともつかない場所を走っているにも関わらず、千春たちはリムジンの後部席で寛いでいた。
「千春、信用していいの? アレ」
備え付けの冷蔵庫から取り出したワインをグラスに注ぎながら、ルーシーはフロントガラスの先を目線で示した。
前方を行く人力車は、一寸も振れることなく走り続けている。
「いいんじゃない? 案内してくれるって言ってるわけだし」
ルーシーと対面に座る千春は、左隣にリズベルを侍らせ、その肩を抱いている。
「妾が言ってるのはそのことなんだけど? キュウは吸血鬼から見ても相当な化け物よ」
訝しい表情を浮かべながら、ワインの注がれたグラスを差し出すルーシー。
「う~む―――千秋」
グラスを受け取った千春は、急に千秋に話を振った。
「あの金髪の巫女の顔、『視認えた』?」
「我が邪眼をもってしても、あの者の面貌を視認ること適
わず」
千春の右隣に座っていた千秋は、片目を押さえながら芝居がかった動きで背を曲げた。
「……ヴィクトリアは? あの巫女の顔、『視認えた』?」
千春は今回は千秋の中二病に特に触れることなく、次にルーシーの隣に座るヴィクトリアに聞いた。
「わたしの、右眼、でも、左眼、でも、視認え、なか、た」
「ね? こういうことよ、ルーシー」
二人の解答を聞いた千春は、改めてルーシーに話を戻した。
「どういうこと?」
「千秋でもヴィクトリアでも、あたしでもあの巫女の顔は判別不能かった。そんなことができる化け物なら、わざわざ回りくどいことしなくても、会った瞬間にあたしたちを殺してよかったってこと」
千春はそう言うと、グラスの中身をゆっくり傾けて飲み干していった。さも余裕であると言わんばかりに。
「今は本当に道案内をしてくれてるだけよ。でないと小林結城があたしたちを―――いえ、この娘を呼び出した意味ないもの」
飲み干したワインの余韻を楽しみながら、千春はリズベルの首筋に指を這わせる。
(なるほど。言われてみれば)
千春の話した解釈に、ルーシーはそれなりに納得した。
千秋は術に優れているので、大抵の幻術は効かずに看破してしまう。
ヴィクトリアの内蔵カメラは機械であるために、そもそも普通の幻術が通じるはずもない。
それすら捻曲げて認識阻害を行使できるとなれば、神にすら届きかねない化け物ということになる。
それほどの大物であれば、千春の言うように、会った瞬間に殺されていても不思議ではなかったはずだ。
「そう、分かった。それならこの状況は安心していいわけね」
「案内された先で、あたしたちは依頼をこなす。いつも通りよ、ルーシー」
(もっとも、その後あのキュウは何するか分からないけどね)
依頼を達成した後のことについて、千春はあえて話さなかったが、それでも千春の心には、恐怖ではなく興奮が湧きたっていた。あるいはキュウと死闘を繰り広げることになるのではないかと。
殺戮や性の快楽と同等に、千春にとって闘争は大好物だったからだ。
「じゃあもう一つ。アッチはどうするの?」
ルーシーは自分用のワインをグラスに注ぎながら、今度はリアガラスの方に目を向けた。
千春たちが乗るリムジンの後方に、ほんのりと明かりが見える。
それはヘッドライトの明かりであり、何者かが小型乗用車でリムジンを追っている証拠だった。
「放っておいて大丈夫なの?」
「アレはただのお目付け役。何もしてこないわ。それに―――」
千春はリズベルを抱き寄せ、より密着する状態にさせた。
「もう『あたしたち』に干渉できないしね」
その後方数メートルを、千春たちが乗るリムジンが追走していた。
五里霧中という言葉を体現したように、四方八方が何も見通せないはずが、なぜか人力車だけは明確に視認でき、走っているのが道路であるというのも判った。
そんな現実とも異界ともつかない場所を走っているにも関わらず、千春たちはリムジンの後部席で寛いでいた。
「千春、信用していいの? アレ」
備え付けの冷蔵庫から取り出したワインをグラスに注ぎながら、ルーシーはフロントガラスの先を目線で示した。
前方を行く人力車は、一寸も振れることなく走り続けている。
「いいんじゃない? 案内してくれるって言ってるわけだし」
ルーシーと対面に座る千春は、左隣にリズベルを侍らせ、その肩を抱いている。
「妾が言ってるのはそのことなんだけど? キュウは吸血鬼から見ても相当な化け物よ」
訝しい表情を浮かべながら、ワインの注がれたグラスを差し出すルーシー。
「う~む―――千秋」
グラスを受け取った千春は、急に千秋に話を振った。
「あの金髪の巫女の顔、『視認えた』?」
「我が邪眼をもってしても、あの者の面貌を視認ること適
わず」
千春の右隣に座っていた千秋は、片目を押さえながら芝居がかった動きで背を曲げた。
「……ヴィクトリアは? あの巫女の顔、『視認えた』?」
千春は今回は千秋の中二病に特に触れることなく、次にルーシーの隣に座るヴィクトリアに聞いた。
「わたしの、右眼、でも、左眼、でも、視認え、なか、た」
「ね? こういうことよ、ルーシー」
二人の解答を聞いた千春は、改めてルーシーに話を戻した。
「どういうこと?」
「千秋でもヴィクトリアでも、あたしでもあの巫女の顔は判別不能かった。そんなことができる化け物なら、わざわざ回りくどいことしなくても、会った瞬間にあたしたちを殺してよかったってこと」
千春はそう言うと、グラスの中身をゆっくり傾けて飲み干していった。さも余裕であると言わんばかりに。
「今は本当に道案内をしてくれてるだけよ。でないと小林結城があたしたちを―――いえ、この娘を呼び出した意味ないもの」
飲み干したワインの余韻を楽しみながら、千春はリズベルの首筋に指を這わせる。
(なるほど。言われてみれば)
千春の話した解釈に、ルーシーはそれなりに納得した。
千秋は術に優れているので、大抵の幻術は効かずに看破してしまう。
ヴィクトリアの内蔵カメラは機械であるために、そもそも普通の幻術が通じるはずもない。
それすら捻曲げて認識阻害を行使できるとなれば、神にすら届きかねない化け物ということになる。
それほどの大物であれば、千春の言うように、会った瞬間に殺されていても不思議ではなかったはずだ。
「そう、分かった。それならこの状況は安心していいわけね」
「案内された先で、あたしたちは依頼をこなす。いつも通りよ、ルーシー」
(もっとも、その後あのキュウは何するか分からないけどね)
依頼を達成した後のことについて、千春はあえて話さなかったが、それでも千春の心には、恐怖ではなく興奮が湧きたっていた。あるいはキュウと死闘を繰り広げることになるのではないかと。
殺戮や性の快楽と同等に、千春にとって闘争は大好物だったからだ。
「じゃあもう一つ。アッチはどうするの?」
ルーシーは自分用のワインをグラスに注ぎながら、今度はリアガラスの方に目を向けた。
千春たちが乗るリムジンの後方に、ほんのりと明かりが見える。
それはヘッドライトの明かりであり、何者かが小型乗用車でリムジンを追っている証拠だった。
「放っておいて大丈夫なの?」
「アレはただのお目付け役。何もしてこないわ。それに―――」
千春はリズベルを抱き寄せ、より密着する状態にさせた。
「もう『あたしたち』に干渉できないしね」
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