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竜の恩讐編
道案内 その1
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「ここ、ね」
私立皆本学園の理事長、皆本光四―――創立以来、実質千春がその名の役を務め続けている―――が所有するリムジンから降りた千春は、金毛稲荷神宮の鳥居を見上げて言った。
千春に続き、パンツスーツ姿のルーシーが、白衣を着たヴィクトリアが、ゴシックドレスを纏った千秋が、最後に皆本学園の制服に着替えたリズベルが降車する。
鳥居から先は、異様な冷たさの霧が幾重にも立ちこめ、中の様子を窺い知ることはできない。
陽が落ちて夜闇が辺りを黒く染め上げているのもまた、神宮の内部を見通せない一因となっている。
だが、千春たちが到着してそれほど間を置かず、鳥居の向こうから二つの人影が歩み寄ってきた。
一人は長い黒髪を後ろで一本に束ね、白衣と緋袴という装いの、一目で巫女と判る者。
もう一人は同じく巫女装束ではあるが、半透明の千早も着込み、目を引く金色の髪をなびかせる妖しの者。
それが案内人であると予想がついた千春たちは、特に身構えることなく、二人が鳥居の前まで来るのを待った。
そして、二人の姿がはっきり視認できる距離まで詰まると、
「千夏、久しぶり」
千春は黒髪の巫女に笑顔で挨拶した。
「!? 千春姉……それに千秋も」
黒髪の巫女、千夏は、現れたのが自身の腹違いの姉妹だったことに驚いたようだった。が、すぐに口元を引き結び、目を鋭く細めた。
「そうか……結城のヤツ殺ったのは千春姉だったわけか」
「人聞き悪いわねぇ。あたしは殺ってないわよ。殺ろうとしてるのは―――」
千春は後ろへと視線を送る。その先にはプラチナブロンドの少女が立っていた。
「まぁでも、これから殺っちゃうんだけどね」
千春は歯を見せてニヤけながら、手刀で首を斬る真似をした。
同じ鬼の血を引く者同士であるが、なぜか今の千夏には、千春の態度がひどく癇に障るような気がした。
「お身内の挨拶はそのくらいにして―――お初にお目にかかります。当神宮を稲荷神より預からせていただいております、キュウと申します」
もう一人の金色の巫女、キュウは丁寧な自己紹介の後、深々とお辞儀をした。
だが、千春を始め、誰一人としてキュウの恭しさに気を許してはいなかった。
その容姿以上に、キュウが内包する『何か』が、非常に危険なものだと察していたからだ。
非常に巧く隠した殺意も含めて。
「小林結城さんがお待ちの場所までご案内させていただきます。私たちの後を付いてきていただけますか」
そう言うとキュウは鳥居から右の方向へと歩き出した。
「金毛稲荷神宮から少々遠くへ向かいますので―――」
キュウが歩いていく先には、いつの間にか人力車が待機していた。
「―――見失われませんように」
キュウと千夏が座席に並ぶと、人力車は御者もいないのに勝手に持ち上がり、ゆっくりと道を進んでいった。
「……付いていくしかなさそうね」
千春は再びリムジンに乗り込み、残る全員がシートに着いたことを確認すると、
「人力車を追って」
運転手に人力車に続くよう指示した。
夜霧が立ち込める中を進む人力車を、ヘッドライトを灯したリムジンが追走していった。
私立皆本学園の理事長、皆本光四―――創立以来、実質千春がその名の役を務め続けている―――が所有するリムジンから降りた千春は、金毛稲荷神宮の鳥居を見上げて言った。
千春に続き、パンツスーツ姿のルーシーが、白衣を着たヴィクトリアが、ゴシックドレスを纏った千秋が、最後に皆本学園の制服に着替えたリズベルが降車する。
鳥居から先は、異様な冷たさの霧が幾重にも立ちこめ、中の様子を窺い知ることはできない。
陽が落ちて夜闇が辺りを黒く染め上げているのもまた、神宮の内部を見通せない一因となっている。
だが、千春たちが到着してそれほど間を置かず、鳥居の向こうから二つの人影が歩み寄ってきた。
一人は長い黒髪を後ろで一本に束ね、白衣と緋袴という装いの、一目で巫女と判る者。
もう一人は同じく巫女装束ではあるが、半透明の千早も着込み、目を引く金色の髪をなびかせる妖しの者。
それが案内人であると予想がついた千春たちは、特に身構えることなく、二人が鳥居の前まで来るのを待った。
そして、二人の姿がはっきり視認できる距離まで詰まると、
「千夏、久しぶり」
千春は黒髪の巫女に笑顔で挨拶した。
「!? 千春姉……それに千秋も」
黒髪の巫女、千夏は、現れたのが自身の腹違いの姉妹だったことに驚いたようだった。が、すぐに口元を引き結び、目を鋭く細めた。
「そうか……結城のヤツ殺ったのは千春姉だったわけか」
「人聞き悪いわねぇ。あたしは殺ってないわよ。殺ろうとしてるのは―――」
千春は後ろへと視線を送る。その先にはプラチナブロンドの少女が立っていた。
「まぁでも、これから殺っちゃうんだけどね」
千春は歯を見せてニヤけながら、手刀で首を斬る真似をした。
同じ鬼の血を引く者同士であるが、なぜか今の千夏には、千春の態度がひどく癇に障るような気がした。
「お身内の挨拶はそのくらいにして―――お初にお目にかかります。当神宮を稲荷神より預からせていただいております、キュウと申します」
もう一人の金色の巫女、キュウは丁寧な自己紹介の後、深々とお辞儀をした。
だが、千春を始め、誰一人としてキュウの恭しさに気を許してはいなかった。
その容姿以上に、キュウが内包する『何か』が、非常に危険なものだと察していたからだ。
非常に巧く隠した殺意も含めて。
「小林結城さんがお待ちの場所までご案内させていただきます。私たちの後を付いてきていただけますか」
そう言うとキュウは鳥居から右の方向へと歩き出した。
「金毛稲荷神宮から少々遠くへ向かいますので―――」
キュウが歩いていく先には、いつの間にか人力車が待機していた。
「―――見失われませんように」
キュウと千夏が座席に並ぶと、人力車は御者もいないのに勝手に持ち上がり、ゆっくりと道を進んでいった。
「……付いていくしかなさそうね」
千春は再びリムジンに乗り込み、残る全員がシートに着いたことを確認すると、
「人力車を追って」
運転手に人力車に続くよう指示した。
夜霧が立ち込める中を進む人力車を、ヘッドライトを灯したリムジンが追走していった。
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