上 下
360 / 377
竜の恩讐編

道案内 その1

しおりを挟む
「ここ、ね」
 私立皆本みなもと学園の理事長、皆本光四みなもとみつよ―――創立以来、実質千春ちはるがその名の役を務め続けている―――が所有するリムジンから降りた千春は、金毛稲荷神宮こんもういなりじんぐうの鳥居を見上げて言った。
 千春に続き、パンツスーツ姿のルーシーが、白衣はくいを着たヴィクトリアが、ゴシックドレスをまとった千秋ちあきが、最後に皆本学園の制服に着替えたリズベルが降車する。
 鳥居から先は、異様な冷たさの霧が幾重いくえにも立ちこめ、中の様子をうかがい知ることはできない。
 陽が落ちて夜闇が辺りを黒く染め上げているのもまた、神宮の内部を見通せない一因となっている。
 だが、千春たちが到着してそれほど間を置かず、鳥居の向こうから二つの人影が歩み寄ってきた。
 一人は長い黒髪を後ろで一本にたばね、白衣びゃくえ緋袴ひばかまというよそおいの、一目で巫女とわかる者。
 もう一人は同じく巫女装束ではあるが、半透明の千早ちはやも着込み、目を引く金色こんじきの髪をなびかせるあやしの者。
 それが案内人であると予想がついた千春たちは、特に身構えることなく、二人が鳥居の前まで来るのを待った。
 そして、二人の姿がはっきり視認できる距離まで詰まると、
千夏ちなつ、久しぶり」
 千春は黒髪の巫女に笑顔で挨拶あいさつした。
「!? 千春ねえ……それに千秋も」
 黒髪の巫女、千夏は、現れたのが自身の腹違いの姉妹だったことに驚いたようだった。が、すぐに口元を引き結び、目を鋭く細めた。
「そうか……結城ゆうきのヤツったのは千春姉だったわけか」
「人聞き悪いわねぇ。あたしは殺ってないわよ。殺ろうとしてるのは―――」
 千春は後ろへと視線を送る。その先にはプラチナブロンドの少女が立っていた。
「まぁでも、これから殺っちゃうんだけどね」
 千春は歯を見せてニヤけながら、手刀で首を斬る真似まねをした。
 同じ鬼の血を引く者同士であるが、なぜか今の千夏には、千春の態度がひどくかんさわるような気がした。
「お身内の挨拶はそのくらいにして―――お初にお目にかかります。当神宮を稲荷神より預からせていただいております、キュウと申します」
 もう一人の金色の巫女、キュウは丁寧ていねいな自己紹介の後、深々とお辞儀じぎをした。
 だが、千春を始め、誰一人としてキュウのうやうやしさに気を許してはいなかった。
 その容姿以上に、キュウが内包する『何か』が、非常に危険なものだと察していたからだ。
 非常にうまく隠した殺意も含めて。
「小林結城さんがお待ちの場所までご案内させていただきます。私たちの後を付いてきていただけますか」
 そう言うとキュウは鳥居から右の方向へと歩き出した。
金毛稲荷神宮ここから少々遠くへ向かいますので―――」
 キュウが歩いていく先には、いつの間にか人力車が待機していた。
「―――見失われませんように」
 キュウと千夏が座席に並ぶと、人力車は御者ぎょしゃもいないのに勝手に持ち上がり、ゆっくりと道を進んでいった。
「……付いていくしかなさそうね」
 千春は再びリムジンに乗り込み、残る全員がシートに着いたことを確認すると、
人力車あれを追って」
 運転手に人力車に続くよう指示した。
 夜霧が立ち込める中を進む人力車を、ヘッドライトをともしたリムジンが追走していった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ドラゴン☆マドリガーレ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,450pt お気に入り:671

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:859pt お気に入り:581

お飾り王妃の死後~王の後悔~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,782pt お気に入り:7,287

離縁するので構いません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:46,188pt お気に入り:527

ゆとりある生活を異世界で

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:3,808

成功条件は、まさかの婚約破棄?!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:1,457

処理中です...