360 / 459
竜の恩讐編
道案内 その1
しおりを挟む
「ここ、ね」
私立皆本学園の理事長、皆本光四―――創立以来、実質千春がその名の役を務め続けている―――が所有するリムジンから降りた千春は、金毛稲荷神宮の鳥居を見上げて言った。
千春に続き、パンツスーツ姿のルーシーが、白衣を着たヴィクトリアが、ゴシックドレスを纏った千秋が、最後に皆本学園の制服に着替えたリズベルが降車する。
鳥居から先は、異様な冷たさの霧が幾重にも立ちこめ、中の様子を窺い知ることはできない。
陽が落ちて夜闇が辺りを黒く染め上げているのもまた、神宮の内部を見通せない一因となっている。
だが、千春たちが到着してそれほど間を置かず、鳥居の向こうから二つの人影が歩み寄ってきた。
一人は長い黒髪を後ろで一本に束ね、白衣と緋袴という装いの、一目で巫女と判る者。
もう一人は同じく巫女装束ではあるが、半透明の千早も着込み、目を引く金色の髪をなびかせる妖しの者。
それが案内人であると予想がついた千春たちは、特に身構えることなく、二人が鳥居の前まで来るのを待った。
そして、二人の姿がはっきり視認できる距離まで詰まると、
「千夏、久しぶり」
千春は黒髪の巫女に笑顔で挨拶した。
「!? 千春姉……それに千秋も」
黒髪の巫女、千夏は、現れたのが自身の腹違いの姉妹だったことに驚いたようだった。が、すぐに口元を引き結び、目を鋭く細めた。
「そうか……結城のヤツ殺ったのは千春姉だったわけか」
「人聞き悪いわねぇ。あたしは殺ってないわよ。殺ろうとしてるのは―――」
千春は後ろへと視線を送る。その先にはプラチナブロンドの少女が立っていた。
「まぁでも、これから殺っちゃうんだけどね」
千春は歯を見せてニヤけながら、手刀で首を斬る真似をした。
同じ鬼の血を引く者同士であるが、なぜか今の千夏には、千春の態度がひどく癇に障るような気がした。
「お身内の挨拶はそのくらいにして―――お初にお目にかかります。当神宮を稲荷神より預からせていただいております、キュウと申します」
もう一人の金色の巫女、キュウは丁寧な自己紹介の後、深々とお辞儀をした。
だが、千春を始め、誰一人としてキュウの恭しさに気を許してはいなかった。
その容姿以上に、キュウが内包する『何か』が、非常に危険なものだと察していたからだ。
非常に巧く隠した殺意も含めて。
「小林結城さんがお待ちの場所までご案内させていただきます。私たちの後を付いてきていただけますか」
そう言うとキュウは鳥居から右の方向へと歩き出した。
「金毛稲荷神宮から少々遠くへ向かいますので―――」
キュウが歩いていく先には、いつの間にか人力車が待機していた。
「―――見失われませんように」
キュウと千夏が座席に並ぶと、人力車は御者もいないのに勝手に持ち上がり、ゆっくりと道を進んでいった。
「……付いていくしかなさそうね」
千春は再びリムジンに乗り込み、残る全員がシートに着いたことを確認すると、
「人力車を追って」
運転手に人力車に続くよう指示した。
夜霧が立ち込める中を進む人力車を、ヘッドライトを灯したリムジンが追走していった。
私立皆本学園の理事長、皆本光四―――創立以来、実質千春がその名の役を務め続けている―――が所有するリムジンから降りた千春は、金毛稲荷神宮の鳥居を見上げて言った。
千春に続き、パンツスーツ姿のルーシーが、白衣を着たヴィクトリアが、ゴシックドレスを纏った千秋が、最後に皆本学園の制服に着替えたリズベルが降車する。
鳥居から先は、異様な冷たさの霧が幾重にも立ちこめ、中の様子を窺い知ることはできない。
陽が落ちて夜闇が辺りを黒く染め上げているのもまた、神宮の内部を見通せない一因となっている。
だが、千春たちが到着してそれほど間を置かず、鳥居の向こうから二つの人影が歩み寄ってきた。
一人は長い黒髪を後ろで一本に束ね、白衣と緋袴という装いの、一目で巫女と判る者。
もう一人は同じく巫女装束ではあるが、半透明の千早も着込み、目を引く金色の髪をなびかせる妖しの者。
それが案内人であると予想がついた千春たちは、特に身構えることなく、二人が鳥居の前まで来るのを待った。
そして、二人の姿がはっきり視認できる距離まで詰まると、
「千夏、久しぶり」
千春は黒髪の巫女に笑顔で挨拶した。
「!? 千春姉……それに千秋も」
黒髪の巫女、千夏は、現れたのが自身の腹違いの姉妹だったことに驚いたようだった。が、すぐに口元を引き結び、目を鋭く細めた。
「そうか……結城のヤツ殺ったのは千春姉だったわけか」
「人聞き悪いわねぇ。あたしは殺ってないわよ。殺ろうとしてるのは―――」
千春は後ろへと視線を送る。その先にはプラチナブロンドの少女が立っていた。
「まぁでも、これから殺っちゃうんだけどね」
千春は歯を見せてニヤけながら、手刀で首を斬る真似をした。
同じ鬼の血を引く者同士であるが、なぜか今の千夏には、千春の態度がひどく癇に障るような気がした。
「お身内の挨拶はそのくらいにして―――お初にお目にかかります。当神宮を稲荷神より預からせていただいております、キュウと申します」
もう一人の金色の巫女、キュウは丁寧な自己紹介の後、深々とお辞儀をした。
だが、千春を始め、誰一人としてキュウの恭しさに気を許してはいなかった。
その容姿以上に、キュウが内包する『何か』が、非常に危険なものだと察していたからだ。
非常に巧く隠した殺意も含めて。
「小林結城さんがお待ちの場所までご案内させていただきます。私たちの後を付いてきていただけますか」
そう言うとキュウは鳥居から右の方向へと歩き出した。
「金毛稲荷神宮から少々遠くへ向かいますので―――」
キュウが歩いていく先には、いつの間にか人力車が待機していた。
「―――見失われませんように」
キュウと千夏が座席に並ぶと、人力車は御者もいないのに勝手に持ち上がり、ゆっくりと道を進んでいった。
「……付いていくしかなさそうね」
千春は再びリムジンに乗り込み、残る全員がシートに着いたことを確認すると、
「人力車を追って」
運転手に人力車に続くよう指示した。
夜霧が立ち込める中を進む人力車を、ヘッドライトを灯したリムジンが追走していった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。
公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。
ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。
怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。
慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。
というお話にする予定です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる