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竜の恩讐編

それぞれの向き合い方 その5

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媛寿えんじゅ……」
 部屋の障子しょうじを開けて姿を現した座敷童子ざしきわらしの名を、結城ゆうきつぶやくように呼んだ。
 集まった全員が何か言いたげに視線を向けるが、結城自身がつかいに出していたというので、誰も帰還した媛寿に言葉をかけることはなかった。
 媛寿もそれをわかっているのか、真顔で全員の視線を受け止め、結城の前まで静かに歩を進めていった。
 結城の前まで来た媛寿は、しばらく無言で立っていたが、
「伝えてきてくれた?」
 という結城の問いに、
「……うん」
 と答え、うなづいた。
「そう……ありがとう」
 媛寿の返答に、結城は少し悲しげながらも安心した様子だった。
「キュウ様」
「!? 何ですか?」
 唐突に名前を呼ばれ、キュウはわずかに驚いた。ここで話を振られるとは思っていなかったからだ。
「事後承諾になって大変申し訳ないんですが――――――確か、『山』を持ってるって言ってましたね?」
「え? 『山』……あ~、前にお話しましたね。確かにいくつか『山』は持ってますよ」
「一つだけ貸していただけませんか。一番近くて、周りに迷惑がかからないような『山』を」

「はい、終わり」
 使い終わったはさみを指で回し、千春ちはるは満足げに椅子いすから離れた。
 千春が向き合っていた椅子には、シーツをケープ代わりに羽織ったリズベルが座らされていた。
 背中まであったプラチナブロンドの髪が、首元で綺麗に切りそろえられている。
執務机つくえにあった鋏を使った割には、けっこうイイ仕上がりでしょ?」
 千春はベッドのサイドボードに鋏を置きながら、椅子に座るリズベルを振り返る。
 立ち上がったリズベルはシーツをその場に残し、シャワールームに足早に向かおうとした。
「あっ、待って待って」
 シャワールームへ入るところだったリズベルを、千春は背後から抱きしめた。
「新しい髪形かみがた見てたら、もう一回ヤりたくなっちゃった。だからシャワーを浴びた後も、ね?」
 千春はそうささやき、リズベルの下腹部から胸元をゆっくりとで上げる。
 その行為に特に反応することなく、リズベルは一度だけうなづくと、千春の腕を振り払おうようにしてシャワールームへ入っていった。
「ん~、まだまだおカタいわね」
 リズベルの肌を撫でた指をめながら、千春はシャワールームの扉に向かって苦笑していた。

 シャワールームに入ったリズベルは、しばらく洗面台の鏡を見つめていた。
 自身を鏡で見る度に、変わっていく、汚れていく、ちていく。
 そんな気がしていた。
 しかし、それはリズベルにとって何ら苦痛にもはずかしめにもならなかった。
(あの男を地獄の底へとほうむり去る……そのためなら……)
 媛寿が伝えてきた結城の言葉によって、リズベルの意思は決定的となった。
 結城の命を完全に絶つという意思が。

『僕はこの程度のことを苦しいとは思わない。本当にピオニーアさんのかたきちたいなら、僕の命を取りに来い』
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