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最終章 愛と泡沫のアヴニール
第489話 瞳と困惑
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「え?」
飛鳥が、その内の一つをさしだせば、あかりは、目を丸くした。
あまりにも、スマートに奢られてしまった。
断るスキすら、与えられないほどに──…
「あ、あの……っ」
「他に食べたいものがあったら、言って」
「え?」
「全部、奢るよ」
そう言って、穏やかに見つめられれば、あかりの鼓動は、否応にも早くなる。
(な、なんで……もう、嫌われてるはずなのに……っ)
優しくされる理由なんてない。
三ヶ月も、無視してきたんだから──…
それに、そんな瞳で見ないで欲しい。
見つめられると
勘違いしてしまいそうになる。
まだ、私のことを
好きでいてくれてるんじゃないかって……っ
「結構です!」
だが、そんな気持ちを必死に振り払うと、あかりは、その後、キッパリと断り
「奢っていただかなくても結構です。お金ならありますから」
そういって、自分の心中を悟られぬよう目をそらすと、飛鳥は、これまた、ニッコリと笑って
「ここは、素直に『ありがとう』っていう場面じゃない?」
「そうですね。ありがとうございます。でも、お気持ちは嬉しいですが、 奢って欲しいなんて、微塵《みじん》も思ってませんので」
「お前、ホント、可愛くないな」
「だから、あなたに可愛いと思われたくないって、何度も言ってるじゃないですか!」
あかりが、お金を差し出しながら反論する。
だが、飛鳥は、それを断固として受けとらず、少々険悪な雰囲気になった。
あいかわらず、優しくすればするほど、遠ざかっていく。
何が、あかりを、そうさせるのか?
だが、あかりだって、素直に受け入れるわけにはいかなかった。
嫌われたくない。
それが、自分の本心なのは、よくわかってる。
でも、嫌われなくちゃいけない。
それが一番、神木さんを傷つけずに済む方法だから……
「とにかく! 先ほど、石段から落ちそうになったところを助けていただいたのは感謝してます。でも、これ以上の借りを作るつもりはありませんし、母が合流したら、あなたと回るのもの、おしまいです」
「……っ」
凛とした拒絶の言葉に、さすがの飛鳥も眉を顰めた。
まるで、金輪際、会わないとでも言われているようだった。
いや、きっと、そういうニュアンスも含まれているのだろう。
あかりは、完全に遠ざけようとしてる。
遠ざけて
嫌われて
何もかも
なかったことにしようとしてる──…
「今日は、いつにもまして辛辣《しんらつ》だね」
だが、どれだけ冷たくされようが、飛鳥は、優しく笑って、あかりを見つめるばかり。
だが、これでも、会えない時は、すごく不安だった。
本当に、嫌われてしまったんじゃないかと……
でも、こうして言葉を交わせば、あかりに嫌われていないのは、一目瞭然だった。
なによりこれは『嫌われ作戦』の一環なのだろう。
デートに行く前も、わざわざ隆ちゃんに、俺の嫌いなタイプの女子を聞いてきたらしい。
なら、三ヶ月に渡り無視されていたのも、俺に嫌われようとしていただけ。
それに、父さんと話した後、色々考えた。
あかりを
諦めたあとの未来のことも──
きっと、あかりを諦めても
世界は変わらずに回っていくのかもしれない。
だけど、想像できなかった。
あかりを諦めた先で
あかりがいない未来で
自分が
幸せそうに笑ってる姿が
全く、想像できなかった。
だから──…
「仮を作らせようなんて、思ってないよ」
「じゃぁ、お金受け取ってください」
「それは、イヤ」
「な、なんで……っ」
「なんでだろうね?」
その後『分かるだろ?』と訴えかけるように瞳を合わせれば、あかりは、酷く困惑していた。
困らせたくはないけど
困った顔は見てみたい。
それに、こうして話をするだけで
幸せだと感じるのは
ずっと会えなかったからこそなのかもしれない。
なら、3ヶ月、会えなかったのも
決して悪い話じゃない。
今、こうして、自分の気持ちを
再確認できたのだから──…
「ふふ」
「な、なに笑ってるんですか?」
「うんん。なんか、楽しいなって思って」
「……っ」
愛おしそうに、飛鳥が微笑む。
そして、その表情が、ひどく甘ったるくて、あかりは逃げるように視線を逸らした。
(な、なんで……? もう、嫌われてるはずだよね……っ)
嫌われてるに決まってる。
だが、表情や仕草が、更なる困惑を呼ぶ。
そして、そんな二人を見つめながら、他のメンバーたちは、顔を青ざめさせていた。
「か、神木くんが、拒絶されてる!?」
「信じらんない! 飛鳥さんが、あそこまで嫌われるなんて!」
「なんか、スゲーもん、見た」
狭山、葉月、航太が、順に心境を呟く。
そして、驚愕する三人の横では、飛鳥の妹弟である華と蓮が、フルフルと肩をふるわせていた。
「ど、どうしよう……財力でもダメって、もう打つ手ないじゃん……ッ」
「華、やっぱりコレ、俺のせいだ!」
「え!?」
「俺が、風邪なんかひいたせいでッ」
「ちょ、ちょっと、蓮のせいじゃないって、私も、お兄ちゃんも言ってるでしょ!!」
「でも、実際にドタキャンの原因を作ったのは俺だし……俺が風邪を引かなければ、デートを断ることもなかったし、あかりさんに、あそこまで嫌われることはなかったんじゃ……っ」
(や、ヤバい!)
うちの弟が、完全に病みかけている!?
そして、このままでは、蓮が、一生モノの後悔を抱えてしまそうだ!!
(な、何とかしなきゃ!)
華は、再び、兄とあかりさんを見つめた。
弟のためにも、なんとかして、あの二人をくっつけたい!!
だが、あそこまで嫌われてしまった兄の恋を成就させることなんてできるのだろうか?!
顔でもダメ。
女子力でもダメ。
オマケに、性格もダメで、財力にもなびかない!!
こうなってしまっては、もう詰んでる!!
どうしよう!
どうしよう!!
どうしよう!!!
あ! そうだ!!!
「隆臣さん、助けて!!!」
「──!」
すると華は、隣にいた兄の親友に泣きついた。
そう、双子にとっては、第二のお兄ちゃん!
──困った時の隆臣くんである。
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