僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

6 剣術

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 一年生の講義は一般科目と呼ばれるものが殆どで、選択出来るものは『体術』科目の内容だけ。

 体術の中には令嬢向けの『護身術』と、騎士を目指す『上級剣術』、それから騎士は目指さないけどたしなみとして、男子生徒向けに『基礎剣術』も用意されている。

 僕はそれなりに剣は扱えるけれど、いかんせん腕力が無い。なので『基礎剣術』を選んだのだけど。


「マカロンくんは『上級』でいいよ。向こうの先生には話しておくから」

「えっ……」


 ぷらんと木剣を持ったまま教師を見つめた。狼狽えるように視線を逸らした教師に、疑念が湧く。僕、何か粗相をしてしまった?


「あの、なぜでしょうか。僕、素振りの方法、おかしかったでしょうか」


 まだ素振りしかしていないのに。へにょんと眉が下がってしまう。


「うっ……、ち、違うんだよ。君の素振りの音だけ他と違うの、分かるかな。ここは……言いにくいけれど、剣を握ったことのない令息令嬢のための科目だ。君、魔物を斬ったこともあるだろう?そのくらいの技量のある子は、上級へ行った方がいい」

「そうなんですか?僕では、ついていけないと思うんですけど……」

「そんなことないから!大丈夫だから!」


 まだ年若い教師の言葉を信用していいのかわからないうちに、『上級剣術』に放り込まれてしまった。うう……。見るからに体格が違うじゃないか!


 筋肉のひしめき合うその中には、アレキウス殿下やショーン様もいて、そして、オーランドも、いた。

 突然放り込まれたため、皆んながこちらを向く。オーランドを見ていた僕は、バチっと目が合った。

 三年ぶりだろうか。前に会った時より大分背が高くなったオーランドは、にこりと紳士的な笑みを浮かべた。もう、へにゃっとした柔らかな笑顔ではない。ほんの少しの寂しさを感じる。

 笑顔のままのオーランドが、小走りで寄ってきた。僕は無理やり口角を上げるようにして、笑みを浮かべる。


「お、オーランド。久しぶり!会えて嬉し……」

「オレもだっ!でも、上級剣術なんて大丈夫か?こんな細腕なのに、何かの間違いじゃないかっ?」


 オーランドは木剣を持つ僕の腕を取った。すりすりと労るように撫でられるも、なんと言うか、気まずい。ていうか、細腕ってひどい。

 そうだ、思い出した。オーランドって、やたら僕をお姫様扱いをする。それが嫌で、ますます鍛錬に熱が入ったこと。

 後ろで準備運動をしている皆は、僕たちの様子を見て『婚約者か』『仲良いな』と合点したように頷いている。恥ずかしいし、授業中でもあるのでやめて欲しい。


「ぼ、僕だってやるときはやる男なんだよ」

「……そっか。分かった。無理はするなよっ?」

「ありがとう。オーランドも」


 オーランドは別のクラスだから、僕をちらちらと気にしながらも少し離れた列へと戻っていった。僕も自分のクラスの列へと並ぶ。


 上級剣術とは言っても、まだ入学したてということもあって体力作りの鍛錬が多かった。良かった。
 鍛錬場を何周もするのは景色が一緒で飽きるけど、クラスメイトと一緒なら連帯感があっていい。ふんふんと上機嫌で走り終え、二人一組になって筋肉トレーニングをする。

 僕のお相手はショーン様が組んでくれた。他のクラスメイトは僕と組みたがらなかったから、ホッとした。優しいなぁ。

 僕が先に腹筋をするため、僕の足首を掴んで体重をかけるショーン様は、何故か目を閉じて瞑想をしているようだ。


「ショーン様?終わりました。次はショーン様の番です」

「わっ?もう終わったのか?意外と早いな」

「目を瞑っていらしているから、……どうしたんですか?目に何か入りましたか?」

「いや、その、ロロが……なんでもないっ、おれの番だよな!?」

「は、はい。失礼しますね」


 今度は逆に、ショーン様の足首を掴んで体重をかけるが、どうも浮いてしまう。体格差が恨めしい。むむ、足首だけじゃ支えられない。


「あー、軽過ぎるな。ロロ、別のやつに……」

「いいえ!大丈夫です!こうすれば」


 うんしょっと。ショーン様の足にお尻を乗せた。これで僕の全体重で支えられる。足首ではなく脹脛ふくらはぎのあたりを持たせてもらうと、逞しく張り詰めた筋肉の感触がした。羨ましい……!


「うぐっ……」

「痛くないですか?流石に重いですよね」

「いや、まさか。まだ足りないくらいだ」


 ショーン様はまた目を瞑って腹筋をしだした。その方が集中できるタイプなのだろう。僕の二倍くらいの速さで、あっという間にノルマを終わらせたショーン様は、顔が真っ赤だった。

 僕のアシストが役に立ったのなら嬉しいな。





 素振りもこなし、軽い手合わせをする。流石にショーン様の一撃は重く、手は痺れてしまった。

 けれど皆は“オメガの”僕がショーン様のお相手をできるとは思っていなかったらしく、ポカンとさせてしまった。ハードルが低くて助かるやら情けないやら、腹立たしいやらだ。


「すごいな……ロロ、お前、身のこなしが軽いし体力もある。騎士団に入れるんじゃないか!?」

「えっ!いや、まさか!僕なんか全然ダメですよ!」

「いーや、次期騎士団長の俺が言うんだから間違いない!どうだ、今度放課後打ち合いを……」

「ショーン!もう講義は終わっただろうっ。ロローツィアは連れて行くよ」

「……オーランドか」


 目の前が暗くなったと思ったら、オーランドが僕の前を遮るようにして、ショーン様から遠ざけているみたい。


「大体、人の婚約者とくっつき過ぎだろっ!?いくら同じクラス内で組まなくてはならないとはいえ……」

「仕方ないだろ!それにおれはちゃんと目を瞑っていた。問題ないはずだ」

「ロローツィアを見ているよりはマシでも、もっと節度を持った距離でお願い。行くよっ、ロローツィア」

「あっ、」


 有無を言わさない強引な力で、ぐいぐいと引っ張られてしまった。


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