僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

文字の大きさ
7 / 76
本編

7 段階

しおりを挟む

 オーランドは汗だくな僕の腕を掴み、ぐいぐいと寮の方へと連れて行く。
 この後の講義は無いけれど、オーランドの私室へと連れ込まれてしまった。


「うわぁ……すごい」


 そう声が出たのは、あんまり豪華なお部屋に、これでもかと高価な調度品が揃っているから。もはや目に痛いほどの輝きに、狭い肩幅をさらに縮こませた。


「一応、侯爵家だからねっ。先に使っていいよ、シャワー」

「ありがとう、オーランド」


 シャワーひとつとっても最新の魔道具が使われているし、優しい洗い心地の石鹸まである。二人ともさっぱりし終えて、オーランドは僕をソファに誘った。


「ロローツィア。前に会った時よりすごく可愛くなって、びっくりした。もう……他のアルファに目をつけられるなんて」

「え、つけられてはない、と思うんだけど……あ、ある意味つけられているかも……」

「ショーンは、あれはロローツィアを狙っているよ。まだ婚約者もいないし、油断も隙もあったもんじゃない」


 そうかな?僕を監視しているだけだと思うよ。そう言う前に、ぎゅう、とハグをされる。騎士を目指すオーランドの体は、僕より余程分厚くて硬い。筋肉、羨ましい。子供の頃からこのハグは習慣化していて、もはや落ち着く。

……はずだけど、今はそわそわする。だって、オーランドは、エカテリーナ様と……。


「やっぱり、いい匂いだな。白桃みたいな、この匂い……ロローツィア、好きだよ」

「うん……」


 僕はオメガとして未熟なのだが、オーランドはアルファで、教科書通りと言うべきか、いたって健康な成長を遂げている。だからか、僕のフェロモンが分かるらしい。僕自身よく分からないし、ごくごく薄いはずなのに、よく分かるなと感心する。

 オーランドからはさっき使った石鹸と同じ匂いしかしないから、ピンとこない。

 ふとオーランドは僕の首元を見て、ネックガードの下に指を滑り込ませ、引き寄せた。


「でもこれ、オレの送ったネックガードじゃないねっ?」

「あ……あれは!高級すぎるから、学園だと目立っちゃうかなって……僕は、男爵家出身だし」


 今つけているものは、僕が買ったものだ。装飾のほとんどない無骨なものだけれど、軽くてよくしなるので動きやすい、お気に入りのもの。

 オメガって言う生き物は、うなじをアルファに噛まれないように、ネックガードが必需品。常に身につけるものなんだけど、オーランドから贈られたものは、正直に言うと、ゴテゴテしていて付けにくかった。お値段は素晴らしいものなのだろうけど、普段着る物も質素シンプルなものが多い僕には似合わなすぎて、実家の部屋に飾ってある。それでもそこだけ浮いて見えるくらいだ。


「あれは大事に飾ってあるよ。ありがとう。でも学園では、目をつけられてしまいそうだから……」

「そっか。じゃあ、学園じゃない時は付けて」

「うん……」


 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくれる腕や態度からは、『僕のことが好き』と伝わってくるようなのに、僕の胸の中はもやもやしていた。


 あんな場面を見てしまわなければ、きっと僕は、素直にハグを受け入れられたのに。


 エカテリーナ様にはアレキウス殿下という婚約者がいる。だから、もし二人が想い合っていたとしても、結ばれることは無い。

 それで?他の人を想い続ける人が、旦那となるの?僕は、オーランドが僕を好いてくれていると思ったから婚約を承諾したのであって、もしそうでないのなら、遠慮したい。仲の良い両親みたいな関係に、憧れてるんだ。

 この歳になると、もう色々と一人で出来ることも分かって来た。婚約を解消し、一人で生きていくこともできるんじゃないかと思う。その場合は、世捨て人みたいにならなきゃいけないかもしれないので、最終手段だけど。


「ねぇ、ロローツィア。そろそろオレたち、次の段階へ進んでもいいんじゃないかと思うんだけど……」

「次の段階って?」

「ほら、この学園アルファ多いし、オレ、心配なんだ。……ロローツィアが、とられてしまうんじゃないかって」

「え?そんなこと、ないよ。むしろ……」


 むしろ。オーランドの方が、そうなんじゃないの?

 自分がそうだから、僕を疑っているんじゃないの?

 そう思いかけた思考を、ふるふると振って吹き飛ばす。オーランドは、優しいもの。純粋に心配してくれているだけ。……だよね?

 向かい合わせで座ったソファは、二人の重みでいびつに沈んだ。居心地が悪くて座り直そうとすると、オーランドの腕が僕の背中と腰に回って、優しく、逃さまいとしてくる。


「ね……?マーキング、させて」

「まー……?」


 マーキング、って何だろう。犬の散歩しか思い出せない。あれ?混乱しているうちにオーランドの唇が近付いてくる。

 ……この唇は、今朝、エカテリーナ様と……。


「ちょっ、ちょっと待って!」


 オーランドに両手を突き出した。それと同時に、バチッ!と目に見えるほどの静電気が走ってオーランドが後ろに仰反る。精霊の悪戯だろうか?とにかく、助かった!


「いたっ」

「ご、ごめんね!オーランド!僕、今はだめで」

「え?」

「よくわかんないけど、なんかだめ!ごめんなさい!」



 脱兎のごとく逃げ出した僕は、一目散に部屋へと走ったのだった。










しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...