僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

16 解熱

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 ゆっくりと起きた僕は、ものすごい見られていることに気付いた。ひえっ!?


「……起きた」

「おはよう、……あ」


 グレイは僕の顔を見ていて、少し下に視線をずらして、突然パッと顔を背けた。僕もつられて視線の先を追って、気付いた。

 また夜間着が、豪快にはだけてしまっている!上は完全に裸で、下は腰骨の見えそうなほどギリギリの状態だった。あっぶない。

 弁明をすると、寝相は良い方だ。ただ、精霊さんに悪戯されてしまうだけで!僕のせいじゃないんです!
 グレイが顔を背けてくれているうちに、慌てて整える。


「お見苦しいものを、すみません!」

「いや。こんな幸せな朝はない。ありがとう」

「あ、そっか。久しぶりに熟睡出来ました?」

「ああ。君のおかげだ」


 グレイはぎこちなく微笑んだ。そういえば、長期間あの洞窟に捕らわれていたものね。それに比べれば、朝陽の差し込む清潔なお部屋で目覚められて、良い気分になれたのかもしれない。


「熱は、どうですか。体に違和感は」

「もう下がった。動く……のはまだ難しそうだが、違和感はない」

「もう!?」


 額で熱を測る。確かに平熱だ!解熱早ッ!

 食欲もあると言うので、ゆるい粥を食べさせる。やっぱりするりと食べられたので、予想以上に回復が早い。まだまだ食べられそうなので、もう粥じゃなくて薄味の食事でもいいかも。


「すごい……。【聖域】の力もあるけれど、本来の生命力の強さが尋常じゃない、です。初めて見ましたよ、これほど速い人」

「褒めてくれているとしたら、ありがとう。しかし、なぜ、敬語に……?」


 ああ、そっか。グレイは寝ていたから知らないか。僕、グレイが高位貴族令息だって、知ってしまったもの。


「あの……グレ……シュトーレン様は……高位貴族ですから。僕なんか男爵令息なので、馴れ馴れしくしてはいけないと思いまして」

「……いや。辺境伯爵の出身だ。そこまで高位ではない」

「えっ……、でも、アレキウス殿下が、国にとって大事な人、だと……」

「それは国防を担う家だからだ。男爵、子爵、伯爵。ほうら、二つしか違わないだろう?敬語なんかやめてくれ」


 本当は辺境伯がほとんど侯爵に近い地位とはまだ知らない僕は、その説明に納得し、喜んで頷く。
 グレイは患者さんだし、タメ口の方が接しやすいんだよね!


「そこまで言うなら……うん!分かったよ。グレイ」

「それでいい。ところで君の名前を教えてくれ。俺の恩人だ」

「……えっ、と。そういえば、伝えて無かったね。僕はロローツィア・マカロンと言います。一応、聖者の称号は持っているから、安心してね」

「聖者……!」


 グレイはよろよろと起きようとするので、慌てて制した。まだ起きるのはよろしくない!


「だめだよ、無駄に体力を使うのは!ゆっくり寝て過ごさないと」

「……しかし、動けそうな気もするんだ」

「気だけ!僕がいるとだめそうだから、出て行くね」

「待ってくれ!」


 手を取られた。弱々しいけれど、振り解けない。この人の瞳に懇願されると、抗えない。

 ……僕がグレイの側にいる時間分、王家に請求が行くと思うけど、今だけは寄り添ってあげたかった。






 グレイリヒト・シュトーレン。それがグレイの貴族としての名前で、辺境伯家の出身だ。
 父親が王弟であることから、アレキウス様とは従兄弟の関係。幼い頃から良く遊んでいたと言う。

 シュトーレン辺境伯では変わった風習があった。学園に入るまでに自立をすること。そこでグレイが選んだのは冒険者で、旅をする中で野営やら効率的な狩の仕方やらを学んでくることが目的だった。

 グレイはなんと、僕たちの通う王立魔術学園に入学が決まっていたから、王都に向けて旅をしていたのだって。

 時期的には余裕の行程だったのに、仲間と共に、あの蔓で蓋のされた落とし穴にハマってしまった。

 簡単に出られると思っていたあの地下通路だったが、あれは生きている小迷宮で、道に印を付けても消え、あると思っていた道が別のところへ繋がっていたり、突然消滅したりする通路だった。

 出られないまま数日が経ち、持っていた食べ物が尽きた所で、グレイは魔力コーティングで待っていればいずれ助かるような気がしたらしい。


「俺は勘が鋭いんだ。しかし、仲間は俺ほどに魔力被膜の精度は高くない上、恐怖に耐えられないと、俺を置いて探索を続けることにした」

「……すみません。あの小迷宮に、グレイ以外の人は見つけられなくて……」

「それはつまり、出口が見つかって出られたということだろう。それ以外はない」


 グレイは自分に言い聞かせるように、そう言った。
 仲間と別れてから数週間、深く瞑想に入り“誰か”を待っているうちに、蔓に巻き付かれていることにも気付かず、死にかけていた。


「本当に、僕が通りかかって幸運だったねグレイ。グレイの勘ってすごいや……」

「はは。ロローツィア……ありがとう。このザマだが」

「いや、もう、本当に呆れるくらいグレイの回復はすごいよ」


 グレイの机には、空になった食器が並んでいた。僕の聖ポケットにあったものをとりあえず出してみたのだけど、本当にみるみる消えていくからもはや爽快感まである。


「学園はまだ始まったばかりだから、グレイはしっかり元気になってから登校してね。僕も板書だけはきっちり取ってあるから、良ければ見せるよ」

「それは助かる。……が、良くしてもらってばかりで情けない。後日謝礼を贈りたいのだが、家に贈ればいいか?」

「いいえ!ええと、しっかり王家からもぎ……受け取っているから、お構いなく。貰いすぎで怒られてしまうよ」

「そんな……」

「グレイのその、目って、すごく綺麗だよね。ちゃんと生きている目を見れて嬉しいから、もう十分だよ」


 言ってニコニコしていると、グレイの顔がかあっと赤く染まった。熱が上がったのかも!
 どうしても会話をしているとこういうことが良くあるから、僕は慌ててグレイを寝台に押し込み、診療所を飛び出したのだった。






 神殿にいると聖者モードに切り替えられるのだけど、学園ではそうもいかない。


「まぁ……いらしたわ。淫乱の聖者さまが」

「くすくす」

「昨日も、お聞きになりまして?アレキウス様が……」

「横抱きに?抱き抱えて?なんてこと……」


 ご令嬢も、アルファとベータだけ。オメガは別の学園か、既に伴侶を得て屋敷に籠っているか。だからか、僕を見て嘲笑している人はご令嬢が筆頭だった。

 昨日のアレキウス様はなりふり構わずといった勢いだったから、誰かに見られていたのだろう。でも本当に色っぽいことなど何もなくて、彼は聖者と言う万能薬を特急で運搬したかっただけなのだ。足、動かなかったし。

 なんで足が動かなかったんだって、そうだ。思い出してしまった。
 僕、オーランドと口付けをしたのだった。


「はぁ……」


 口付けと言うよりは、唇同士のバトルだった。こちらの門を攻められて、こじ開けられそうだったところで、アレキウス様が意図せず助けてくれたのだ。

 アレキウス様のお顔を見て、オーランドがぽけっと呆けていたのを妙に覚えている。情けないと言うか、腹が立つと言うか。
 感情がごちゃごちゃしてしまっているのは、きっと今日はまだ走り込みをしていないせい。

 くすくす笑われるのなど気にせず、教室へ向かう。今日は基礎薬学の授業があるから、楽しみにしていたんだ!



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