16 / 76
本編
16 解熱
しおりを挟むゆっくりと起きた僕は、ものすごい見られていることに気付いた。ひえっ!?
「……起きた」
「おはよう、……あ」
グレイは僕の顔を見ていて、少し下に視線をずらして、突然パッと顔を背けた。僕もつられて視線の先を追って、気付いた。
また夜間着が、豪快にはだけてしまっている!上は完全に裸で、下は腰骨の見えそうなほどギリギリの状態だった。あっぶない。
弁明をすると、寝相は良い方だ。ただ、精霊さんに悪戯されてしまうだけで!僕のせいじゃないんです!
グレイが顔を背けてくれているうちに、慌てて整える。
「お見苦しいものを、すみません!」
「いや。こんな幸せな朝はない。ありがとう」
「あ、そっか。久しぶりに熟睡出来ました?」
「ああ。君のおかげだ」
グレイはぎこちなく微笑んだ。そういえば、長期間あの洞窟に捕らわれていたものね。それに比べれば、朝陽の差し込む清潔なお部屋で目覚められて、良い気分になれたのかもしれない。
「熱は、どうですか。体に違和感は」
「もう下がった。動く……のはまだ難しそうだが、違和感はない」
「もう!?」
額で熱を測る。確かに平熱だ!解熱早ッ!
食欲もあると言うので、ゆるい粥を食べさせる。やっぱりするりと食べられたので、予想以上に回復が早い。まだまだ食べられそうなので、もう粥じゃなくて薄味の食事でもいいかも。
「すごい……。【聖域】の力もあるけれど、本来の生命力の強さが尋常じゃない、です。初めて見ましたよ、これほど速い人」
「褒めてくれているとしたら、ありがとう。しかし、なぜ、敬語に……?」
ああ、そっか。グレイは寝ていたから知らないか。僕、グレイが高位貴族令息だって、知ってしまったもの。
「あの……グレ……シュトーレン様は……高位貴族ですから。僕なんか男爵令息なので、馴れ馴れしくしてはいけないと思いまして」
「……いや。辺境伯爵の出身だ。そこまで高位ではない」
「えっ……、でも、アレキウス殿下が、国にとって大事な人、だと……」
「それは国防を担う家だからだ。男爵、子爵、伯爵。ほうら、二つしか違わないだろう?敬語なんかやめてくれ」
本当は辺境伯がほとんど侯爵に近い地位とはまだ知らない僕は、その説明に納得し、喜んで頷く。
グレイは患者さんだし、タメ口の方が接しやすいんだよね!
「そこまで言うなら……うん!分かったよ。グレイ」
「それでいい。ところで君の名前を教えてくれ。俺の恩人だ」
「……えっ、と。そういえば、伝えて無かったね。僕はロローツィア・マカロンと言います。一応、聖者の称号は持っているから、安心してね」
「聖者……!」
グレイはよろよろと起きようとするので、慌てて制した。まだ起きるのはよろしくない!
「だめだよ、無駄に体力を使うのは!ゆっくり寝て過ごさないと」
「……しかし、動けそうな気もするんだ」
「気だけ!僕がいるとだめそうだから、出て行くね」
「待ってくれ!」
手を取られた。弱々しいけれど、振り解けない。この人の瞳に懇願されると、抗えない。
……僕がグレイの側にいる時間分、王家に請求が行くと思うけど、今だけは寄り添ってあげたかった。
グレイリヒト・シュトーレン。それがグレイの貴族としての名前で、辺境伯家の出身だ。
父親が王弟であることから、アレキウス様とは従兄弟の関係。幼い頃から良く遊んでいたと言う。
シュトーレン辺境伯では変わった風習があった。学園に入るまでに自立をすること。そこでグレイが選んだのは冒険者で、旅をする中で野営やら効率的な狩の仕方やらを学んでくることが目的だった。
グレイはなんと、僕たちの通う王立魔術学園に入学が決まっていたから、王都に向けて旅をしていたのだって。
時期的には余裕の行程だったのに、仲間と共に、あの蔓で蓋のされた落とし穴にハマってしまった。
簡単に出られると思っていたあの地下通路だったが、あれは生きている小迷宮で、道に印を付けても消え、あると思っていた道が別のところへ繋がっていたり、突然消滅したりする通路だった。
出られないまま数日が経ち、持っていた食べ物が尽きた所で、グレイは魔力コーティングで待っていればいずれ助かるような気がしたらしい。
「俺は勘が鋭いんだ。しかし、仲間は俺ほどに魔力被膜の精度は高くない上、恐怖に耐えられないと、俺を置いて探索を続けることにした」
「……すみません。あの小迷宮に、グレイ以外の人は見つけられなくて……」
「それはつまり、出口が見つかって出られたということだろう。それ以外はない」
グレイは自分に言い聞かせるように、そう言った。
仲間と別れてから数週間、深く瞑想に入り“誰か”を待っているうちに、蔓に巻き付かれていることにも気付かず、死にかけていた。
「本当に、僕が通りかかって幸運だったねグレイ。グレイの勘ってすごいや……」
「はは。ロローツィア……ありがとう。このザマだが」
「いや、もう、本当に呆れるくらいグレイの回復はすごいよ」
グレイの机には、空になった食器が並んでいた。僕の聖ポケットにあったものをとりあえず出してみたのだけど、本当にみるみる消えていくからもはや爽快感まである。
「学園はまだ始まったばかりだから、グレイはしっかり元気になってから登校してね。僕も板書だけはきっちり取ってあるから、良ければ見せるよ」
「それは助かる。……が、良くしてもらってばかりで情けない。後日謝礼を贈りたいのだが、家に贈ればいいか?」
「いいえ!ええと、しっかり王家からもぎ……受け取っているから、お構いなく。貰いすぎで怒られてしまうよ」
「そんな……」
「グレイのその、目って、すごく綺麗だよね。ちゃんと生きている目を見れて嬉しいから、もう十分だよ」
言ってニコニコしていると、グレイの顔がかあっと赤く染まった。熱が上がったのかも!
どうしても会話をしているとこういうことが良くあるから、僕は慌ててグレイを寝台に押し込み、診療所を飛び出したのだった。
神殿にいると聖者モードに切り替えられるのだけど、学園ではそうもいかない。
「まぁ……いらしたわ。淫乱の聖者さまが」
「くすくす」
「昨日も、お聞きになりまして?アレキウス様が……」
「横抱きに?抱き抱えて?なんてこと……」
ご令嬢も、アルファとベータだけ。オメガは別の学園か、既に伴侶を得て屋敷に籠っているか。だからか、僕を見て嘲笑している人はご令嬢が筆頭だった。
昨日のアレキウス様はなりふり構わずといった勢いだったから、誰かに見られていたのだろう。でも本当に色っぽいことなど何もなくて、彼は聖者と言う万能薬を特急で運搬したかっただけなのだ。足、動かなかったし。
なんで足が動かなかったんだって、そうだ。思い出してしまった。
僕、オーランドと口付けをしたのだった。
「はぁ……」
口付けと言うよりは、唇同士のバトルだった。こちらの門を攻められて、こじ開けられそうだったところで、アレキウス様が意図せず助けてくれたのだ。
アレキウス様のお顔を見て、オーランドがぽけっと呆けていたのを妙に覚えている。情けないと言うか、腹が立つと言うか。
感情がごちゃごちゃしてしまっているのは、きっと今日はまだ走り込みをしていないせい。
くすくす笑われるのなど気にせず、教室へ向かう。今日は基礎薬学の授業があるから、楽しみにしていたんだ!
2,894
あなたにおすすめの小説
僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる