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本編
36 拒否
しおりを挟むグレイのおかげで、あらゆる干渉は遮断される。
“聖者様は淫乱”
“殿下を毒殺しようとした”
“あるいは、殿下に薬を盛って救う、自作自演をしようとした”
何故か僕の部屋から薬が見つかったことが流布されている。本当に、なんて想像力豊かな人たちなのだろう。だけどそれも、すぐに意味を成さなくなる。
だって、グレイが近くにいるから。隣を一緒に歩いて、『もうすぐ疑いは全て晴れる。準備は整った』と言われたら、もう、そうなんだね!と安心しきっちゃう。グレイがそう言うのだから、そういうことなのだ。
ショーン様ももう、まるで何事もなかったかのように快活に笑いかけてくれ、前のようにサッパリとした距離感に戻してくれた。これならもう、僕に陥落したなどとは言えないはず。
やっぱり、あの件のインパクトが大きかったのだろう。ショーン様は熱しやすく冷めやすい、そんなお人なのだ。決して、僕が淫乱だからじゃないんだから!
オーランドが謹慎から復帰すると、今度はオーランドから逃げ回ることとなった。だって話が通じないし、薬を盛るような危険人物なのだもの。
「ロローツィア!あれは、手違えで……って、どうしてオレを避けるんだっ!?」
「次は何をされるのか分からないもの!僕に近付かないで!」
何度か逃げると、とある、予想通りの人に呼び出される。逃げることすら許さない、みたいに。
「聖者様、オーランド様がお可哀想ですわ。お話を聞いてあげてくださいっ!」
エカテリーナ様に呼び出されて中庭へ向かうと、オーランドがいた。しかも、僕が入ってきた瞬間にパッと二人が離れたので、直前まで手でも握っていたのかもしれない、と推測するには十分な動作だった。
でも、僕も一人ではない。グレイと、アレキウス様とも一緒。これが、虎の威を借る狐というやつ。
「ロローツィア。オレ、間違っていたよ。あの薬はロローツィアには強すぎた。申し訳なかった」
「……強くない薬なら、いいと思っているのですか?」
「とにかく、オレから離れないでくれ。グレイリヒトと一緒にいるロローツィアを見るのが辛いんだ。もう、彼と関わって欲しくない」
「……彼は、僕の友人です。間違っても、薬を盛るような人よりも、僕を尊重してくれます」
「それは、浮気じゃないのか?オレを責められないだろう?ん?どうだ、何も弁明できないだろう。やっぱり!」
「オーランド……人の話を、聞いていますか?」
僕も、グレイとは浮気じゃないと言い切れないところが、胸を痛くさせる。オーランドがエカテリーナ様と口付けしていたのが浮気なら、その……、強制ヒート時にお相手をしてくれた、というのも浮気になるかもしれない。口付けだって、してもらった。
元はといえばヒートが来たのだって、オーランドの巻いた種なのだが、事実は事実。後めたい思いを胸の奥に隠しながら、オーランドの話を聞く。
「ロローツィア。オレはもう、この学園は中退して騎士養成学園に編入しようと思う。親の許可はもらっているから、ロローツィアも一緒についてきてくれないか?そうだ、学生結婚をしてもいい。オレ、頑張ってロローツィアを養うからっ!」
「……そんな、無謀な。僕はこの学園で頑張っていくと決めたんです。巻き込まないでください。それに、自分の食い扶持くらいは稼いでいます」
「そんなのっ、ひどいっ!聖者様、オーランド様を見捨てるのっ!?」
エカテリーナ様は、また両手を祈りの形に組み、大きな瞳を潤ませている。とても可憐な姿だが、もう何度か見ているので慣れてきてしまった。
エカテリーナ様が出てきたら、アレキウス様の出番だ。僕の斜め後ろから、アレキウス様がずいと出てくる。
「エカテリーナ、何故君はそんなにも首を突っ込むのか?彼らの保護者でも、親戚でもないだろう」
「だって、お友だちなんですもの。オーランド様は」
「そうか。私もロローツィアの友人として言うのなら、恋だのなんだので進路を変えることはおすすめしないし、変えさせようとする恋人は早々に見限った方が良いとアドバイスするぞ。特に、高い目標から低い目標に変えるのはな」
「アレキウス様はわたくしの味方をしてくださらないんですかっ!?わたくし、悲しい……っ」
はらはらと涙を流し始めたエカテリーナ様を、隣にいたオーランドがそっと抱きしめ頭をよしよしなでなでしていた。それ、よく婚約者の前でやろうと思うなぁ……。せめて隠れてやって?
目尻の涙を拭いながら、エカテリーナ様はグレイの方を見上げた。
「グレイリヒト様っ。わたくし、知っているんです。聖者様に助けられたから、そちらにいらっしゃるのでしょう?恩があるから……無理して、聖者様の味方にならなくてもいいんですよっ!」
「……何を」
「聖者様は、オーランド様という婚約者がいながら、いろんな男の人と……ああっ!これ以上は、わたくしの口からは、とてもではないですけど言えませんがっ!もう、囚われなくていいのです……」
恩があるから……無理に?
その言葉は、僕をほんの少し、嫌な気持ちにさせた。それは、きっと正しいから。グレイが僕を幾度となく助けてくれたのは、恩を感じてくれているから、だ。
でも、それだけじゃない、と思っている。確かな友情があると、僕は思っているし……グレイもそうだと、信じたい。
不安気にグレイを振り返ったのが分かったのか、グレイは僕を安心させるように微笑んで頷いてみせ、そしてエカテリーナ様へは、呆れを含んだ冷笑を浮かべた。
「それは、自己紹介か?王子の婚約者であるのにも関わらず、たくさんの男たちと口付けを交わす、自分の」
「……なんて、ことを?わ、わたくし、そんなはしたないことなんて……」
「エカテリーナ。私はもう、知っているんだ」
アレキウス様は二人を冷たい視線で睥睨した。グレイから目を逸らしたエカテリーナ様は、徐々に震え出す。
「そんな、まさか、アレキウス様?聖者様の言葉ですか?そんな虚言を信じてしまわれたんですかっ!?目を覚ましてくださいっ!」
オーランドを振り払い、アレキウス様に駆け寄るエカテリーナ様。ぷるんと唇を突き出すようにしてーーーーあれは確か、アヒル口とかいうやつだーーーーアレキウス様に抱きつく一歩手前で止まったのは、アレキウス様がその鼻先に、ぺらりと一枚の紙を出したからだ。
これが、アレキウス様が今日、僕について来た目的だ。
「ところでエカテリーナ、バニラ侯爵家で囲っている薬師だが、違法薬物製造の疑いで捕縛した。今頃王城の地下牢で尋問しているころだろう。何か知っているのなら、情報提供をして欲しい。召喚状だ」
「えっ…………?」
ぎょっとしたように顔を上げたエカテリーナ様。
「どうして、そんな……?」
「まぁ、薬師が何か言うかもしれないが、それより先に“情報提供”をしてくれれば、薬師だけで済むかもしれない。……場合に依っては、巻き込まれる可能性も」
「わたくし、失礼しますわっ!」
一瞬で真顔になったエカテリーナ様は、制服のスカートを翻しながらサササと去っていく。ぽかんとして取り残されたオーランドは、三対一では分が悪いと思ったのか、『今日はこれで……』とやけに小さくなりながら追いかけていった。
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