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本編
48 エカテリーナ/グレイ side
しおりを挟むエカテリーナside
「あはははっ!これはわたくしのものよ!」
笑いが止まらない。ヒドインは簡単にわたくしの言うことを信じ、結晶となった。本当は、拠点と男爵家へ二分出来るほどの人員はいない。騙しやすそうな見た目通り、簡単だったわ!
***
いくつかあるヒドインの末路の中で、思い出したの。隠し攻略対象であるグレイリヒトを出すには、ヒドインが【結晶化】の魔術が使えるようになっていなければならない。そのために、難易度レベルを“高”にする必要があった。
そうするとヒドイン度が下がるのだ。つまり真面目に魔術の練習をする、“軽度ヒドイン”がライバルとなる。
そのヒドインは高ランク冒険者として冒険中に、グレイリヒトと出会い、助ける。魔力被膜で動けなくなったグレイリヒトを、ヒドインが解除してあげるの。
けれど、気難しいグレイリヒトはヒドインに恋に落ちることはなく、恩だけは感じて渋々と相手をするだけ。そのうち、高貴で上品なわたくしに惹かれるようになって、話しかけてくるようになるのだ。
グレイリヒトが学園に通い始めて、分かった。わたくし、グレイリヒトの攻略が出来ずに転生したんだもの。続きから……ってことよね?
隠し攻略対象ということもあり、グレイリヒトの攻略は難しい。なので課金は必須。薬師が捕まり、お父様が鉱山奴隷となってマズイと思ったけど、やっぱりわたくしは、どうしたってヒロインなの。
元々薬学だけは得意だった。やっぱりヒロインにとって、課金アイテムが使えなくなるなんておかしいもの。そのおかげで、わたくし自身で『魅惑のリップ』を作れるようになった。これで作り放題、魅了し放題よ。薬師の手法を良く観察していて良かったわぁ!
腹立たしいことに、現実のヒドインはやっぱりグレイリヒトルートに入っているように見えた。それは、絶対に、許さない。負けられない。
そういったことから、【結晶化】の魔術が使えると、踏んでいた。このルートのヒドインの末路は、自ら結晶となるの。魔力搾取の結晶化と違い痛みがないらしく、ヒドインは自死を選び結晶となるのよ。
国家的犯罪者に仕立て上げるのが失敗しても、これならサクラルビーの結晶が手に入るわ……!
家族を狙ったのも、わたくしの賢さ。ヤツがストーリーよりも早く賢者となったのも、報奨金で家族に美味しいものを食べさせたかったからだと、調査をしているうちに分かったから。
ヒドインが家族思いなんて聞いたことないけど、使える手は使う女なの。わたくしって。
***
男爵令息の体がぐにゃぐにゃと、空気との境界がぼやけて溶けていく。きらきらしたものが散らばって消えるのが、無駄に綺麗だわ。でも、もうあの醜い顔も、男のくせに細い体も、見えなくなっていってせいせいする……
……?
ゲームの中では、結晶体はペンダントになるくらいのものだったけれど?
なにこれ、この大きさ。持ち歩ける訳ないじゃ無い!一旦金庫に入れて、砕いて使うしか無いわね。
全部、ぜんぶわたくしが独占する。そして、聖女になるのよ……!
「あははっはははっ……!」
わたくしは、知らなかった。
このヒドインの瞳が、主人公を示す『星空』だったこと。嫌悪感のあまり、よく見なかったから。
もし彼がBLゲームの主人公だと気付いていたら……しかし、もう、何もかも手遅れだった。
***
グレイ・シュトーレンside
小用からなかなか帰ってこないロローツィアに、随分とそわそわして落ち着かない。ついて来られるのを相当に嫌がっていたから、罪悪感はあったが周囲を探すも、いない。同じところをグルグルと回って、ようやく、現実を直視した。
アレキウスへ告げた時の俺は、おそらく、青ざめていたと思う。
「ロローツィアが、いない。見当たらないんだ」
「……っ!探すぞ、グレイ、騎士を何人か連れて行け!」
「了解」
女郎蜘蛛による襲撃の後始末で、騎士達は疲れ果てていたが関係ない。素人の痕跡を見つけるのは簡単だった。俺の伝書鴉を呼び出す。こいつはロローツィアが好物で、いつもより速度を出して追跡していく。
息が上がる。ロローツィアがいない、それだけで、俺の余裕は無くなってしまう。一刻も早く、あの可愛らしい笑顔をするロローツィアを見つけたくて、安心したくて、騎士たちを置き去りにする速度で駆ける。
どれだけ飛ばしていたのか。野盗の根倉のように薄い暗がりの入り口で、鴉はおろおろと旋回し出した。俺の勘も言っていた。ここに、ロローツィアがいるに違いなかった。しかし、心臓がどくどくと嫌な脈動を打つ。
鴉を落ち着かせて返し、男たちを問答無用で薙ぎ払いながら迷路のような奥へ進む。通路が狭く、大剣を使えない分時間がかかってしまった。
そのせいだ。
俺が遅れたせいで。
その先にいたのは、狂ったようにけたたましく笑うエカテリーナ嬢と、光り輝く、純粋な神聖属性魔力の結晶だけだった。
「あははっははは!ざまあみろ!わたくしのものよ!これで、わたくし、わたくしはヒロインになるの!あははっ!」
「なんだ、これは……」
「すこし大きいけど、大きければ大きいほど良いわ!誰か、これを運んで――――」
鼻じらむ俺の目の前で、エカテリーナ嬢が結晶へ手を伸ばしーーーーー吹き飛ばされる。
「ギャッ」
ジュウッとした肉の焼ける臭い。エカテリーナ嬢の指先は真っ赤に焼け爛れ、地面に叩きつけられて気絶していた。
巨大な結晶は、異次元の濃密な魔力を発していた。いっそ神々しいそれに、気軽に触れた女の神経が分からない。
「まさか……っ、ロローツィア、ロローツィアなのか!?」
絶望し、結晶の前に膝をついた。光り輝く結晶の中に、ごく薄く見える影。目を凝らしてやっと分かるくらい儚げな、ロローツィアの姿は、祈りながら泣いていた。
そうと認識した途端、胸を突く痛み。
「ロローツィア……ーーーーっ!!」
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