スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ

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第6話 じっくりコトコト

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 エシラは数日間、領主邸で療養をしつつ魔術の訓練をタールにつけてもらうこととなった。
 その一室で療養中な彼女の様子はというと、

「エシラ様。朝食と検診のお時間で……って、またベッドの下で寝てる‼」
「んぁ……おはよ……」
「汚いのでベッドの上で寝てください‼」
「えー……?」

 部屋に朝食を運んできた赤髪のメイドは、ベッドの下で丸まっているエシラに一喝する。

「だって、ベッドがふかふかすぎておちつかないもん。ベッドのした、かたくてつめたくてせまい……つまりさいきょー」
『しかも虫もいるんだぞ! ほら見てみろよ‼』
「キャーー‼ 虫イヤーーっ‼」

 トカゲのアイが咥えていた虫を見るなり、そのメイドは悲鳴を上げた。
 アイは仕方ない人間だなと白い目で見つめ、ごくんとそれを飲み込む。

「はぁ……蝶は領主様とよく見ていたので慣れていますが、カサカサ系は無理ですぅ……」
「そんなんじゃスラムでやってけないね。ざこ。よわよわ」
「結構です! ってかメスガキみたいですね……。さぁ、健康診断しますよっ‼」
「はーい」

 エシラの容姿は、以前の小汚かったものとは打って変わって綺麗なものだ。
 銀鼠色の髪は今や艶のある白銀色で、傷だらけで膿んでいた肌は処女雪のようにシミ一つない。ただ、やはり代償として持っていかれた片目片腕は治らなかった。

 領主邸で療養してから三日経った現在、メイドの検診をされてようやく魔術の練習ができる!
 エシラはそう意気込んでいたが、メイドは眉を顰める。

「うーん……念のためもう少し療養したほうがいいかと」
「なんで! もうわたしげんきいっぱいなのに!」
『そーだそーだ! エシラは元気いっぱいだぞ!』
「そういうことなので、領主様に報告しに行くので大人しく寝ていてくださいね」

 踵を返して部屋を立ち去ろうとするメイドであったが、そこに酒臭い息を吐きながら欠伸をするタールがやってきて待てを出す。

「まァ待て。エシラの容体は充分回復している。このオレが保障してんだから間違いねェ。それとも……
「……いえ。そのようなものは一切ございませんよ、タール様」
「そうかい」
「あ、持ち物検査で預かっていたこのナイフはお返ししますね。では、私はこれで」

 冷ややかな瞳でエシラを一瞥した後、一礼をして部屋から立ち去った。
 タールはやれやれと特に何も言わず、エシラのベッドにドカッと腰を掛ける。

「さて、そんじゃあ早速魔力に関する訓練を開始すんぞ」
「わかった。グルモワールつかう?」
「馬鹿野郎、また暴走するつもりかよ。いいか? お前は魔力の使い方がなってないんだ。例えるなら、。だから、魔力の出し口をぶっ壊して大洪水を起こし、暴走しちまうっつーわけだ」
「なんか、むずかしそう……」
「ま、ゆっくりじっくりコトコトといけばいいさ」
「ん、わかった!」

 せっかく整っていたエシラの髪をわしゃわしゃと乱す勢いで撫でるが、彼女は目を細めて受け入れていた。
 領主との対応は正反対だ。

「そんじゃ、まずは蛇口の捻り方を覚えることからな。魔力ってのは主に心臓で作られるか、大気中のを心臓に溜め込むもんだ。それは人間だけじゃあなく、ほぼ全ての生物が持ち合わせているもんだ」
『じゃあオイラももしかしたら魔術使えるのか⁉』
「知らん。ドラゴンがたまに魔術使ってるからトカゲもいけるんじゃねェか? できずとも口から魔力の籠った衝撃波くらいは撃てるかもな」
『テンション上がってきたぁあああ‼ 早く練習するぞエシラ‼』

 とはいっても、何をすればいいのかが何もわからない。なのでエシラは、どうやって練習をするのかをタールに質問する。

「魔力をうまく使う手っ取り早い方法は実践だが……ちょい危険だから無しだな。エシラ、手ェ出せ」
「はい」

 エシラが手を差し出すと、タールは人差し指の腹を押し当てて何かを流し始めた。
 今まで感じたことのないものが流れ始め、ぞわぞわと彼女の肌が粟立つ。

「これが魔力だ。これを自分で意のままに体外・体内で流せられるとうになりゃ、ようやく新米魔女ってわけだ」
「みちはけわしい……。でもがんばる!」
「その意気だ」
『オイラにも流してみてくれよ~!』

 魔力がどんなものかはなんとなくわかった。しかし、この状態でどう練習をすればいいか、上達しているかわからない。
 エシラはうーんと唸りながら訝しく思う。そんな彼女を見かねたのか、タールは腰から何かを取り出して手渡した。

「これやるよ」
「ナイフ?」
「ああ。だがそいつは普通のナイフとは少し違う。今は白色だが、魔力を安定して籠められたら色が変化する。白色、空色、青色、紺色って変わるからな」
「へー。わかりやすいね。ふぬぬぬぬ……‼」

 タールから貰った白いナイフに握力を籠めてみるが、何も変化はないようだ。
 これで、上達したかを可視化できる。

「おら、ダメでも何回でも挑戦だ。もっと集中してやりやがれ」
「しゅうちゅう、ながくつづかない……」

 子供ゆえに、大人と比べて集中できる時間が短い。が、自分の頬を叩いて気合いを入れる。
 短期間のうちに魔術を極め、さらに日喰子ヒグラシを探さなければならない。それに、

(みんなにたくさんめいわくかけた。あと、このほんがてにはいったからといってわたしはまだよわい。だから……もっとつよくなって、おんがえししたいっ‼)

 その後エシラは、集中力が切れて寝落ちをするまで魔力の訓練を続けるのであった。
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