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国王の呼び出し
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同様のことが、ブリジット家にも起きている。
国内外から、日を追うごとに、関係の断絶を言い渡す手紙が届くのだ。
オーゼフ家と違い、妻が出かけている上に、たった一人の次女がいるのみなので、ほとんどの作業を、当主のカーセルが行わねばならなかった。
執事もメイドも……。例のニュースを知った途端に、全員辞めてしまったのだ。
「お父様……。私、お腹が空きましたわ」
「庭に草が生えているだろう? それを食べなさい」
「なっ……」
死んだ目をしながら、文と格闘するカーセル。
ほぼ徹夜状態。最後にベッドに入ったのは、いつだっただろうか……。
父の様子を見て、何かを悟ったマーシュは、キッチンへと向かった。
当然、シェフも皆どこかへ行ってしまったので、料理は出てこない。
なんとか食べ物はないかと漁っていた結果、腐りかけの果物が出てきた。
腹痛を起こすことを覚悟で、それに齧りつく。
……全ての金をカーセルに回収されているため、マーシュは何も買えないのだ。
こんなものでも、食べなければ生きていけない。
「あぁ。ここにいたか」
いきなり聞こえた声に、驚きつつ振り返るマーシュ。
そこには、婚約者のアザルフがいた。
「アザルフ様……! 助けて! お金が無いの!」
アザルフに駆け寄り、しがみつくマーシュ。
酷く酸っぱい匂いがした。
彼女は生まれてから今日まで、全ての身支度をメイドに任せていたため、服を着替えることもせず、また、体に香りをつけることもできず、日々過ごしていたのだろう。
思わずアザルフは、距離を取った。
それを拒絶と受け取ったマーシュは、大声で泣き始める。
「酷いですわぁ!!! どうして私を助けてくれないのよぉ!!」
「……今日は、婚約破棄を言い渡しに――」
「いやああああああ!!!」
……もはや、会話をすることも難しい。
すぐにでもこの家を立ち去りたかったアザルフだが、彼は一つ、伝言を任されていた。
カーセルの部屋に入ると、これまた酷い状況。
そこら中に紙が散らばっており、家具は……。ハンマーか何かで叩いたのだろうか。ボコボコに凹んでいる。
「カ、カーセル様。アザルフです」
「……」
反応はなかった。
「カーセル様!」
「うわぁ! ……驚かせるな」
睡眠不足のせいで、もはやまともに意識を保つことができていない状態である。
「国王が……。お呼びです」
「なっ……」
「早めに向かった方が、よろしいかと」
「……わかった」
仕事を終えたアザルフは、駆け足で屋敷を後にした。
カーセルは……。ゆっくりと立ち上がり、マーシュを探す。
ようやく、キッチンで蹲っているマーシュを発見した。
「マーシュ。王宮に行こう」
「……なぜ?」
「国王様がお呼びだ」
「どうしてですの?」
「行けばわかる」
カーセルは、全てを察していた。
きっと、自分たちは――。
国内外から、日を追うごとに、関係の断絶を言い渡す手紙が届くのだ。
オーゼフ家と違い、妻が出かけている上に、たった一人の次女がいるのみなので、ほとんどの作業を、当主のカーセルが行わねばならなかった。
執事もメイドも……。例のニュースを知った途端に、全員辞めてしまったのだ。
「お父様……。私、お腹が空きましたわ」
「庭に草が生えているだろう? それを食べなさい」
「なっ……」
死んだ目をしながら、文と格闘するカーセル。
ほぼ徹夜状態。最後にベッドに入ったのは、いつだっただろうか……。
父の様子を見て、何かを悟ったマーシュは、キッチンへと向かった。
当然、シェフも皆どこかへ行ってしまったので、料理は出てこない。
なんとか食べ物はないかと漁っていた結果、腐りかけの果物が出てきた。
腹痛を起こすことを覚悟で、それに齧りつく。
……全ての金をカーセルに回収されているため、マーシュは何も買えないのだ。
こんなものでも、食べなければ生きていけない。
「あぁ。ここにいたか」
いきなり聞こえた声に、驚きつつ振り返るマーシュ。
そこには、婚約者のアザルフがいた。
「アザルフ様……! 助けて! お金が無いの!」
アザルフに駆け寄り、しがみつくマーシュ。
酷く酸っぱい匂いがした。
彼女は生まれてから今日まで、全ての身支度をメイドに任せていたため、服を着替えることもせず、また、体に香りをつけることもできず、日々過ごしていたのだろう。
思わずアザルフは、距離を取った。
それを拒絶と受け取ったマーシュは、大声で泣き始める。
「酷いですわぁ!!! どうして私を助けてくれないのよぉ!!」
「……今日は、婚約破棄を言い渡しに――」
「いやああああああ!!!」
……もはや、会話をすることも難しい。
すぐにでもこの家を立ち去りたかったアザルフだが、彼は一つ、伝言を任されていた。
カーセルの部屋に入ると、これまた酷い状況。
そこら中に紙が散らばっており、家具は……。ハンマーか何かで叩いたのだろうか。ボコボコに凹んでいる。
「カ、カーセル様。アザルフです」
「……」
反応はなかった。
「カーセル様!」
「うわぁ! ……驚かせるな」
睡眠不足のせいで、もはやまともに意識を保つことができていない状態である。
「国王が……。お呼びです」
「なっ……」
「早めに向かった方が、よろしいかと」
「……わかった」
仕事を終えたアザルフは、駆け足で屋敷を後にした。
カーセルは……。ゆっくりと立ち上がり、マーシュを探す。
ようやく、キッチンで蹲っているマーシュを発見した。
「マーシュ。王宮に行こう」
「……なぜ?」
「国王様がお呼びだ」
「どうしてですの?」
「行けばわかる」
カーセルは、全てを察していた。
きっと、自分たちは――。
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