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耐える悪役令嬢
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一方そのころ……。
にっくきリゼッタから婚約者を奪い、公爵家令息の婚約者という地位を手に入れたアイナは――。
「面白いだろう? 葉っぱが舞うのは」
「……はい! そうですわね」
葉っぱを上に向かって投げ、ヒラヒラと舞い落ちるのが面白いという話に付き合わされていた。
すでに二人で過ごし始めて、何日か経過しているが……。
アイナはこの婚約を、後悔し始めていた。
いくらお金が自由に使えると言っても、ほとんどの時間をこの小太りの醜い令息と過ごさねばならぬとあれば、到底耐えられるような日々ではない。
「次は君の番だ。ほら投げてみてくれ」
「はい……」
アイナは葉っぱを空に向かって投げる。
「おぉ! これはすごい!」
ひらひらと舞う葉っぱを見て、ハメッドが手を叩いて喜んだ。
こんな遊びが、もう二時間も続いている。
「ハ、ハメッド様。そろそろ屋敷の中に……」
「何を言っているんだい? 楽しいのはここからじゃないか」
「そうですか……」
葉っぱを投げるだけではない。
もちろんハメッドのつまらないトークも聞く必要がある。
「猫の話なんだけどね……」
すでに今日だけで、五回ほど猫の話を聞かされている。
それでもアイナは、公爵家令息の婚約者の地位を守るため、必死で相槌を打ち、初めて聞くかのような態度を取り続けた。
「どうかな。僕と過ごす時間は楽しいかい?」
「もちろんでございます」
「そうだよね? そりゃそうだ。やっぱりあのクソ令嬢がおかしかったんだよね」
「は、はは……」
「さぁ次は、葉っぱの数を増やそう!」
ハメッドは十枚ほど葉っぱを集め、一気に空に放ってみせた。
「おぉすごい! こっちにもあっちにも! 楽しいなぁ!」
アイナは、もしかするとハメッドは何かの病気なのではないかと疑い始めていた。
ハメッドの父、公爵家の当主も、おかしな発言が目立つという噂が絶えない。
遺伝的なものもあるだろう。
しかし、もしかすると教育のせいもあるかもしれない。
アイナはハメッドを成長させることにした。
「ハメッド様。私も面白い遊びを知っていますのよ? 屋敷の中でもできる簡単な遊びで――」
「え? いやいや。この遊びの方が絶対面白いから」
「し、しかし。やってみれば意外と――」
「この遊びがつまらないってことかい?」
ハメッドが、見たこともないような怖い顔をして、アイナを睨みつけた。
こうなってしまうと、何も言えなくなる。
「……いえ。申し訳ございません」
アイナがすぐに謝ると、ハメッドは笑顔になった。
「良かった。まさか君もあのバカ令嬢と同じことを言い出すんじゃないかってね。一瞬心配したんだよ」
「あはは……」
結局この遊びは、八時間ほど続けられたそうだ。
にっくきリゼッタから婚約者を奪い、公爵家令息の婚約者という地位を手に入れたアイナは――。
「面白いだろう? 葉っぱが舞うのは」
「……はい! そうですわね」
葉っぱを上に向かって投げ、ヒラヒラと舞い落ちるのが面白いという話に付き合わされていた。
すでに二人で過ごし始めて、何日か経過しているが……。
アイナはこの婚約を、後悔し始めていた。
いくらお金が自由に使えると言っても、ほとんどの時間をこの小太りの醜い令息と過ごさねばならぬとあれば、到底耐えられるような日々ではない。
「次は君の番だ。ほら投げてみてくれ」
「はい……」
アイナは葉っぱを空に向かって投げる。
「おぉ! これはすごい!」
ひらひらと舞う葉っぱを見て、ハメッドが手を叩いて喜んだ。
こんな遊びが、もう二時間も続いている。
「ハ、ハメッド様。そろそろ屋敷の中に……」
「何を言っているんだい? 楽しいのはここからじゃないか」
「そうですか……」
葉っぱを投げるだけではない。
もちろんハメッドのつまらないトークも聞く必要がある。
「猫の話なんだけどね……」
すでに今日だけで、五回ほど猫の話を聞かされている。
それでもアイナは、公爵家令息の婚約者の地位を守るため、必死で相槌を打ち、初めて聞くかのような態度を取り続けた。
「どうかな。僕と過ごす時間は楽しいかい?」
「もちろんでございます」
「そうだよね? そりゃそうだ。やっぱりあのクソ令嬢がおかしかったんだよね」
「は、はは……」
「さぁ次は、葉っぱの数を増やそう!」
ハメッドは十枚ほど葉っぱを集め、一気に空に放ってみせた。
「おぉすごい! こっちにもあっちにも! 楽しいなぁ!」
アイナは、もしかするとハメッドは何かの病気なのではないかと疑い始めていた。
ハメッドの父、公爵家の当主も、おかしな発言が目立つという噂が絶えない。
遺伝的なものもあるだろう。
しかし、もしかすると教育のせいもあるかもしれない。
アイナはハメッドを成長させることにした。
「ハメッド様。私も面白い遊びを知っていますのよ? 屋敷の中でもできる簡単な遊びで――」
「え? いやいや。この遊びの方が絶対面白いから」
「し、しかし。やってみれば意外と――」
「この遊びがつまらないってことかい?」
ハメッドが、見たこともないような怖い顔をして、アイナを睨みつけた。
こうなってしまうと、何も言えなくなる。
「……いえ。申し訳ございません」
アイナがすぐに謝ると、ハメッドは笑顔になった。
「良かった。まさか君もあのバカ令嬢と同じことを言い出すんじゃないかってね。一瞬心配したんだよ」
「あはは……」
結局この遊びは、八時間ほど続けられたそうだ。
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