お義兄様に一目惚れした!

よーこ

文字の大きさ
12 / 38

12 婚約者の私室へ奇襲

しおりを挟む
 リリカの後ろを歩きながら考える。

 ティルマン様とこのメイドは恋人同士で、愛し合っているのだろうか。
 もしそうなら、二人にとって邪魔者はわたしの方ということになる。

 だったらもういっそのこと、ティルマン様の方からわたしとの婚約を解消してくれればいいのに。
 どうせ近い内に素行調査は終わる。ティルマン様の不貞のすべてが暴かれる。わたしたちの婚約は間違いなく破棄されることになる。

 だったらその前に、円満に婚約解消した方がお互いに傷が浅くてすむのではないだろうか。わたしの方から提案してみてもいいかもしれない。

「ティルマン様のお部屋へ案内して。一言ご挨拶してから帰ることにするわ」
「え? 今からですか? で、でも……」

 リリカの戸惑いは分かる。
 普通なら先触れを出し、今から行くことのお伺いをたてるべきだからだ。それが礼儀というものだ。

 しかし、婚約者であるわたしが今日この屋敷に来ていることを、ティルマン様はご存じのはず。それに、ついさっき公爵夫人からも「よかったらティルマンにも会っていってやって」と言われたばかりだ。
 だから、多少の無作法は許されると考えて、先触れ無しに会いに行くことにしたのだった。

 本音を言えば、先触れを出してそれが戻ってくるまでの待ち時間が面倒なだけ、なのだけれどね。

 ともかく、困り顔のリリカを無視してティルマン様の部屋へと向かった。
 ここ何年もの間アダルベルト公爵邸へと通い続けているわたしは、ティルマン様の部屋の場所を知っているし、中に入れてもらったことも何度かある。案内などなくとも一人で行けるのだ。

 足早に廊下を進み、階段を上る。すると、すぐにティルマン様の部屋の前に辿り着いた。
 扉の前にはティルマン様の侍従キースがいて、わたしを見るとあからさまに慌てふためいた。

「ク、クリステル様! なぜここに?!」
「ごきげんよう、キース。婚約者様へのご機嫌窺いに来たの。中に通してくれる?」
「あ、いやでも、ティルマン様は今忙しくて……」
「忙しい? でもわたしは公爵夫人からティルマン様にお会いするように言われてきたのよ?」
「いや、でも、しかし……」
「ともかく、一度中に入ってティルマン様にご都合をお聞きしてきて。ほら、早くしてちょうだい」
「…………」

 がんとして動こうとしないキースに、これは絶対になにかあると考えたわたしは、アンと目を合わせて意思疎通を図った。小さく頷き返したアンを見て、わたしはふらりと体をよろけさる。

「朝から具合がよくなかったのだけど、ああっ、なんだか眩暈が……」
「クリステルお嬢様!」

 手の甲を額に当て、よろけて倒れそうになったわたしを助けるため、キースが扉の前から離れた。その隙にアンが扉を開く。

「あ!」

 気付いたキースが慌てるが、わたしを支えているせいで動けない。
 アンはそのまま足音を立てずに部屋の奥へと突き進むと、寝室のドアノブに手をかけ、扉を静かにそっと開いた。

 その瞬間。

 淫らな嬌声や肌同士がぶつかり合う音が、部屋の中から大音量で溢れだした。


しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました

ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。 けれどその幸せは唐突に終わる。 両親が死んでから何もかもが変わってしまった。 叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。 今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。 どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥?? もう嫌ーー

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。

「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒
恋愛
「地味な令嬢は妃に相応しくない」──そう言い放ち、セレナとの婚約を一方的に破棄した子爵令息ユリウス。彼が次に選んだのは、派手な伯爵令嬢エヴァだった。貴族たちの笑いものとなる中、手を差し伸べてくれたのは、幼馴染の第2皇子・カイル。「俺と婚約すれば、見返してやれるだろう?」ただの復讐のはずだった。けれど──これは、彼の一途な溺愛の始まり。

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

【完結】妻至上主義

Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。 この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。 本編11話+番外編数話 [作者よりご挨拶] 未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。 現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。 お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。 (╥﹏╥) お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。

私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました

ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。 ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。 それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の 始まりでしかなかった。

処理中です...