お義兄様に一目惚れした!

よーこ

文字の大きさ
19 / 38

19 未練を断ち切るために

しおりを挟む
 さて、家を出て修道院に逃げ込み、二度と戻らないつもりのわたしだけれど、実は決行前に一つだけやっておきたいことがある。お義兄様に関することだ。

 六才の時に初めて会った時から、わたしはずっとお義兄様が好きだった。
 想いは年々膨らんでいき、今ではもう「愛」の域に達している。

 本当に本当に好きで好きで大好きで、お義兄様のためなら死ねると思うくらい、わたしはお義兄様を愛している。

 あまりに好きすぎて少し怖い。なぜなら、未練が残りそうな気がするからだ。
 未練が残ると、お義兄様に会いたいと思うあまり家に帰りたくなるかもしれない。

 そうならないために!
 お義兄様への未練を完全に断ち切るために!

 わたしはお義兄様を夜這いしようと決意した。
 お義兄様にわたしの処女を散らして欲しい。一度だけでいいから愛してもらいたい。
 その思い出があれば、この先ずっと一人でも生きていける。

 そうわたしは思ったのだった。



 ギレンセン家を去るすべての準備を整えた日の夜遅く。
 お義兄様が執務を終えて自室に戻り、就寝の準備を整えて一人になる頃合いを見計らうと、わたしはお茶のセットを持ってお義兄様の部屋を訪れた。
 ノックの後、開いた扉の向こうのお義兄様が、わたしの姿を見て驚いた顔をする。

「クリス? こんな夜遅くにどうしたんだ」
「眠れなくて。少しだけでいいので、お茶に付き合っていただけませんか?」
「ああ、なんだ、そいういうことか。もちろんかまわない。さあ、入ってくれ」

 お義兄様はなんの警戒もなくわたしを部屋に招き入れると、ソファに座るように促してくれた。わたしがお茶のセットをテーブルに置いてソファに座ると、そのすぐ隣にお義兄様も腰を下ろす。

 わたしはお茶を二人分作ると、カップの一つをお義兄様に差し出した。
 受け取ったお義兄様は所作美しくカップを持ち上げた。

「すごくいい香りだ」
「わたしが自分でブレンドしてみたんです。お口に合うといいのですが」

 お義兄様はカップを口につけた後、口角をわずかに上げた。

「美味いな。少しだけ変わった風味があるが……ハーブか?」
「さすがはお義兄様、滋養に良いという薬草がほんの少しだけ入っているんです。毎日たくさんのお仕事をなさっていて、お疲れのご様子ですから」
「そうか、気を使わせてすまないな……うん、美味い」
「お口にあって良かった」

 実はそのお茶には、出入り商人から密かに買い求めた媚薬と睡眠薬が入っている。
 睡眠薬は遅効性だけれど、媚薬は即効性のものだ。

 わたしはさりげなくお義兄様ににじり寄り、そっと身を寄せた。


しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒
恋愛
「地味な令嬢は妃に相応しくない」──そう言い放ち、セレナとの婚約を一方的に破棄した子爵令息ユリウス。彼が次に選んだのは、派手な伯爵令嬢エヴァだった。貴族たちの笑いものとなる中、手を差し伸べてくれたのは、幼馴染の第2皇子・カイル。「俺と婚約すれば、見返してやれるだろう?」ただの復讐のはずだった。けれど──これは、彼の一途な溺愛の始まり。

【完結】妻至上主義

Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。 この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。 本編11話+番外編数話 [作者よりご挨拶] 未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。 現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。 お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。 (╥﹏╥) お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。

唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました

ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。 けれどその幸せは唐突に終わる。 両親が死んでから何もかもが変わってしまった。 叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。 今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。 どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥?? もう嫌ーー

筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。

一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。 そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。 ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。 慕ってはいても恋には至らなかった。 やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。 私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす ――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎ しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎ 困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で…… えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね? ※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。 ※pixivにも掲載。 8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

お買い上げありがとうございます旦那様

キマイラ
恋愛
借金のかたに嫁いだ私。だというのに旦那様は「すまないアデライン、君を愛することはない。いや、正確には恐らく私は君を愛することができない。許してくれ」などと言ってきた。 乙女ゲームのヒロインの姉に転生した女の結婚のお話。 「王太子殿下に魅了をかけてしまいました。大至急助けてください」にチラッと出てきたアデラインが主人公です。単体で読めます。

処理中です...