43 / 106
第二十二話 ネット娘_3
しおりを挟む
前回の狩りから一週間後。
繁忙期に入り仕事が忙しくなったが、家庭持ちの洋佑に配慮して独身の俺に回されたせいで殆どゲームしていない。まあしょうがないことだし、前からやってることなので別に文句はないのだが。
ただ、トゥルーワールド・オンラインにログインしなかったのは仕事の忙しさのせいだけじゃない。
空き時間の大半は、エルマナヤンのことを調べることに費やしていた。
はっきりいって、彼女の戦闘力は非常に魅力的だ。もし自分でも似たようなテイミングモンスターを獲得できるものならしたい。
しかし、それより気になったのが…別れ際、彼女が見せた表情だった。
それまで感情が希薄な雰囲気を漂わせていたエルマナヤンが見せた笑み。
あれには、まぎれもなく感情がある。そして、洋佑は気づいた素振りが無い。つまり、彼の前では見せていない表情ということだ。
本当にあれは、ただのテイムモンスターなんだろうか。
けれども、幾ら調べてもエルマナヤンというテイムモンスターの情報は出なかった。
いっそ彼女の名前などを出して情報を募ろうと思ったこともあったが、飼い主の洋佑を差し置いて情報を出すのはさすがに問題だろう。
ゲーム上から情報が得られないのならば仕方ない。俺は洋佑自身に話をしようと考えたが、トゥルーワールド・オンラインで会うのはエルマナヤンが洋佑から離れないため避けたい。
そこで久し振りに洋佑の家にお邪魔することを思いついた。
「おぉい、洋佑。今日は久し振りにお前ん家で飲まねぇ?」
終業時間を見計らい、そう声をかけると。
「え…」
いつものように、時間通り退勤するところだった洋佑は、明らかに顔をしかめた。そうやって不快感丸出しな表情を表に出すことは珍しく、俺は何とも落ち着かない気分になる。
が、すぐに表情はいつもどおりになり、
「いいね。美佐子も久し振りにお前の顔を見たいと思ってるんじゃないかな」
そう言って笑った洋佑は、俺が良く知るいつもどおりの洋佑だった。やはり、きっとあれは虫の居所が悪かっただけだろう…
「あ、ああ。じゃあ、酒用意してから行くわ」
「おう、料理用意しておくから腹空けとけよ」
なぜかほっとした俺は、先ほどの不安を頭から追い出すと約束を守るため残った仕事をやっつけることに専念したのだった。
色々準備も済ませた俺が洋佑宅に到着したのは、あらかじめ伝えていた時刻を三十分ほど遅れてのことだった。
「悪い、少し遅れた」
「いや、こちらこそいつも助かってるからな。今日は楽しんでいってくれ」
手土産を受け取りながら、洋佑とその奥さんはにこやかに来訪を喜んでくれた。その後ろから、小学五年の男の子も駆け寄ってきた。
「あっ、おっちゃーん!」
「おう、としあきも元気してたか!」
「あたりきよー! なーなー、今日も対戦してくれんの?」
「ああ、いいぞ! おかわりもいいぞ!!」
「やったー!」
「もう、この子ったら! ごめんなさいね、洋介さん、しつけがなってなくて…」
「いえいえ、人見知りよりはこれぐらい活発な方がいいですよ」
喜ぶ敏明を嗜めながら奥さんが謝るが、俺は笑顔で気にしないでくださいと返した。
俺には年の離れた弟がいて、まさにこんな感じだったのでむしろ敏明の反応の方が嬉しかったりする。
「じゃあさー、じゃあさー、まずはブマスラから…」
「こーら、敏明。まずはご飯食べてからだ」
「はーい」
晩御飯は敏明のリクエストだったようで、ハンバーグだった。食事を終えた後はさっそく俺の酒を取り出し、大人たちで飲み始める。話を聞くのに、ある程度は酒を飲ませた方がスムーズになるのではという打算込みでのことだ。
その間敏明は居間でゲームをしていたが、一人で遊ぶのに飽きたらしくしばらくするとこちらにやってきた。
「なーなー。おっちゃん、そろそろもういいだろー? ブマスラやろーぜ! 俺うまくなったんだぜ」
「おう? そうだなぁ…」
久し振りの飲みが想像以上に楽しく、本当はもう少し洋佑と酒を飲みたい気分ではあった。が、約束した手前そろそろ行くか、そう考えてグラスを下したとき。
「…敏明。今は父さんたちが飲んでるんだ」
洋佑が硬い声でさえぎった。
「ええー!」
そうとは気づかない敏明は明らかに気分を害し、口を尖らせた。
「ずるいよ父ちゃん。ここんとこずっと遊んでくれないじゃん。せっかくおっちゃんも来てくれたのに父ちゃんばっか占領して…」
「我侭言うな!!」
「あっ」
怒声。そして、同時にばしん、という音。
一瞬で室内がしんと静まり返る。
俺はもちろん、叩かれた敏明も、夫の暴挙を止められなかった美佐子さんも、そして当の洋佑すらもびっくりした顔をしていた。
「…あ、あはは、洋佑、さすがにちょっと飲みすぎたんじゃないか?」
一瞬後、敏明の泣き声で我に返った俺がすぐに取り成す。
こんな感情的になった洋佑を俺は今まで見たことがない。何より、子煩悩な洋佑がここまで敏明へ怒気を露にしたことは今までなかった。室内でサッカーをされて新婚の思い出として大切にしていたペアのワイングラスを割られたときだって、困ったように眉を寄せてこんこんと何が悪いかを伝え、決して手を上げようとしなかった奴なのに。
「あ、ああ…そ、そうだな…すまん、少し飲みすぎたようだ」
うつむき、額に手を当て声を落とす洋佑に俺はなんと声をかけていいか判らない。
「いや、こちらこそすまん、体調悪いところを無理に酒につきあわせたようで。今日はもう、帰るよ」
息子をなだめるため部屋に連れ出した奥さんの代わりにコップに汲んできてやった水を洋佑が飲み干したのを見届けると、俺は逃げるようにしてその場を後にした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ17ニチ19ジ
繁忙期に入り仕事が忙しくなったが、家庭持ちの洋佑に配慮して独身の俺に回されたせいで殆どゲームしていない。まあしょうがないことだし、前からやってることなので別に文句はないのだが。
ただ、トゥルーワールド・オンラインにログインしなかったのは仕事の忙しさのせいだけじゃない。
空き時間の大半は、エルマナヤンのことを調べることに費やしていた。
はっきりいって、彼女の戦闘力は非常に魅力的だ。もし自分でも似たようなテイミングモンスターを獲得できるものならしたい。
しかし、それより気になったのが…別れ際、彼女が見せた表情だった。
それまで感情が希薄な雰囲気を漂わせていたエルマナヤンが見せた笑み。
あれには、まぎれもなく感情がある。そして、洋佑は気づいた素振りが無い。つまり、彼の前では見せていない表情ということだ。
本当にあれは、ただのテイムモンスターなんだろうか。
けれども、幾ら調べてもエルマナヤンというテイムモンスターの情報は出なかった。
いっそ彼女の名前などを出して情報を募ろうと思ったこともあったが、飼い主の洋佑を差し置いて情報を出すのはさすがに問題だろう。
ゲーム上から情報が得られないのならば仕方ない。俺は洋佑自身に話をしようと考えたが、トゥルーワールド・オンラインで会うのはエルマナヤンが洋佑から離れないため避けたい。
そこで久し振りに洋佑の家にお邪魔することを思いついた。
「おぉい、洋佑。今日は久し振りにお前ん家で飲まねぇ?」
終業時間を見計らい、そう声をかけると。
「え…」
いつものように、時間通り退勤するところだった洋佑は、明らかに顔をしかめた。そうやって不快感丸出しな表情を表に出すことは珍しく、俺は何とも落ち着かない気分になる。
が、すぐに表情はいつもどおりになり、
「いいね。美佐子も久し振りにお前の顔を見たいと思ってるんじゃないかな」
そう言って笑った洋佑は、俺が良く知るいつもどおりの洋佑だった。やはり、きっとあれは虫の居所が悪かっただけだろう…
「あ、ああ。じゃあ、酒用意してから行くわ」
「おう、料理用意しておくから腹空けとけよ」
なぜかほっとした俺は、先ほどの不安を頭から追い出すと約束を守るため残った仕事をやっつけることに専念したのだった。
色々準備も済ませた俺が洋佑宅に到着したのは、あらかじめ伝えていた時刻を三十分ほど遅れてのことだった。
「悪い、少し遅れた」
「いや、こちらこそいつも助かってるからな。今日は楽しんでいってくれ」
手土産を受け取りながら、洋佑とその奥さんはにこやかに来訪を喜んでくれた。その後ろから、小学五年の男の子も駆け寄ってきた。
「あっ、おっちゃーん!」
「おう、としあきも元気してたか!」
「あたりきよー! なーなー、今日も対戦してくれんの?」
「ああ、いいぞ! おかわりもいいぞ!!」
「やったー!」
「もう、この子ったら! ごめんなさいね、洋介さん、しつけがなってなくて…」
「いえいえ、人見知りよりはこれぐらい活発な方がいいですよ」
喜ぶ敏明を嗜めながら奥さんが謝るが、俺は笑顔で気にしないでくださいと返した。
俺には年の離れた弟がいて、まさにこんな感じだったのでむしろ敏明の反応の方が嬉しかったりする。
「じゃあさー、じゃあさー、まずはブマスラから…」
「こーら、敏明。まずはご飯食べてからだ」
「はーい」
晩御飯は敏明のリクエストだったようで、ハンバーグだった。食事を終えた後はさっそく俺の酒を取り出し、大人たちで飲み始める。話を聞くのに、ある程度は酒を飲ませた方がスムーズになるのではという打算込みでのことだ。
その間敏明は居間でゲームをしていたが、一人で遊ぶのに飽きたらしくしばらくするとこちらにやってきた。
「なーなー。おっちゃん、そろそろもういいだろー? ブマスラやろーぜ! 俺うまくなったんだぜ」
「おう? そうだなぁ…」
久し振りの飲みが想像以上に楽しく、本当はもう少し洋佑と酒を飲みたい気分ではあった。が、約束した手前そろそろ行くか、そう考えてグラスを下したとき。
「…敏明。今は父さんたちが飲んでるんだ」
洋佑が硬い声でさえぎった。
「ええー!」
そうとは気づかない敏明は明らかに気分を害し、口を尖らせた。
「ずるいよ父ちゃん。ここんとこずっと遊んでくれないじゃん。せっかくおっちゃんも来てくれたのに父ちゃんばっか占領して…」
「我侭言うな!!」
「あっ」
怒声。そして、同時にばしん、という音。
一瞬で室内がしんと静まり返る。
俺はもちろん、叩かれた敏明も、夫の暴挙を止められなかった美佐子さんも、そして当の洋佑すらもびっくりした顔をしていた。
「…あ、あはは、洋佑、さすがにちょっと飲みすぎたんじゃないか?」
一瞬後、敏明の泣き声で我に返った俺がすぐに取り成す。
こんな感情的になった洋佑を俺は今まで見たことがない。何より、子煩悩な洋佑がここまで敏明へ怒気を露にしたことは今までなかった。室内でサッカーをされて新婚の思い出として大切にしていたペアのワイングラスを割られたときだって、困ったように眉を寄せてこんこんと何が悪いかを伝え、決して手を上げようとしなかった奴なのに。
「あ、ああ…そ、そうだな…すまん、少し飲みすぎたようだ」
うつむき、額に手を当て声を落とす洋佑に俺はなんと声をかけていいか判らない。
「いや、こちらこそすまん、体調悪いところを無理に酒につきあわせたようで。今日はもう、帰るよ」
息子をなだめるため部屋に連れ出した奥さんの代わりにコップに汲んできてやった水を洋佑が飲み干したのを見届けると、俺は逃げるようにしてその場を後にした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ17ニチ19ジ
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
夜にも奇妙な怖い話2
野花マリオ
ホラー
作品のホラーの中で好評である続編であります。
作者が体験した奇妙な怖い体験や日常的に潜む怪異や不条理を語ります。
あなたはその話を読んでどう感じるかはお任せいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる