安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第二十二話 ネット娘_2

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 所要を済ませ、きっかり30分にログインした俺を待ち受けていた洋佑は見慣れぬ幼女を連れていた。

「あれ、洋佑、その子は?」
 ピンクブロンドの髪を伸ばし、ぼんやりとこちらを見ている女の子。
 年は5,6歳くらいだろうか、面立ちは整っていて美少女と言っていい。ぼんやりとした表情と素朴な服を着ているせいでぱっとしないが、成長すればさぞや男の目を引くことだろう。

「ああ、この子がイベントなんだ」
「え? …つまり、Youイズ人攫い? GM呼ぶ? インタビューには答えておくね、『いつかやるんじゃないかと思ってました』って」
「バッカ、花丸満点パパの俺がそんな真似するかよ。逆だってーの」
「逆?」
「ああ。この子はな、”エルマナヤン”っていうレアモンスターなんだ。ほれ、くるりと回ってみ」

 後ろを向けさせられた幼女をみると、背中に淡く光る虫のような翅が見える。まるで俺から身を隠すように、洋佑の後ろに隠れていたせいで気づかなかった。

 洋佑曰く、たまたま受けた依頼が村の畑に悪さをする魔物を何とかして欲しいというものだった。
 大抵人里まで現れるのはゴブリンなど弱いモンスターであるため、弱いのにソロで行動している洋佑としてはうってつけのクエストなのだそうだ。まあ、ゴブリンくらいなら多少レベル上げするだけで後衛でも渡り合えるくらいだからさもありなん。

 話は戻すが、夜中に張り込みをしていたところ、光の玉が現れては作物を食い荒らしていく。ゴブリンじゃないのは判ったが、とりあえず何とかせねばと思って体当たりで捕まえたのがこの子なのだという。
 最初は暴れたが、その流れで落とした手持ちの食料に気をとられた。もしかして腹を減らしてるせいかもと食料を全部上げたところ、大人しくなり洋佑の指示にも従うようになったのだそうだ。

 ちなみに村人たちにはそいつは極めて邪悪な存在だから殺せと言われたそうな。が、見た目が見た目なもので、さすがに殺すのは哀れに思った洋佑が私財を払って交渉した。なおその結果、クエスト依頼も失敗扱いとなったため大出費だと嘆いていたが俺に言わせりゃ自業自得ってなもんである。

「ふぅん? …なあ、マジでレアモンなのその子? お前が誘拐したNPCとかじゃなく?」

 しかし…なんか引っかかるんだよな。俺は首を傾げた。
 はっきりいって、そのような流れでレアモンと遭遇できるならもっと沢山の遭遇例があってもおかしくはなさそうなものだよなぁ。

「だから違う…いや、断言はできないけどな。ただ、ウィキのどこにも似たようなイベントや、エルマナヤンというテイムモンスターについての記述は無いんだ。だからレアなんじゃないかって」
「仮にレアモンだとして、何がテイミングのトリガーになってたんだろうな?」
「わかんね」

 真っ先に思い当たるのは与えた餌…だが、それこそ最初の街の最初の店で二束三文で売ってるようなものだそうで到底特別なトリガーになるとは考えにくい。そんなんで釣れるなら、誰もが今日から君と僕とでテイマーだ、てなもんである。

 あと他との差異として考えられることとしては、洋佑がテイマーだったということくらいか。まあもっと突き詰めれば、現地に移動する手段とか朝何食ったとかまで切り分ける必要があるのかもしれないが、どこまで遡ったところでそれだと確定できる手段がない以上推察の域を出ない。

「まあ、掲示板に報告するかは今はまだ決めなくていいんじゃないか? それより、せっかく顔合わせしたんだ。この子の性能も見てみたくないか?」
 もちろん、それには興味がある。二つ返事でPTを組んだ俺たちはさっそく適当なダンジョンに向かうことにした。



 俺たちが向かったのは、初級者向けの虫メインのダンジョンだった。
 そこで洋佑はエルマナヤンと何事か語った後、一歩引く。いつもの立ち居地なので俺が前に出ようとすると、手を伸ばして制止された。

「おい、なにすんだよ」
「まあ見てろって」

 その間にもエルマナヤンはとてとて、と洋佑の少し前を歩き出す。ほどなくして巨大なダンゴムシが出た途端、右手をすっとそちらに向けて伸ばした。

「うおっまぶしっ」

 直後、エルマナヤンの手から光の弾が飛び出し、ダンゴムシを正面からぶち抜いた。即死である。

「ええ…マジかよ」

 なんとまあ、ダンゴムシの前面から尻へと拳大の穴が貫通している。こいつは結構硬い皮殻もちで、俺くらいのレベルでは弓手ですら歯が立たないはずなのに…

「な、凄いだろ?」
「ああ、凄い。つーか俺より強いんじゃね?」

 素直に感心する。多分正面からガチ戦闘したら即殺される自信がある。
 その間、そそくさと顔に掛かった虫の返り血を拭ってやりながら洋佑は肯定した。

「多分な。火力高いし、しかも魔力切れ起こさないんだよこの子」
「え、それマジ? ずっこくね?」

 あまりのチート性能に俺は開いた口がふさがらない。普通、高火力のスキルなり魔法なりは消耗が激しいことなどでバランスをとるものだ。しかも見た限り、洋佑のキャラのHPもMPも消費がない。つまり、洋佑は何も消耗しないのだからチートにも程がある。

「マジもマジ。たまたまフィールド移動してたら魔法ぶっ放してさ。ステータス見えないから戦闘できるキャラだと思わなかった。んでどんだけ撃てるかと思ってスライム即沸きのマップで戦わせたら、一時間くらい砲台と化してた」
「一時間!? すげえな、魔力切れ起こさない自律砲台とかマジチートクラスじゃん。いい拾い物したなぁ」
「しかもディレイあんま無いらしくてな。ターゲッティングされても大抵近寄る前に間に合うから無傷で終わった」
「Oh…」

 くそ、素直に羨ましい。これなら戦士じゃなく、俺もテイマーにするんだった。

「あ、でも一応無限ってわけじゃないぞ。腹は減るみたいで戦わせ続けると機嫌を損ねてなんもしなくなる」
「へえ、満腹度で調整とってるのか。面白いな」

 そりゃそうか、さすがに何もデメリット無しはぶっ壊れすぎか。

「まあ、それでも数時間ぶっ通しで戦えるから十分凄いんだけどさ」
「確かになぁ」

 普通の魔法職などは魔法を数発打てばMPが空になるし、それを回復する手間も考えれば十分破格だ。しかも聞けば食事は最初の町で買える安いもので満腹するという。どんだけリーズナブルなんだ。

「それにしても、目に見えないマスクデータとか逆に凄い管理が大変じゃないか?」

 そういうと、エルマナヤンの髪を撫で付けてやっていた洋佑は照れくさそうに頭を掻き掻き答えたものだ。

「食い物与えるとき以外はぼんやりしてることが多いし、感情表現の苦手な子供の世話みてるみたいなもんだと思えば気にもならんさ。うちのガキが同じくらいだったときは好き嫌いは酷いし我侭だしでもっと手間が掛かってたからな。それに比べれば反応鈍いだけで、ちゃんと言うことを聞いてくれる分可愛いよ」
「へえ、そんなもんか。…うーん、俺やっぱ家庭向いてねーなー」

 これまでにもひたすらこまごまと面倒見てやってた洋佑には心底感心してしまう。はっきりいって、朝は時間ぎりぎりまで寝たいタイプの俺には子供の面倒とか見れる気がまったくしない。

「いやいや、結婚すれば変わるもんさ」

 それからしばらく駄弁りながらも三人で狩りに勤しんだ。

 まあ、エルマナヤンが立ち回りに慣れてからはほとんど俺の出番は無くなってしまったが…なんせ、命令しても洋佑の傍を離れないのだからしょうがない。
 最後の方は駆け出すそばから掃討されて出番がなくなった俺に洋佑がしきりと気遣ってくるのが辛い。いいもんね、遠距離でちまちまやるより飛び込んでなで斬りにする方が面白いもんねちくせう。ソロになったらたっぷり堪能するんだ。

「と、もうこんな時間か」

 いい時間になったので町へ戻り、解散することになったので、軽く荷物整理したい俺を残してこの日は別れることにした。

「じゃあまた、明日な」
「ああ」

 洋佑がエルマナヤンの手を引いてログアウトする一瞬。

「……」

 ちらと振り返ったエルマナヤンが、にたりと笑った。

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ツギハ15ニチ19ジ
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