お隣さんはセックスフレンド

えつこ

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1-5.それぞれの一夜

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「お疲れ!よかったぞ!」
 ダブルアンコールを終え、汗だくになりステージから降りてきた三人を岸は拍手で出迎えた。岸の横ではカメラを構えたスタッフがいて、写真と動画を撮っている。写真はSNSとファンクラブ用で、映像はライブDVD用のバックステージ密着動画を撮影していた。
 岸はカメラの邪魔にならないように、メンバーにタオルとペットボトルの水を渡した。メンバーはタオルで汗を拭き、浴びるように水を飲む。一息つくと、苦しそうな表情をパッと変え、カメラに笑顔を向けた。
「楽しかったー!みんなありがとう!」
 カズがはしゃぐようにカメラに手を振り、ウィンクを飛ばす。
「ありがとうございました!みんなのおかげでツアー完走できました」
 タスクは汗で濡れた髪をタオルで拭きながら、カメラに向かって微笑んだ。
 二人に続いてカメラは遼に向けられる。締めのコメントを言うのか遼の役目だが、タオルに顔を埋め、肩で息をしたまま、カメラに気づく様子がない。
 岸はスタッフに手を振り、一度カメラを止めさせた。あとで編集でどうとでもなるので、中断しても問題ない。
「リョウ?大丈夫か?」
 岸がタオルを持つ遼の手に触れると、皮膚は汗ばんで熱い。顔をあげた遼はどこか苦しそうな表情だった。
「いや、大丈夫です。バテただけだと思います」
「暑かったもんね。今日のリョウはきれきれだったし、頑張りすぎたんじゃない?」
 カズが心配そうに遼の顔を覗き込む。タスクは遼が持っていたペットボトルを奪い取ると、キャップを開けて返した。遼は一気に水をあおる。ふぅと息を吐き、顔を上げた。
「すいません、大丈夫です。カメラお願いします」
 苦しそうな表情を隠すように、遼は無理に笑った。岸個人としては休んで欲しかったが、マネージャーとしてはそうはいかない。申し訳なさを抱きつつも、遼に声をかけた。
「悪いな。これだけ頼む」
 遼が頷き、それを合図にスタッフがカメラを構える。いつもより表情が硬いが、ステージ裏の薄暗さでごまかせるだろう。
 遼がコメントを撮影している間に、岸は近くのスタッフに声をかけて、医務室で待機している医者に遼のことを伝えるように指示する。ライブの際は念のため医者を待機させている。怪我や事故が起こる可能性はゼロではないからだ。岸はカメラから離れたところにカズとタスクを手招きした。
「三人でコメント動画は無理そうだから、カズ個人のアカウントで写真と動画あげてほしい。公式アカウントはライブ中の写真を適当に使うから。マッサージのあとでいいぞ。俺は遼を医者に見せて、家まで送る」
「オッケーです」
 カズはライブ終わりの疲れを感じさせない笑顔を見せた。こんなときにカズの明るさに救われる。
「二人とも疲れてるのに悪いな。タスクも頼む」
「わかりました」
 タスクは頷く。二人は「お疲れさまです!ありがとうございました!」とスタッフたちに挨拶しながら楽屋へと向かった。
「岸さん、終わりました。この後も密着予定だったんですが、どうします?」
 カメラを持ったスタッフに尋ねられて、岸は考えを巡らせる。遼の体調を考えると無理はさせられない。今日は朝から密着していたし、ツアーの地方公演の映像ストックもある程度あるため、映像の量としては申し分ないだろう。岸はそう判断した。
「今日はメンバーの撮影はなし。撤収と外の様子撮っておいて。編集でなんとかさせるから」
「わかりました」
 スタッフはカメラを持って、軽やかに走り去っていった。
「リョウ、医務室行くぞ。歩けるか?」
「はい、すいません」
 ゆっくり歩き始める遼を気遣いながら、岸は隣を歩く。
 廊下にでると、慌ただしくスタッフたちが行き来している。時間内に撤収作業を済まさなければならないため、時間との勝負だった。これから深夜まで作業が続く。
 熱気が漂うステージ裏は暑かったが、廊下は空調のおかげで幾分涼しさを感じる。
「その状態でよく最後までやり切ったな。ちゃんと挨拶もできてたから安心しろ」
 岸はねぎらうように言葉をかけた。カズも言っていたが、今日の遼のパフォーマンスは目を見張るものがあった。声もよく出ていたし、ダンスのキレもよかった。それにファンも気づいてたようで、遼への歓声がいつもより一段と大きかったと感じた。エゴサしてみれば一目瞭然だろう。
「最後はほとんど覚えてません。大丈夫でしたか?」
「問題なかったよ。ツアーは大成功だ」
 スケジュールが立て込むのなか、メンバーはよくやってくれた。サプライズでパフォーマンスした新曲はきちんと仕上げおり、ファンの反応は上々だった。
「よかった…」
 遼は安堵のため息をつく。肩の荷が降りたようだ。ツアー中にモチベーションを維持し続けるのは大変だっただろう。
「今ヶ瀬、楽しんでくれたかな」
「は?」
 思わぬ名前に、岸の口からは素っ頓狂な声が飛び出た。遼は不思議そうな表情をしているだけだった。
「なんで今ヶ瀬さんの名前…」
「え、言いました?」
「……ごめん、なんでもない」
 岸は首を横に振り、話を終わらせた。王輝の件については嘘をついてしまったので、気まずさがあった。遼の体調が回復したら、謝らなければならない。胸に一抹の後ろめたさを抱えながら、岸は遼を医務室へと連れていった。


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