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1-6.全部忘れさせて
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インターフォンで岸の姿を確認して、玄関に向かう。王輝に言われた通り、サンダルをシューズボックスに片付ける。早くなった鼓動を落ち着けるように深呼吸して、遼は玄関のドアを開けた。
「おはよう、朝から悪い。体調どうだ?」
岸は見慣れたスーツ姿だった。遼は身を引き、岸を部屋へ招き入れる。
「だいぶよくなったと思います」
「昨日より顔色はいいな。どうする?念のため医者に診てもらうか?」
「いや、大丈夫です」
廊下を歩きながら、遼と岸は会話をした。寝室のドアの前を通るとき、一瞬遼は緊張したが、岸は何も気にせずにリビングへと向かった。
「相変わらず綺麗にしてるな」
リビングを見まわした岸は、いくつも置いてある観葉植物が視界に入った。以前の騒動を思い出して懐かしくなる。岸も持って帰ったが、うまく世話をできずに枯らしてしまったのだ。面倒見のいい遼だからこそ、青々と植物が育っている。
「岸さん、話って何ですか?」
遼は辛抱できずに尋ねた。王輝のために岸には早く帰ってもらわなければいけない。それに話の内容も気になっていた。わざわざ顔を見に来てくれる岸の優しさを信用しているが、どちらかというと話のほうが本題ではないかと、遼は今までの付き合いから感じていた。
岸は昨日の嘘を謝るために来たが、面と向かっては謝りにくいと感じていた。立場上謝罪の機会は何度も経験しているが、意味合いが全然違う。良心の呵責に苛まれるが、今謝っておかないと後々拗れることは予想できた。
「実は謝ることがあって……」
「岸さんが?俺に?」
予想外の岸の話に、遼は心底驚いた。心当たりがない遼は首を傾げた。
「昨日のライブ、今ヶ瀬さんが来てるって言っただろ」
「はい」
遼は昨日のライブ直前の記憶思い返す。岸が王輝が来ていると教えてくれたことで、遼はライブに集中ができた。まさか、と遼の頭に嫌な予感が過る。これ以上は聞きたくないと遼が耳を塞ぐ前に、岸は言葉を発した。
「本当は来てなかったんだ」
すっと血の気が引いた感覚に、遼は足を踏ん張った。気を抜けば倒れそうだった。王輝が来ていなかったことが、こんなにもショックだなんて、想像していなかった。
「……そう、だったんですね……」
それだけ言うのがやっとで、遼は黙り込んでしまう。どうしても来れない理由があったと自らに言い聞かせる。それなら連絡をくれればいいのにと思ったが、王輝が来れないことを知った自分がライブを成功させた確率は低かっただろう。そもそも王輝が来る気はなく、チケットのことも建前だった可能性が高くなり、それもショックだった。
「嘘はつきたくなかったんだが、あのときリョウの様子を見て、本当のことは言えなかった」
岸の表情は暗い。優しい嘘だと遼は理解していたし、岸に嘘をつかせてしまったことを情けなく感じた。頭ではわかっていても、感情が追い付かない。遼は岸を心配させないように、静かに深呼吸し表情を制御した。
「俺こそすいません、気を遣わせたみたいで」
「リョウが謝ることじゃない」
「そんな、岸さんが謝ることじゃないですよ。ライブは成功したんだし、それでいいじゃないですか」
自分に言い聞かせるように、遼は言葉を紡いだ。自分がやるべきことは、Bloom Dreamの遼としてライブを成功させることだ。そのライブが成功したのだから、岸の嘘は功を奏したのだ。遼は無理やり自分を納得させた。
岸は遼が無理をしていることをわかっていたが、これ以上掘り下げてもいいことはないと判断した。遼の中で、これほどまでに王輝の存在が大きいと知れたことが、岸にとっては収穫だった。
「じゃあ午後からの打ち合わせ頼む」
これで話は終わりという合図のように、岸は遼の肩をぽんぽんと叩いた。遼が頷いたことを確認した岸は、玄関へと足を向けた。
岸の背中を追いかける遼は、寝室のドアが少し開いていることに気づき、鼓動が跳ねる。
「あ、そうそう、ショートムービーの件だけど」
岸が足を止めたのは、ちょうど寝室のドアの前だった。
「おはよう、朝から悪い。体調どうだ?」
岸は見慣れたスーツ姿だった。遼は身を引き、岸を部屋へ招き入れる。
「だいぶよくなったと思います」
「昨日より顔色はいいな。どうする?念のため医者に診てもらうか?」
「いや、大丈夫です」
廊下を歩きながら、遼と岸は会話をした。寝室のドアの前を通るとき、一瞬遼は緊張したが、岸は何も気にせずにリビングへと向かった。
「相変わらず綺麗にしてるな」
リビングを見まわした岸は、いくつも置いてある観葉植物が視界に入った。以前の騒動を思い出して懐かしくなる。岸も持って帰ったが、うまく世話をできずに枯らしてしまったのだ。面倒見のいい遼だからこそ、青々と植物が育っている。
「岸さん、話って何ですか?」
遼は辛抱できずに尋ねた。王輝のために岸には早く帰ってもらわなければいけない。それに話の内容も気になっていた。わざわざ顔を見に来てくれる岸の優しさを信用しているが、どちらかというと話のほうが本題ではないかと、遼は今までの付き合いから感じていた。
岸は昨日の嘘を謝るために来たが、面と向かっては謝りにくいと感じていた。立場上謝罪の機会は何度も経験しているが、意味合いが全然違う。良心の呵責に苛まれるが、今謝っておかないと後々拗れることは予想できた。
「実は謝ることがあって……」
「岸さんが?俺に?」
予想外の岸の話に、遼は心底驚いた。心当たりがない遼は首を傾げた。
「昨日のライブ、今ヶ瀬さんが来てるって言っただろ」
「はい」
遼は昨日のライブ直前の記憶思い返す。岸が王輝が来ていると教えてくれたことで、遼はライブに集中ができた。まさか、と遼の頭に嫌な予感が過る。これ以上は聞きたくないと遼が耳を塞ぐ前に、岸は言葉を発した。
「本当は来てなかったんだ」
すっと血の気が引いた感覚に、遼は足を踏ん張った。気を抜けば倒れそうだった。王輝が来ていなかったことが、こんなにもショックだなんて、想像していなかった。
「……そう、だったんですね……」
それだけ言うのがやっとで、遼は黙り込んでしまう。どうしても来れない理由があったと自らに言い聞かせる。それなら連絡をくれればいいのにと思ったが、王輝が来れないことを知った自分がライブを成功させた確率は低かっただろう。そもそも王輝が来る気はなく、チケットのことも建前だった可能性が高くなり、それもショックだった。
「嘘はつきたくなかったんだが、あのときリョウの様子を見て、本当のことは言えなかった」
岸の表情は暗い。優しい嘘だと遼は理解していたし、岸に嘘をつかせてしまったことを情けなく感じた。頭ではわかっていても、感情が追い付かない。遼は岸を心配させないように、静かに深呼吸し表情を制御した。
「俺こそすいません、気を遣わせたみたいで」
「リョウが謝ることじゃない」
「そんな、岸さんが謝ることじゃないですよ。ライブは成功したんだし、それでいいじゃないですか」
自分に言い聞かせるように、遼は言葉を紡いだ。自分がやるべきことは、Bloom Dreamの遼としてライブを成功させることだ。そのライブが成功したのだから、岸の嘘は功を奏したのだ。遼は無理やり自分を納得させた。
岸は遼が無理をしていることをわかっていたが、これ以上掘り下げてもいいことはないと判断した。遼の中で、これほどまでに王輝の存在が大きいと知れたことが、岸にとっては収穫だった。
「じゃあ午後からの打ち合わせ頼む」
これで話は終わりという合図のように、岸は遼の肩をぽんぽんと叩いた。遼が頷いたことを確認した岸は、玄関へと足を向けた。
岸の背中を追いかける遼は、寝室のドアが少し開いていることに気づき、鼓動が跳ねる。
「あ、そうそう、ショートムービーの件だけど」
岸が足を止めたのは、ちょうど寝室のドアの前だった。
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