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1-6.全部忘れさせて
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翌朝、二人はベッドで寄り添って眠っていた。王輝は何も身に着けず、遼は下着姿だ。
昨夜のセックスの後、王輝は意識を失うように眠ってしまった。一方、遼は体力の限界を感じていたが、気力を振り絞り、王輝の身体を綺麗にした。そして這う這うの体でシャワーを浴びた遼は、水分を浴びるほど摂った後、王輝の横に倒れこんだ。片付けなければならないと思いながら、急速に眠りについたのだった。そのためベッドの周囲には服や下着が散らばったままだ。
電話の着信音が鳴っているのに気づいて目を開けたのは遼だった。目の前に王輝の顔があり驚く。昨日のセックスを思い出して、かぁっと顔が熱くなったが、反芻しているところではなかった。
勢いよく起き、散らかった服に足を取られつつ、寝室を飛び出す。リビングに置いたままだったカバンの中からスマホを取り出した。画面を見ると「岸マネージャー」と表示されており、慌てて通話ボタンを押す。
「お疲れさまです、遼です」
「よかった、なかなか電話にでないから、倒れてるのかと思って心配した」
岸の声に、安堵が混じる。遼は「寝てて気づかなくて、すいません」とすぐに謝った。
「ちょっと部屋行っていいか?顔も見たいし、話したいこともあるし」
「え、これからですか?」
思わず遼は寝室の方を見てしまう。寝室には王輝が寝ている。
「うん、というか、実はエントランス前にいる」
「え?」
岸は遼のプライベートを考慮して、マンションの合鍵を持っていなかった。もしものときは管理人に鍵を借りるという話はついている。岸がマンションに入るためには、遼が内側からロックを解除する必要があった。
遼は一瞬悩む。体調を気にしてくれたのだから、岸の申し出を断るわけにもいかないし、断るのも変だ。岸が部屋に着く間に、寝室を片付けて、王輝を部屋に帰らせることはできるだろうか。悩んでいても仕方ないと、遼は腹を括った。
「…わかりました。入り口開けますね」
「おう」
「あ、散らかってるの片づけたいのでゆっくり来てください」
時間稼ぎのための一言に、岸からは笑いながら「はいはい」と返事が返ってきた。
遼は電話を切ると、リビングの壁に設置されているインターフォンを操作し、岸の姿が見えたのを確認して開錠した。岸がカメラに軽く手を振り、マンションに入っていく映像を横目で見ながら、遼は急いで寝室に戻る。
岸を寝室に入れるつもりはないが、ある程度は片付けておかなければならない。遼は床に散らばった衣服を拾い集めながら、王輝に声をかけた。
「今ヶ瀬、起きろ!」
ベッドの上で丸まるように眠っている王輝は、身じろぐが起きる気配はない。遼は王輝の肩を掴んで、大きく揺らした。
「やばい、今ヶ瀬、岸さんが来る」
「…なに?」
王輝は少し掠れた声をだし、目を擦りながら起き上がった。不機嫌そうな王輝の顔は、気持ちよく寝ていたのに起こされたことへの不満を表していた。
「急いで服を着ろ」
遼は拾った衣服の中から、王輝の下着と服をベッドの上に投げた。王輝はまだ寝ぼけているらしく、のんびりとあくびをしていた。遼はその間に自らの服を着る。ゴムのゴミやローションのボトルをまとめてゴミ箱につっこみ、寝室のクローゼットへと隠した。窓へ近づき、カーテンを開ける。眩しい日光が降りそそぐのを感じながら、換気するために窓を開けた。
「え、朝?何時?」
下着を履きながら、王輝は焦った声をだした。今日の仕事のスケジュールを思い出そうとするが、ひどく重い頭がそれを邪魔した。遅刻したかもしれないと王輝は嫌な汗をかく。
そのとき、チャイムの腑抜けた音が部屋に響いた。二人は顔を見合わせて、一瞬固まったが、弾かれたようにすぐに動き始めた。王輝はベッドから降りて急いで服を着、遼は乱れたベッドを整える。
「誰が来るって?」
「うちのマネージャー」
「は?なんで?」
「それはあとで説明するから」
遼は会話を切り上げた。玄関のドアの前には岸がいるため、これ以上話している時間はない。そして岸が来たということは、王輝は部屋に戻れなくなってしまったことを示していた。
王輝はようやく目が覚めてきて、現状を理解する。遼のマネージャーにバレるわけにはいかない。部屋には戻れないので、どこかに隠れるしかないと王輝は判断した。
「俺隠れるから、何とかしろよ」
「わかった。なるべく早く帰ってもらうようにする」
遼が寝室から出ていこうとすると、背中から「あ、俺のサンダル、隠しといて」と王輝の声が飛んできた。遼は頷いて、寝室のドアを閉めた。
昨夜のセックスの後、王輝は意識を失うように眠ってしまった。一方、遼は体力の限界を感じていたが、気力を振り絞り、王輝の身体を綺麗にした。そして這う這うの体でシャワーを浴びた遼は、水分を浴びるほど摂った後、王輝の横に倒れこんだ。片付けなければならないと思いながら、急速に眠りについたのだった。そのためベッドの周囲には服や下着が散らばったままだ。
電話の着信音が鳴っているのに気づいて目を開けたのは遼だった。目の前に王輝の顔があり驚く。昨日のセックスを思い出して、かぁっと顔が熱くなったが、反芻しているところではなかった。
勢いよく起き、散らかった服に足を取られつつ、寝室を飛び出す。リビングに置いたままだったカバンの中からスマホを取り出した。画面を見ると「岸マネージャー」と表示されており、慌てて通話ボタンを押す。
「お疲れさまです、遼です」
「よかった、なかなか電話にでないから、倒れてるのかと思って心配した」
岸の声に、安堵が混じる。遼は「寝てて気づかなくて、すいません」とすぐに謝った。
「ちょっと部屋行っていいか?顔も見たいし、話したいこともあるし」
「え、これからですか?」
思わず遼は寝室の方を見てしまう。寝室には王輝が寝ている。
「うん、というか、実はエントランス前にいる」
「え?」
岸は遼のプライベートを考慮して、マンションの合鍵を持っていなかった。もしものときは管理人に鍵を借りるという話はついている。岸がマンションに入るためには、遼が内側からロックを解除する必要があった。
遼は一瞬悩む。体調を気にしてくれたのだから、岸の申し出を断るわけにもいかないし、断るのも変だ。岸が部屋に着く間に、寝室を片付けて、王輝を部屋に帰らせることはできるだろうか。悩んでいても仕方ないと、遼は腹を括った。
「…わかりました。入り口開けますね」
「おう」
「あ、散らかってるの片づけたいのでゆっくり来てください」
時間稼ぎのための一言に、岸からは笑いながら「はいはい」と返事が返ってきた。
遼は電話を切ると、リビングの壁に設置されているインターフォンを操作し、岸の姿が見えたのを確認して開錠した。岸がカメラに軽く手を振り、マンションに入っていく映像を横目で見ながら、遼は急いで寝室に戻る。
岸を寝室に入れるつもりはないが、ある程度は片付けておかなければならない。遼は床に散らばった衣服を拾い集めながら、王輝に声をかけた。
「今ヶ瀬、起きろ!」
ベッドの上で丸まるように眠っている王輝は、身じろぐが起きる気配はない。遼は王輝の肩を掴んで、大きく揺らした。
「やばい、今ヶ瀬、岸さんが来る」
「…なに?」
王輝は少し掠れた声をだし、目を擦りながら起き上がった。不機嫌そうな王輝の顔は、気持ちよく寝ていたのに起こされたことへの不満を表していた。
「急いで服を着ろ」
遼は拾った衣服の中から、王輝の下着と服をベッドの上に投げた。王輝はまだ寝ぼけているらしく、のんびりとあくびをしていた。遼はその間に自らの服を着る。ゴムのゴミやローションのボトルをまとめてゴミ箱につっこみ、寝室のクローゼットへと隠した。窓へ近づき、カーテンを開ける。眩しい日光が降りそそぐのを感じながら、換気するために窓を開けた。
「え、朝?何時?」
下着を履きながら、王輝は焦った声をだした。今日の仕事のスケジュールを思い出そうとするが、ひどく重い頭がそれを邪魔した。遅刻したかもしれないと王輝は嫌な汗をかく。
そのとき、チャイムの腑抜けた音が部屋に響いた。二人は顔を見合わせて、一瞬固まったが、弾かれたようにすぐに動き始めた。王輝はベッドから降りて急いで服を着、遼は乱れたベッドを整える。
「誰が来るって?」
「うちのマネージャー」
「は?なんで?」
「それはあとで説明するから」
遼は会話を切り上げた。玄関のドアの前には岸がいるため、これ以上話している時間はない。そして岸が来たということは、王輝は部屋に戻れなくなってしまったことを示していた。
王輝はようやく目が覚めてきて、現状を理解する。遼のマネージャーにバレるわけにはいかない。部屋には戻れないので、どこかに隠れるしかないと王輝は判断した。
「俺隠れるから、何とかしろよ」
「わかった。なるべく早く帰ってもらうようにする」
遼が寝室から出ていこうとすると、背中から「あ、俺のサンダル、隠しといて」と王輝の声が飛んできた。遼は頷いて、寝室のドアを閉めた。
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