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8 彼が愛した女性《ひと》
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「更に心を大きく持ちたいなんて、マリア様にでもなりたいの?」
「そんな美しいものじゃありませんよ。強いて言えば……菩薩?」
今度は、ハハハッ、と声に出して笑う。
「何事にも動じず、何物をも許せる心が欲しいです」
「やめてよ。あなたがそんなに高尚な人間になっちゃったら、私も溝口も、恐れ多くて近寄れないわ」
「なれないから、なりたいんです」
「いいじゃない、感情のままに一喜一憂しても。すっごい俗物っぽい彩、見てみたいわ」
凪子さんの目には、私はどう映っているのか。
「幻滅しますよ」
「私なんて、酔った年下の同僚を喰っちゃうような女よ? 幻滅した?」
思わず、凪子さんが千堂課長を組み敷く姿を想像してしまった。
「……幻滅はしないけど、千堂課長の顔を直視できなくなりそう」
凪子さんがまた、ハハハッ、と笑った。それから、上司の顔、になった。
「で、冗談はさておき、何があったの?」
「奥山の件で、意見がぶつかりまして」
「私にできること、ある?」
「いえ」
いきなり上司に言いつけるような真似は、今後の仕事をやりにくくするだけだ。
恋人の元カノと言っても、上司。
「ただ――」
そうは言っても、彼女の言いなりになるつもりはない。
「今後、益井課長と衝突した時は、ご迷惑をおかけすると思います」
「……衝突するのも、迷惑をかけるのも、確定なのね」
「はい」
初戦は明日の奥山商事との打ち合わせ。二十四時間後には、戦闘開始のゴングが鳴っている。
私は益井課長に指示された見積書を作る気はないし、奥山商事との信頼関係を壊させもしない。
「いいわ。お手並み拝見といきましょう。その代わり、報告は怠らないように」
「――はい!」
公私混同するわけじゃない。
ただ、嫌いな上司が、恋人の元カノだっただけ。
私が足元にも及ばないような、デキた女性じゃなくて良かったのかも。
智也に惨めな思いをさせないためにも、頑張らなきゃ。
気合は十分。
私は少し、わくわくしていた。
「そんな美しいものじゃありませんよ。強いて言えば……菩薩?」
今度は、ハハハッ、と声に出して笑う。
「何事にも動じず、何物をも許せる心が欲しいです」
「やめてよ。あなたがそんなに高尚な人間になっちゃったら、私も溝口も、恐れ多くて近寄れないわ」
「なれないから、なりたいんです」
「いいじゃない、感情のままに一喜一憂しても。すっごい俗物っぽい彩、見てみたいわ」
凪子さんの目には、私はどう映っているのか。
「幻滅しますよ」
「私なんて、酔った年下の同僚を喰っちゃうような女よ? 幻滅した?」
思わず、凪子さんが千堂課長を組み敷く姿を想像してしまった。
「……幻滅はしないけど、千堂課長の顔を直視できなくなりそう」
凪子さんがまた、ハハハッ、と笑った。それから、上司の顔、になった。
「で、冗談はさておき、何があったの?」
「奥山の件で、意見がぶつかりまして」
「私にできること、ある?」
「いえ」
いきなり上司に言いつけるような真似は、今後の仕事をやりにくくするだけだ。
恋人の元カノと言っても、上司。
「ただ――」
そうは言っても、彼女の言いなりになるつもりはない。
「今後、益井課長と衝突した時は、ご迷惑をおかけすると思います」
「……衝突するのも、迷惑をかけるのも、確定なのね」
「はい」
初戦は明日の奥山商事との打ち合わせ。二十四時間後には、戦闘開始のゴングが鳴っている。
私は益井課長に指示された見積書を作る気はないし、奥山商事との信頼関係を壊させもしない。
「いいわ。お手並み拝見といきましょう。その代わり、報告は怠らないように」
「――はい!」
公私混同するわけじゃない。
ただ、嫌いな上司が、恋人の元カノだっただけ。
私が足元にも及ばないような、デキた女性じゃなくて良かったのかも。
智也に惨めな思いをさせないためにも、頑張らなきゃ。
気合は十分。
私は少し、わくわくしていた。
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